テキサス州の州都オースティンと聞いて、カウボーイハットを被った人々とBBQしか思い浮かばないなら、この街の本当の魅力を見逃しています。実際に足を運んでみると、「Keep Austin Weird(オースティンを変なまま保とう)」という合言葉通り、予想を裏切る体験の連続でした。
音楽の街?実は毎日がフェスティバル状態だった
オースティンが「ライブミュージックの世界的首都」と呼ばれる理由を、到着初日の夜に思い知らされました。平日の火曜日なのに、6th Streetには生演奏が響き渡り、Red River Cultural Districtでは無名のバンドが驚くほど高いレベルの演奏を披露しています。
驚いたのは入場料の安さです。多くのライブハウスが10ドル以下、中には5ドルで一晩中音楽を楽しめる場所も。The Continental Clubでは火曜日の夜、地元のレジェンド級ミュージシャンが当たり前のように出演します。営業時間は午後2時から深夜2時まで、場所は1315 S Congress Aveにあります。
面白いのは、昼間でも音楽が街に溢れていること。Zilker Parkでは平日の午後でも即席のセッションが始まり、通りすがりの人が楽器を持参して参加する光景が日常です。これぞオースティンならではの体験でしょう。
フードトラック天国で本当に美味しいのは?
「BBQの本場だからBBQを食べなきゃ」と思って訪れましたが、オースティンの真の魅力は多様性にありました。市内には1000台以上のフードトラックが点在し、世界各国の料理が楽しめます。
特に印象的だったのがSouth First Trailer Parkエリア。ここでは韓国系アメリカ人が作る本格的なキムチタコス、エチオピア料理、そして意外にもベトナム風バインミーが絶品でした。1つ8〜12ドルと手頃な価格で、ボリュームも十分です。
もちろんBBQも外せません。Franklin Barbecueは有名すぎて2時間待ちが当たり前ですが、地元の人に教えてもらったla Barbecue(2401 E Cesar Chavez St)なら30分程度の待ち時間で、同レベルの味が楽しめます。営業時間は午前11時から午後9時まで、日曜日は午後6時で閉店です。
バットブリッジって何?夕暮れ時の驚愕体験
オースティン最大の「え、そんなのがあるの?」体験がCongress Avenue Bridgeでのバット観察です。北米最大のコウモリのコロニーが橋の下に住み着いており、夕暮れ時に一斉に飛び立つ様子が見られます。
3月から10月がベストシーズンで、特に7月〜9月には約150万匹のコウモリが空を埋め尽くします。観察は無料で、午後8時頃から約45分間続きます。橋の上から見るのも良いですが、Town Lakeからカヤックで見上げる体験は格別でした。
地元の人に聞いた裏話ですが、1980年代に橋を改修した際、偶然にもコウモリにとって理想的な住環境ができあがったのだとか。最初は住民も困惑したそうですが、今では観光資源として年間10万人が訪れています。
テキサス大学エリアに隠された文化的宝庫
単なる大学見学のつもりで訪れたUniversity of Texas at Austinキャンパスでしたが、ここには意外な文化スポットが点在していました。
Blanton Museum of Artでは現代アートの傑作が無料で鑑賞できます(特別展示は有料)。火曜日から金曜日は午前10時から午後5時、週末は午前11時から午後5時の営業です。特に注目すべきは、エリスワース・ケリーの巨大なカラーパネル作品群です。
さらに驚いたのがHarry Ransom Center。ここにはグーテンベルク聖書の完本や、ボブ・ディランの手書き原稿など、文学・芸術史の貴重な資料が展示されています。入場無料で月曜日から金曜日の午前10時から午後5時、土日は正午から午後5時まで開館しています。
Keep Austin Weirdを体現する隠れスポット
オースティンの真骨頂は、予想もしないところに現れる「変わった」体験です。South Lamar Boulevardを歩いていると、突然巨大な壁画が現れたり、古い教会がレコード店に改装されていたりします。
特に印象深かったのがCathedral of Junk。個人の裏庭に作られたガラクタのアート作品ですが、事前予約制で見学可能です。所有者のVince Hannemann氏が30年かけて作り上げた高さ20フィートの構造物は、まさにオースティン精神の象徴でした。
もう一つのユニークスポットがMuseum of the Weird(412 E 6th St)。入場料15ドルで、世界中から集められた奇妙なコレクションが楽しめます。平日は正午から午後11時、金土は深夜0時まで営業しています。一見B級観光地に見えますが、展示品の背景にある文化的ストーリーが興味深く、予想以上に学びがありました。
地元の人だけが知る穴場カフェ文化
オースティンのカフェ文化も侮れません。Radio Coffee & Beer(4204 Manchaca Rd)では、その名の通りコーヒーとクラフトビールを同時に楽しめます。朝6時から夜10時まで営業し、地元アーティストの作品展示スペースも併設されています。
さらにディープなのがBennu Coffee。24時間営業の店舗もあり、深夜でも地元の大学生やミュージシャンで賑わっています。ここの自家焙煎コーヒーは、大手チェーンでは味わえない複雑な風味が楽しめました。
実際に行って分かった注意点とコツ
オースティン観光で気をつけたいのは交通事情です。ダウンタウンエリアは一方通行が多く、レンタカーよりBirdやLimeなどの電動スクーターが便利でした。1回の利用で3〜8ドル程度、15分程度の距離なら徒歩より格段に楽です。
宿泊については、South by Southwest(SXSW)期間中(3月中旬)とF1開催時(10月)は料金が3倍以上に跳ね上がります。これらのイベント時期を避ければ、1泊100ドル前後でダウンタウンの良質なホテルに泊まれます。
食事の際は現金を持参することをお勧めします。特にフードトラックはカード決済に対応していない場合があり、ATM手数料を考慮すると現金の方が経済的です。
最後に、オースティンで最も印象に残ったのは人々の温かさでした。道に迷っていると声をかけてくれる地元の人、音楽の話で盛り上がったバーテンダー、おすすめスポットを教えてくれたフードトラックの店主。「Keep Austin Weird」は単なるスローガンではなく、多様性を受け入れる寛容な精神を表していることを、肌で感じることができました。