アッシュビルの隠れた魅力に気づかず帰国した私が、2度目の旅で発見した「本当のアメリカ南部」

なぜ私は最初の旅でアッシュビルを見逃したのか?

ノースカロライナ州西部の山間にあるアッシュビル。人口9万人程度のこの街を、私は最初「ただの通過点」として考えていました。グレートスモーキー山脈国立公園への玄関口として1泊する程度の認識だったのです。しかし、それは大きな間違いでした。

アッシュビルは、ニューヨークから車で約5時間、アトランタから約4時間の距離にあります。多くの旅行者がそうであるように、私も大都市から大都市へと移動する途中で立ち寄っただけでした。ところが、地元の人に「明日出発するの?もったいない」と言われた一言が、私の旅を180度変えたのです。

「ビール天国」という予想外の顔に出会った瞬間

アッシュビルが「ビアシティUSA」と呼ばれていることを、あなたはご存知でしょうか?人口1万人あたりのクラフトビール醸造所数が全米トップクラスなのです。街の中心部だけで30以上のブルワリーがひしめき合っています。

私が最初に足を踏み入れたのはハイランド・ブルーイング・カンパニーでした。1994年創業のこの醸造所は、アッシュビルのクラフトビール文化の先駆けです。毎日午後2時から5時まで無料の醸造所ツアーを実施しており、醸造過程を間近で見学できます。ガイドの方が「アッシュビルの水は軟水で、どんなスタイルのビールにも適している」と説明してくれた時、なるほどと納得しました。

特に印象的だったのはバーリアル・ブルーイングです。元々は工場だった建物をリノベーションした空間で、天井の高さと工業的な雰囲気が独特の魅力を放っています。ここの「トゥルーリスト」というIPA(5ドル)は、柑橘系のホップが効いていて、旅の疲れを癒してくれました。

想像を超えた芸術の街としての一面

ビールだけではありません。アッシュビルは芸術の街でもあります。ダウンタウンを歩いていると、リバーアーツ地区に辿り着きます。フレンチ・ブロード川沿いに広がるこのエリアは、元々の工業地帯が芸術家たちのアトリエ群に生まれ変わった場所です。

200以上のアーティストが実際に制作活動を行っており、多くのスタジオが一般公開されています。私が訪れた陶芸工房では、職人が実演しながら「アッシュビル周辺の粘土は鉄分が多く、独特の色合いが出る」と教えてくれました。毎月第2土曜日には「スタジオストロール」というイベントがあり、午前10時から午後6時まで各アトリエを自由に見学できます(無料)。

知られざるアパラチア山脈の玄関口の魅力?

アッシュビルの標高は約650メートル。四方をブルーリッジ山脈に囲まれたこの立地が、街に独特の魅力をもたらしています。

車で30分も走ればブルーリッジ・パークウェイにアクセスできます。この風光明媚な道路は全長755キロメートルに及び、アッシュビル近辺は特に美しい区間として知られています。私が10月初旬に訪れた時は、紅葉が始まったばかりでしたが、それでも息を呑むような景色が広がっていました。

パークウェイ沿いにあるクラッグィー・ピナクル(標高1677メートル)までは、アッシュビルから車で約45分。山頂からの360度のパノラマビューは圧巻です。特に夕方の時間帯(午後4時頃)に訪れると、西日に照らされた山々が幻想的な表情を見せてくれます。

グルメシーンで発見した「新南部料理」の革命

アッシュビルの食文化は、伝統的な南部料理と現代的な調理法が融合した「ニューサウス料理」の宝庫です。

ラウンプは地元で最も評価の高いレストランの一つです。完全予約制(電話:828-505-8880)で、コースメニューは一人85ドルからですが、地元産の食材を使った創作料理は感動的でした。シェフが「アッシュビル周辺は小規模農場が多く、新鮮な野菜が手に入りやすい」と説明してくれたのが印象的です。

一方で、もっとカジュアルに楽しめるのがアーリー・ガール・イータリーです。朝7時から営業しており、地元産の卵を使ったベネディクトエッグ(12ドル)は絶品です。週末は特に混雑するため、平日の朝食利用がおすすめです。

