海外旅行に持っていく現金は、多額である必要はありません。決めるべきことは「申告が必要になる金額のライン」と「現金でしか払えない場面」の2つだけです。この記事では、日本と渡航先の申告ルール、国内のキャッシュレス化の状況、現金やカードを安全に持ち歩く方法の順に見ていきます。
結論:金額より先に決めるべき2つのこと
持っていく現金は、金額から考え始めると必ず迷います。先に決めるべきは上限と下限の2つです。
- 上限=申告ライン:日本は100万円相当額超、米国は1万米ドル超、EUは1万ユーロ以上で申告が必要になります
- 下限=現金しか使えない支出:空港からの移動、チップ、屋台や個人商店などを積み上げて出します
この2つに挟まれた範囲が、あなたが持つべき金額です。多くの旅行者にとって上限が問題になることはまずありません。実際に迷うのは下限のほうです。
日本を出るとき・戻るときのルールから、順に確認しておきましょう。
日本を出るとき/戻るときの申告ライン(100万円)

結論から言うと、100万円相当額を超える現金等を持って出入国する場合、税関への申告書提出が必要です。
税関の定めでは、100万円相当額を超える現金等を携帯して出国・入国する場合、「支払手段等の携帯輸出・輸入申告書」を提出しなければなりません。北朝鮮を仕向地とする輸出は10万円が基準になります。
申告対象になるもの
- 現金:本邦通貨・外国通貨の合計額
- 小切手:トラベラーズ・チェックを含む
- 有価証券:約束手形、株券、国債など
- 金の地金:純度90%以上かつ重量1kg超の場合
外国通貨の円換算は、税関ホームページの為替相場を使います。申告場所は、機内預け荷物なら出発ロビー内の税関事務室、機内持ち込みなら出国審査場前の税関出国カウンター、入国時は税関検査場です。申告書は空港・港の税関に備え付けられており、税関ホームページからA4で印刷することもできます。現物の確認を求められる場合もあります。
出典: 税関「支払手段等の携帯輸出入の手続」/確認日 2026-08-11
では、海外に着いた先の申告ラインはどうなっているのでしょうか。
渡航先の申告ラインは国ごとに違う
申告が必要になる金額は国ごとに異なります。日本・米国・EUでは基準そのものが違うため、渡航先ごとに確認が必要です。
米国の基準
米国に出入国する際は、1万米ドルを超える通貨や金融商品を持つ場合、CBP(税関国境警備局)への申告(FinCEN Form 105)が必要です。家族やグループで移動する場合は、合計額で1万ドルを超えるかどうかを判定します。対象は米ドルや外国通貨の硬貨・紙幣、トラベラーズチェック、無記名式の譲渡性証券などです。未申告や虚偽申告には民事・刑事の罰則があり、状況によっては最大50万ドルの罰金と10年以下の拘禁が科されます。現金そのものが差し押さえ・没収の対象になることもあります。
出典: U.S. Customs and Border Protection “Money and Other Monetary Instruments”/確認日 2026-08-11
EUの基準
EU域内に入る、またはEU域外へ出る際は、1万ユーロ以上の現金を持つ人は、通過する加盟国の当局に申告し、検査に応じる必要があります。EUの規則における「現金」には、銀行券だけでなく、小切手やトラベラーズチェック、プリペイドカード、金も含まれます。申告では、氏名や国籍、生年月日、現金の額と種類、出所、使途、輸送方法を届け出ます。この規則は2021年6月3日から適用されています。
出典: Regulation (EU) 2018/1672/確認日 2026-08-11
| 地域 | 申告が必要な金額 | 主な対象 |
|---|---|---|
| 日本 | 100万円相当額超 | 現金・小切手・有価証券など |
| 米国 | 1万米ドル超(グループ合計) | 通貨・トラベラーズチェック等 |
| EU | 1万ユーロ以上 | 現金・小切手・プリペイドカード・金など |
上限はこれで押さえられました。では、実際に迷う「下限」はどう決めればよいのでしょうか。
下限は「積み上げ」で出す。相場を鵜呑みにしない
持っていく現金の下限は、相場を探すのではなく、自分の日程から積み上げて出します。旅行先も日数も人数も違う以上、他人の金額はそのまま使えないからです。
積み上げの手順
次の5項目を、渡航先の公式サイトで調べた金額で埋めていきます。空港や鉄道の運賃、施設の入場料は公式サイトに載っています。載っていない項目が「現金を用意しておく枠」です。
| 項目 | 調べ方 | 現金が要るか |
