映画の舞台じゃない?カサブランカ旧市街の意外な真実
あの名作映画「カサブランカ」を思い浮かべてモロッコのカサブランカを訪れた私でしたが、実はこの映画、カサブランカでは一切撮影されていないという衝撃の事実を現地で知りました。それでも、いや、だからこそ、カサブランカ旧市街(メディナ)には映画以上にリアルで魅力的な物語が詰まっています。
この旧市街は、マラケシュやフェズの華やかさとは対照的に、素朴で庶民的な雰囲気が漂う場所です。観光地化されていない分、本当のモロッコ人の日常生活を垣間見ることができる貴重なエリアなのです。入場料は無料で、24時間いつでも散策できますが、安全面を考慮すると日中の訪問がおすすめです。
迷路のような路地で体験する本物の冒険
カサブランカ中央駅(Casa Port駅)から徒歩約15分でアクセスできる旧市街は、まるで時が止まったような空間です。GPS頼みの現代人には試練とも言える複雑な路地が入り組んでいますが、これこそが旧市街最大の魅力。地図アプリが使えない細い路地で、現地の人に道を尋ねながら歩く体験は、まさに生きた文化交流です。
路地裏グルメが教えてくれた「本当の美味しさ」とは?
観光地のレストランとは一線を画す、地元民御用達の小さな食堂が旧市街の真骨頂です。看板もメニューもアラビア語のみという店で、身振り手振りで注文したハリラスープ(1杯約20ディルハム)の美味しさは格別でした。
特に忘れられないのが、路地の奥にある小さなパン屋で出会ったホブズ(モロッコの伝統的なパン)です。朝6時から営業しているこの店では、石窯で焼きたてのパンを1個5ディルハムという破格の値段で味わえます。観光客向けのカフェでは体験できない、生活に根ざした本物の味がここにはあります。
言葉が通じなくても心が通じる瞬間
英語やフランス語が通じない場面も多いですが、笑顔と「シュクラン(ありがとう)」という簡単なアラビア語だけで、驚くほど温かい交流が生まれます。特に子供たちの人懐っこさには心を奪われること間違いありません。
職人街で目撃した消えゆく伝統技術
旧市街の一角には、今では珍しくなった伝統工芸の職人街が残っています。ここで出会った革職人のムスタファさん(仮名)は、なんと50年以上同じ場所で伝統的なバブーシュ(革のスリッパ)を手作りし続けているベテラン職人でした。
彼の工房では、牛革を手でなめし、伝統的な植物染料で色付けする全工程を見学できます。完成したバブーシュは1足150ディルハム程度で、大量生産品とは比べ物にならない品質です。ただし、職人さんは写真撮影を嫌がることもあるので、必ず事前に許可を得ることが大切です。
知られざる金属工芸の世界
さらに奥に進むと、銅製品の職人街があります。ここでは、モロッコ伝統のミントティーポットやランプシェードが手作りされており、金槌で叩く音が路地に響き渡ります。完全にオーダーメイドで、自分だけの一品を作ってもらうことも可能です(納期は通常3-5日)。
夕暮れ時に現れる旧市街の別の顔
日中の活気とは打って変わって、夕方5時頃からの旧市街には独特の静寂が訪れます。この時間帯は、マグリブ(日没の祈り)の時間に向けて、街全体が穏やかな雰囲気に包まれる特別な時間です。
近くのモスク・ムハンマド5世からアザーン(祈りの呼びかけ)が響く中、路地の所々から香辛料の香りが漂ってきます。この時間帯は観光客もぐっと減るので、より地元の生活に近い雰囲気を味わえます。
屋上テラスから望む絶景スポット
地元の人に教えてもらった隠れスポットが、旧市街内の古い建物の屋上です。小さなチップ(10-20ディルハム)を渡せば、屋上テラスから旧市街全体と大西洋を一望できる絶景を楽しめます。特に夕日の時間帯は、オレンジ色に染まる街並みが息をのむ美しさです。
失敗から学んだ旧市街散策の極意
初日に迷子になった経験から、旧市街での安全で楽しい散策方法を身につけました。まず絶対に必要なのは、現金の小分け保管です。ATMが少ないエリアなので、事前に50ディルハム札や20ディルハム札を多めに用意しておくと便利です。
また、金曜日の午後は多くの店が閉まるため、木曜日までの訪問をおすすめします。逆に土曜日の午前中は週末マーケットが開かれ、普段は見られない野菜や香辛料の露店が軒を連ねる活気ある光景を楽しめます。
地元の人だけが知る隠れ茶屋
迷子になったおかげで発見したのが、観光ガイドブックには絶対載っていない小さな茶屋でした。「Café Populaire」という看板もない店で、地元の男性たちがドミノゲームに興じながらアッツァイ(ミントティー)を楽しんでいます。1杯わずか7ディルハムで、砂糖たっぷりの本格的なミントティーが味わえます。
女性一人でも問題なく入れましたが、地元の習慣を尊重し、控えめな服装で訪れることが大切です。店主のアブドゥルさんは片言の英語で「Welcome to real Casablanca!」と迎えてくれ、観光地では味わえない温かいもてなしを受けました。
買い物で気をつけたいポイント
旧市街での買い物は値段交渉が基本ですが、最初に提示された価格の3分の1程度が適正価格の目安です。特にアルガンオイルやサフランなどの高級品は偽物も多いので、信頼できる店を見極めることが重要です。地元の人が実際に買い物している店を選ぶのが一番確実な方法でした。
帰国後も心に残る、忘れられない出会い
カサブランカ旧市街での3日間は、観光地化されていない本物のモロッコ文化に触れる貴重な体験でした。迷子になることを恐れず、計画通りにいかないことを楽しめる方には特におすすめです。
大型観光バスが入れない細い路地だからこそ味わえる静寂、現地の人との予期せぬ交流、そして何より「観光客向けではない本物」に出会える喜び。これらすべてが、カサブランカ旧市街でしか体験できない特別な魅力なのです。
次回モロッコを訪れる際も、必ずこの旧市街に足を運ぶでしょう。なぜなら、まだまだ発見していない隠れた宝物がきっとここには眠っているから。あなたも地図を手放して、心の赴くまま歩いてみてください。