実は隠れたアンティークとクラフトの聖地

アッシュビルには意外な一面があります。ビルトモア・アンティーク・マーケットは、75軒のディーラーが集まる巨大なアンティークモールです。営業時間は月曜から土曜が午前9時から午後6時、日曜が午前11時から午後6時まで。

ここで私が驚いたのは、アパラチア地方特有の手作り家具や工芸品の豊富さでした。特に「ムーンシャイン・ジャグ」と呼ばれる密造酒の容器は、この地域の歴史を物語る貴重な品々です。店主の話によると、「アッシュビル周辺は禁酒法時代に密造酒の製造が盛んだった」とのことで、当時の名残が今でもアンティークとして流通しているのです。

ビルトモア・エステートで体験する「アメリカ最大の個人邸宅」

アッシュビルを語る上で絶対に外せないのがビルトモア・エステートです。ヴァンダービルト家が1895年に建てた250室の邸宅は、今でもアメリカ最大の個人住宅として記録されています。

入場料は大人一人65ドルと決して安くはありませんが、その価値は十分にあります。営業時間は午前9時から午後5時まで(季節により変動あり)。私は朝一番に到着しましたが、それでも見学に丸一日かかりました。

特に圧巻なのは図書館です。1万冊以上の蔵書と、天井まで届く書棚の美しさは息を呑みます。また、地下にあるボーリング場は1900年代初頭のものがそのまま保存されており、当時の富裕層の娯楽を垣間見ることができます。

エステート内のワイナリーでは、敷地内で栽培されたブドウを使ったワインの試飲が可能です(5種類で15ドル)。特に「シャルドネ・リザーブ」は、ノースカロライナ州のワインとは思えない上質な仕上がりでした。

地元の人だけが知る「ホットスプリングス」への小旅行

アッシュビルから車で北西に約45分走ると、ホットスプリングスという小さな町があります。人口わずか500人程度のこの町は、アパラチアン・トレイルが町のメインストリートを通る唯一の場所として知られています。

ここの見どころはホットスプリングス・リゾート&スパです。天然温泉を利用した屋外ジャグジーからは、フレンチ・ブロード川の美しい景色を楽しめます。1時間の利用料金は25ドルで、タオルレンタルは5ドル追加です。営業時間は午前10時から午後10時まで。

温泉に浸かりながら地元の方と話していると、「ここの温泉は19世紀後半から療養地として利用されていた」という歴史を教えてもらいました。実際、お湯の温度は約40度で、ミネラル成分が豊富に含まれています。

気をつけておきたい実用的なアドバイス

アッシュビル観光で注意すべき点がいくつかあります。まず、駐車場の確保です。ダウンタウンエリアの路上駐車は時間制限があり、違反すると25ドルの罰金が科せられます。おすすめは「ラングレン・パーキング・ガレージ」(1時間2ドル)です。

また、標高による気温差も要注意です。アッシュビル市内と山間部では5度以上の気温差があることも珍しくありません。私は薄着で出かけて後悔した経験があります。

レストランの予約は、特に週末は必須です。人気店は1週間前でも満席ということがよくあります。また、多くのクラフトビール醸造所は日曜日の営業時間が短いか、休業している場合があるので事前確認をお忘れなく。

なぜアッシュビルは「2度目のアメリカ旅行」に最適なのか

アッシュビルの魅力は、ありのままのアメリカ南部文化を体験できることです。ニューヨークやロサンゼルスのような大都市では味わえない、地に足の着いた暮らしぶりや人々の温かさに触れることができます。

街の規模も適度で、徒歩で主要な観光地を回ることが可能です。ダウンタウンの端から端まで歩いても20分程度。それでいて、ビール、アート、自然、歴史、グルメと多彩な魅力が凝縮されています。

私がアッシュビルで最も印象深かったのは、地元の人々の誇りでした。「小さな街だけど、ここにしかないものがたくさんある」という言葉通り、確かにこの街には他では体験できない特別な何かがありました。急がず、のんびりと街の空気を吸いながら過ごす時間こそが、アッシュビル最大の贈り物なのかもしれません。