イタリア南部の宝石と呼ばれるアマルフィ海岸。憧れのリゾート地として名高いこの場所ですが、実際に行ってみると「え、こんなはずじゃなかった…」と驚くことばかりでした。美しい写真に惹かれて計画を立てた私が、現地で直面した想像以上の現実をお話しします。これから訪れる方には、ぜひ知っておいてほしい情報ばかりです。
アマルフィの道路事情は想像を絶する険しさ?
アマルフィ海岸で最初に驚かされるのが、その道路の険しさです。SS163号線(アマルフィターナ)は、幅わずか3メートル程度の細い道路で、断崖絶壁に沿って蛇行しています。バスでの移動中、対向車とすれ違う際には息を止めてしまうほどスリリングな体験でした。
ナポリからアマルフィまでは約65キロメートルの距離ですが、この曲がりくねった道路のため約2時間30分かかります。車酔いしやすい方は、乗車前に酔い止め薬を服用することを強くお勧めします。私自身、普段は車酔いしないのですが、このドライブでは少し気分が悪くなってしまいました。
興味深いことに、この道路は1840年代に建設が始まり、当時としては驚異的な土木工事でした。岩盤を削り、トンネルを掘り抜いて作られたこの道は、まさに人類の執念の結晶と言えるでしょう。現在でも修復工事が頻繁に行われており、時には一方通行規制がかかることもあります。
ベストシーズンの罠にハマった私の失敗談
多くの観光ガイドでは5月から9月がベストシーズンと書かれていますが、これには大きな落とし穴があります。特に7月と8月は観光客が集中し、アマルフィの人口が通常の10倍以上に膨れ上がるのです。
私が8月に訪れた際、メインストリートは人であふれかえり、写真撮影どころか歩くのも困難でした。有名なアマルフィ大聖堂への入場には1時間以上の待ち時間があり、料金も夏季は8ユーロと高めに設定されています(冬季は5ユーロ)。営業時間は9時から19時ですが、混雑を避けるなら朝一番の来訪がおすすめです。
実は、地元の人に聞いた話では、4月下旬から5月上旬、そして9月下旬から10月上旬が「真のベストシーズン」なのだそうです。この時期なら気温は20度前後と過ごしやすく、観光客も適度な数で、ゆっくりと街を楽しむことができます。
隠れた名所「紙の博物館」が教えてくれた歴史の深さ
多くの観光客が見落としてしまうのが、アマルフィ紙の博物館(Museo della Carta)です。実は、アマルフィは13世紀からヨーロッパ有数の製紙業の中心地だったのです。アラビア商人との交易を通じて製紙技術がもたらされ、「アマルフィ紙」として高い品質で知られていました。
この博物館は元製紙工場を改装したもので、入場料は4ユーロ。営業時間は10時から18時30分(冬季は17時30分まで)です。ヴァッレ・デイ・ムリーニ地区にあり、アマルフィの中心部から徒歩約10分の場所にあります。
館内では実際に手作り紙を作る工程を見学できます。職人さんが丁寧に説明してくれる様子は、まるで中世にタイムスリップしたかのような感覚を味わえます。お土産として購入できる手作りの便箋や名刺入れは、他では手に入らない特別な品です。
レモンの香りに包まれた絶品グルメ体験
アマルフィと言えば、巨大なアマルフィレモンが有名です。通常のレモンの2倍以上の大きさがあり、皮が厚く香りが強烈なのが特徴です。このレモンから作られるリモンチェッロは、アルコール度数30度前後の食後酒として親しまれています。
地元のトラットリアで必ず食べてほしいのがスパゲッティ・アル・リモーネです。アマルフィレモンの皮を削ったものとパルミジャーノチーズ、オリーブオイルというシンプルな組み合わせですが、その爽やかさは格別です。価格は12~18ユーロ程度で、ほとんどのレストランで提供されています。
意外な発見だったのが、レモンを使った前菜の数々です。レモンの葉で包んだモッツァレラチーズや、レモンピールのサラダなど、日本では考えられない使い方に驚きました。特にレモンの葉の香りが移ったモッツァレラは、一度食べたら忘れられない味でした。
宿泊で気づいた「崖っぷちホテル」の現実
アマルフィの多くのホテルは、文字通り崖の上に建てられています。景色は確かに素晴らしいのですが、エレベーターがないホテルが多く、スーツケースを持っての移動は想像以上に大変でした。特に海沿いのホテルでは、メインロードから徒歩で10分以上の階段を下らなければならない場合もあります。
私が宿泊した4つ星ホテルでは、部屋からの眺めは絶景でしたが、最寄りのバス停まで急な坂道を15分歩く必要がありました。料金は1泊200ユーロでしたが、立地の不便さを考えると割高に感じました。アマルフィ中心部のホテルは数が限られているため、6月から9月の宿泊は3ヶ月前の予約が必要です。
地元の人が教えてくれたコツは、アトラーニ村での宿泊です。アマルフィから徒歩20分、バスで5分の距離にあり、宿泊費が半額程度で済みます。人口わずか900人のこの小さな村は、映画「アマルフィ 女神の報酬」のロケ地としても使われました。
交通手段の選択が明暗を分けた体験談
アマルフィ観光で最も重要なのが交通手段の選択です。SITA社のバスが最も一般的で、ナポリからアマルフィまで片道4.5ユーロです。しかし夏季は満席になることが多く、立ち席での2時間30分は相当な覚悟が必要です。
私が後悔したのは、レンタカーを借りなかったことです。確かに運転は困難ですが、早朝や夕方なら交通量が少なく、自分のペースで観光できます。ポジターノやラヴェッロへの移動も自由自在です。ただし、アマルフィ中心部の駐車場は1日25ユーロと高額で、予約制のところが多いのが難点です。
最も快適だったのは、ナポリからのフェリー利用です。4月から10月まで運航しており、所要時間1時間20分、料金は20ユーロです。海上からアマルフィ海岸を眺める景色は、陸路では味わえない感動がありました。波しぶきを感じながら近づく白い街並みは、まさに映画のワンシーンのようでした。
現地で学んだ「真のアマルフィ」の楽しみ方
観光地としてのアマルフィも素晴らしいですが、現地の生活に少し触れる体験が最も印象に残りました。朝6時頃、漁師たちが水揚げした魚を市場で売る様子や、おばあちゃんたちが階段に座って世間話をする風景は、ガイドブックには載っていない貴重な光景でした。
サンタンドレア広場周辺のカフェで現地の人々に混じってエスプレッソを飲む時間は、観光の疲れを忘れさせてくれます。1杯1.2ユーロという安さも魅力的です。地元の人は皆フレンドリーで、片言のイタリア語でも一生懸命コミュニケーションを取ろうとしてくれました。
夕暮れ時のルナ・コンヴェント付近からの眺めは、多くの観光客が帰った後の静寂に包まれたアマルフィを一望できます。オレンジ色に染まる空と海、そして白い建物のコントラストは、言葉では表現できない美しさでした。この瞬間のために、すべての困難が報われたと感じました。