なぜ私は世界最高峰のコースで恥をかいたのか?
北アイルランドのロイヤル・ポートラッシュ・ゴルフクラブ。2019年に全英オープンが開催されたこの聖地で、私は人生最大のゴルフ的屈辱を味わいました。でも、だからこそお伝えできる「本当の攻略法」があるんです。
ベルファストから車で約1時間30分、アントリム海岸の断崖絶壁に佇むこのコース。1888年創設という歴史と、大西洋の荒波が織りなす絶景は、確かに息を呑むほど美しい。しかし、美しさの裏に隠された「罠」を知らずに挑むと、私のような悲劇が待っています。
失敗談その1:風を完全に甘く見た代償
プレー料金は平日でも約200ポンド(約35,000円)と決して安くはありませんが、「全英オープンコースなら当然」と意気込んでティーオフ。しかし、1番ホールから予想外の洗礼を受けました。
海からの風が想像以上に強烈だったのです。GPSで150ヤードと表示されているのに、7番アイアンで打った球はグリーン手前20ヤードにポトリ。現地のキャディーに「この風なら5番アイアンでしょう」と言われて愕然としました。
海風の影響は内陸コースの2倍以上と考えてクラブ選択することが、このコースでの鉄則です。特に午後になると風が強まるため、朝のティータイムを予約することを強くおすすめします。
コース設計の巧妙な罠にハマった瞬間
失敗談その2:14番ホール「カラマティ」の魔力
このコースで最も有名なのが14番パー3「カラマティ」です。大西洋を背景にした美しいホールですが、見た目に騙されてはいけません。距離は200ヤード弱と標準的ですが、グリーン周りの深いバンカーとラフが球を容赦なく飲み込みます。
私は景色に見とれて、グリーン右手前のバンカーに一直線。しかも、このバンカー、深さが2メートル近くあるんです。脱出に3打も要し、結果はトリプルボギー。同伴競技者からは「観光客あるある」と苦笑いされる始末でした。
攻略のコツは、グリーン中央よりやや左を狙うこと。右サイドは絶対に避けるべきエリアです。
失敗談その3:名物ホールの心理的プレッシャー
5番ホール「ホワイトロックス」では、ティーショットが谷越えになります。キャリーで約180ヤード必要なのですが、下に見える岩場があまりにも威圧的で、普段なら楽に越えられる距離なのに力んでしまいました。
結果、チョロでボールは谷底へ。ロストボールとなり、ティーイングエリアから3打目を打つ羽目に。メンタルゲームこそがロイヤル・ポートラッシュ最大の難しさだと痛感した瞬間でした。
知られざるコースの秘密と攻略法
実は、このコースには一般の観光客が知らない興味深い歴史があります。第二次世界大戦中は軍事訓練場として使われ、9ホールが一時的に閉鎖されていたのです。戦後の復旧工事で現在のレイアウトが完成しましたが、当時の面影を残すバンカーがいくつか存在します。
また、意外な事実として、ハリー・コルトが設計に関わった部分は実は少数で、多くのホールは地元の設計者によるものです。これが、他のコルト設計コースとは異なる独特の戦略性を生み出しています。
プレー前に必ずチェックすべきポイント
クラブハウスで受付を済ませる際、必ず潮の満ち引きの時間を確認してください。満潮時と干潮時では、海風の向きと強さが劇的に変わります。現地のプロショップスタッフは親切で、その日のコンディションに合わせたアドバイスをくれます。
営業時間は季節によって異なりますが、夏場(6-8月)は朝7時から夜8時頃まで。冬場は日照時間の関係で午後4時頃には最終組がスタートします。
リベンジラウンドで掴んだ真の攻略法
翌年、再びこのコースに挑戦した私。今度は万全の準備で臨みました。レインウェア、防風ウェア、そして何より謙虚な気持ちを携えて。
風向きを読むため、ティーグラウンドで草を撒いて確認。距離計は風の影響を計算した数値に補正。そして何より、景色を楽しみながらも集中を切らさない強いメンタルを保ちました。
結果は前回より15打改善。特に、現地のメンバーから教わった「グリーン周りではパターを多用する」という技が効果的でした。深いラフからのアプローチよりも、パターで転がした方が確実にピンに寄るのです。
プロが実践する秘密のルーティン
興味深いことに、全英オープン開催時にプロたちが実践していた準備方法があります。それはプレー3日前からの現地入りです。理由は風のパターンを把握するため。海風は時間帯によって180度向きが変わることもあり、一日だけの練習ラウンドでは到底把握しきれないのです。
私たち一般ゴルファーは3日も滞在できませんが、最低でも前日練習ラウンドは必須。併設の練習場で風の感覚を体に覚え込ませることが重要です。
コース以外の魅力と実用情報
プレー後のクラブハウスでの食事も格別です。名物のアイリッシュシチューは、海風に吹かれて冷えた体を温めてくれる絶品。地元産の牛肉とギネスビールで煮込んだ伝統料理で、約18ポンドです。
宿泊は車で10分のポートラッシュタウンがおすすめ。海辺のB&Bなら一泊60ポンド程度で、朝食付きです。オーナーの多くがゴルフ好きで、コース攻略のローカル情報を教えてくれることも。
意外と知られていない周辺観光
実は、ロイヤル・ポートラッシュから車で30分の場所にジャイアンツ・コーズウェイという世界遺産があります。六角形の玄武岩が連なる絶景スポットで、ゴルフ旅行と合わせて訪れる価値は十分。
また、近くにはオールドブッシュミルズ蒸留所もあり、世界最古のウイスキー蒸留所として知られています。プレー後の一杯に、現地でしか味わえない限定品を楽しめます。
次回挑戦する方へのアドバイス
このコースは確かに難易度が高く、初回は苦戦必至です。しかし、それこそがロイヤル・ポートラッシュの醍醐味。ゴルフの原点である「自然との対話」を存分に味わえる、世界でも数少ないコースの一つです。
予約は公式サイトから可能ですが、夏場は3ヶ月前には埋まってしまいます。平日狙いで、できれば朝一番のティータイムを確保することが成功の第一歩。
失敗を恐れず、むしろ失敗も含めて楽しむ気持ちで挑めば、きっと人生最高のゴルフ体験が待っています。私のような恥ずかしい失敗も、今となっては最高の思い出なのですから。