|---|---|---|
| 空港⇔ホテルの往復 | 鉄道・バスの公式運賃表 | 券売機が現金のみの場合あり |
| 市内の移動費 | 交通系ICカードの購入・チャージ | 初回チャージが現金のみの場合あり |
| 入場料・ツアー代 | 施設の公式サイト | 事前決済ならカードで完結 |
| 飲食・買い物 | 店の規模で判断 | 屋台・個人商店は現金が中心 |
| チップ・少額の心づけ | 渡航先の慣習 | 小額紙幣が必要 |
この表の右列で「現金」がついた項目だけを合計し、日数分を掛けます。そこに緊急用の予備を足した額が、持っていく現金の下限です。
カードで代替できる範囲は広がっている

経済産業省の発表では、2025年の日本国内のキャッシュレス決済比率は58.0%(162.7兆円)でした。内訳はクレジットカードが82.7%、デビットカードが3.4%、電子マネーが3.7%、コード決済が10.2%です。政府は2030年までに国際比較指標で55%という中間目標を掲げています。
出典: 経済産業省「2025年のキャッシュレス決済比率を算出しました」/確認日 2026-08-11
ただしこれは日本国内の数字であり、渡航先の事情を示すものではありません。渡航先の決済環境は、必ず現地の公式情報で確認してください。
とはいえ、現金にもカードにも盗難のリスクはあります。次に、安全な持ち方を見ていきます。
現金とカードを盗まれないための持ち方
外務省が紹介する事例(2004年掲載)は、海外のATMで暗証番号を盗み見られ、預金がほとんど無くなった被害を伝えています。
外務省海外安全ホームページの「海外邦人事件簿」(2004年4月12日掲載)に、パリでの被害事例があります。ATMにカードを入れたところ、機械が動かなくなりました。帰国後に確認すると、預金がほとんど無くなっていたという事例です。被害額は約30万円でした。
手口の仕組み
カード挿入口に細い針金で細工しておき、利用者が困っているところに親切を装って近付き、暗証番号を盗み見ます。利用者が諦めて立ち去った後、針金でカードを回収し、覚えた暗証番号で現金を引き出すという手口です。
- 引き落としは銀行開店時間に:外務省が挙げる助言の一つ
- 暗証番号は誰にも見せない:どんな場合でも徹底する
- 現金やカードを分散して持つ:一文無しになるリスクを避ける考え方
同ページは、現金やトラベラーズ・チェックを持ち歩かずに済む点を、カードの利点として挙げています。所持金を全部盗まれて一文無しになる危険がないためです。
出典: 外務省 海外安全ホームページ「海外邦人事件簿」Vol.16(2004年4月12日掲載)/確認日 2026-08-11
ここまでの内容を踏まえ、読者から多い疑問を整理します。
よくある質問
100万円ちょうどなら申告は不要ですか。
税関の定めは「100万円相当額を超える」場合が対象です。したがって、ちょうど100万円は申告の対象になりません。ただし外国通貨は為替相場で円換算されます。換算の結果100万円を超えることがあるため、余裕を持って判断してください。
家族で旅行する場合、申告ラインは1人あたりですか。
米国の基準では、家族やグループで移動する場合、合計額で1万ドルを超えるかどうかを判定します。1人あたりで分けても回避できません。日本やEUの基準については、各当局の案内で確認してください。
クレジットカードだけで旅行できますか。
渡航先の決済環境によります。空港の券売機や屋台など、現金しか使えない場面は残ります。上の積み上げ表で「現金」がついた項目を計算し、その分だけは用意しておくのが安全です。
クレジットカードやプリペイドカードも申告対象になりますか。
EUの規則では、現金の定義にプリペイドカードや金も含まれます。日本の税関ルールでは、小切手や約束手形、株券などの有価証券が申告対象です。
海外のATMは安全に使えますか。
外務省の事例では、ATM挿入口への細工や暗証番号の盗み見が報告されています。引き落としは銀行の開店時間に行い、暗証番号は誰にも見せないことが助言されています。
まとめ
海外旅行に持っていく現金額は、まず日本と渡航先の申告ラインを確認することから考えます。日本は100万円相当額超、米国は1万米ドル超、EUは1万ユーロ以上が申告の基準です。
下限は相場を探すのではなく、交通費・入場料・チップを自分の日程で積み上げて出します。国内のキャッシュレス比率は58.0%まで上がっており、カードで代替できる範囲は広がっています。
一方で、現金やカードを狙う手口もあります。暗証番号を見せない、置き場所を分けるといった基本を守り、必要な分だけを持って出発しましょう。