ケンブリッジ観光で絶対に避けたい「観光客トラップ」と地元民だけが知る本当の楽しみ方

「学問の街」として世界的に有名なケンブリッジ。でも実際に行ってみると、想像していた静寂な大学都市とは全く違う一面に驚かされます。観光バスが次々と到着し、狭い石畳の道は人でごった返し、「あれ、こんなはずじゃなかった…」と感じる旅行者も少なくありません。

私も初めてケンブリッジを訪れた時は、まさにその一人でした。キングス・カレッジの前で写真を撮ろうとしても人だかりで近づけず、有名なパンティング(川下り)は2時間待ち。せっかく憧れの地に来たのに、なんだかテーマパークのような慌ただしさに戸惑ったものです。

朝8時前のケンブリッジが別世界すぎる理由

でも翌朝、早起きして8時前にホテルを出ると、そこには全く別の顔を持つケンブリッジがありました。石畳に朝露が光り、カレッジの古い建物に朝日が差し込む様子は、まるで中世にタイムスリップしたかのよう。

特にキングス・カレッジ・チャペルの前は、この時間なら独り占め状態。入場料は大人12ポンド(約2,100円)で、開館は午前9時30分からですが、外観だけでも十分にその荘厳さを感じられます。朝の静けさの中で見上げる尖塔は、観光客でごった返す日中とは比べ物にならない感動を与えてくれます。

実は地元の学生たちも、この早朝の時間帯を「ケンブリッジの本当の顔」と呼んでいます。午前8時頃になると、ガウンを着た学生たちが静々と歩いている姿に出会えることも。これこそが、多くの人がケンブリッジに抱く憧れの光景そのものなのです。

地元民が教えてくれた「本物の学生生活」を垣間見る方法

カフェ「Fitzbillies」で朝食を取っていた時、隣席のケンブリッジ大学の学生に話しかけられました。彼女が教えてくれたのは、観光ガイドには載っていない「リアルな学生生活」を感じられるスポット。

平日の午後2時頃、セント・ジョンズ・カレッジの中庭では、実際に講義を終えた学生たちが芝生で読書やディスカッションをしている光景が見られます。入場料は大人10ポンドですが、ここで見る学生たちの自然な姿は、まさに「生きた大学」そのもの。観光地化された部分では味わえない、本物の学問の雰囲気を感じられます。

パンティングの「2時間待ち地獄」を華麗に回避するには?

ケンブリッジ観光の目玉であるパンティング(川下り)。でも人気のシルバー・ストリート・ブリッジ付近は、特に週末や夏季は大混雑します。料金は一人約22ポンド、所要時間は45分程度ですが、待ち時間を含めると半日がかりになることも。

地元の人に教えてもらった抜け道は、少し離れたジーザス・グリーンからの乗船。ここなら待ち時間はほぼゼロで、しかも料金は18ポンドと若干安め。川沿いの景色も美しく、観光客向けの喧騒から離れてゆったりとした時間を過ごせます。

さらに驚いたのは、パンティングのボートを漕ぐ学生アルバイトたちの博識ぶり。彼らの多くが実際にケンブリッジ大学の学生で、建物の歴史から大学の裏話まで、ガイドブック以上に詳しい解説をしてくれます。チップとして2-3ポンド渡すと、さらに興味深い話が聞けることも。

実は川から見える「禁断の中庭」がある?

パンティング中に通るバック川沿いには、普段は一般公開されていないカレッジの裏庭が点在しています。特にクイーンズ・カレッジの川沿いの庭園は、陸からは絶対に見ることができない隠れた美しさがあります。

ボートの上から見える数学橋(Mathematical Bridge)も、実は地上から見るよりも川面からの角度の方が美しいのです。この橋にまつわる「ニュートンが釘を使わずに設計したが、後に修理する際に釘を使ってしまった」という話は実は都市伝説。本当は1749年に建設され、ニュートンの死後20年以上経ってからのものなんです。

イーグル・パブで体験する「DNAの奇跡」

ケンブリッジで絶対に訪れるべきなのがイーグル・パブ(The Eagle)。1353年創業の歴史あるパブですが、ここが世界史に名を刻んだのは1953年のこと。ワトソンとクリックがDNAの二重らせん構造を発見した発表を、このパブで行ったのです。

パブの営業時間は午前11時から午後11時まで。ランチタイムには「DNAバーガー」(12.95ポンド)なる記念メニューもありますが、本当に注目すべきは2階の「RAF Room」。第二次世界大戦中、イギリス空軍の兵士たちがロウソクの煙で天井に書いた名前や部隊名が、今でもそのまま残されています。

地元の常連客に聞いた話では、平日の午後5時頃に訪れると、実際にケンブリッジ大学の研究者たちがビールを片手に研究について議論している光景を目撃できるかもしれません。彼らの会話に耳を傾けていると、まさに科学の最前線が日常的に語られる場所だということを実感します。

天井の落書きが語る戦争の記憶

RAF Roomの天井を見上げると、「Jimmy Miller 1943」「Squadron 617」といった文字が薄っすらと読み取れます。これらの多くは、ヨーロッパ戦線に向かう前夜に書かれたもの。戦後生還できなかった兵士たちの名前も含まれているため、パブのスタッフは清掃の際も決してこの天井には触れません。

歴史好きの私にとって、これ以上に胸を打つ「生きた戦争遺跡」はありませんでした。観光地として整備された場所では味わえない、生々しい人間ドラマがそこにはあります。

フィッツビリーズのチェルシーバンで起きた「事件」

フィッツビリーズ(Fitzbillies)は1922年創業の老舗ベーカリーで、名物のチェルシーバン(4.50ポンド)は絶対に味わうべき一品です。でも実際に食べてみると、想像以上にべたつくシナモンロールで、慣れない人は食べ方に困ってしまいます。

私が初めて注文した時、隣のテーブルの地元マダムが「フォークとナイフを使いなさい」と親切に教えてくれました。手で食べようとすると確実に手がべとべとになり、服にもシロップが付いてしまうのです。営業時間は午前7時30分から午後6時まで(日曜は午前8時30分から)。

地元の学生たちは、このチェルシーバンを「ケンブリッジの洗礼」と呼んでいるそう。きれいに食べられるようになれば、もう立派なケンブリッジ通というわけです。

避けるべき「観光客トラップ」の実態

キングス・パレード沿いの土産物店は、正直言って避けた方が無難です。ケンブリッジ大学のロゴが入ったマグカップが25ポンドもしたり、中国製のスカーフに「Cambridge」と刺繍しただけのものが高額で売られています。

本当におすすめなのは、大学の公式ブックショップ「Cambridge University Press Bookshop」。ここなら正真正銘の大学グッズが適正価格で購入でき、学術書も豊富に揃っています。営業時間は月曜から土曜が午前9時から午後6時、日曜が午前11時から午後5時です。

地元民が絶対に近づかない「あの場所」

マーケット・スクエアの中央部は、地元の人はあまり近づきません。理由は単純で、観光客向けの価格設定になっているから。同じ商品でも、少し離れたシドニー・ストリートの方が3割は安く購入できます。

また、ランチタイムのセント・ベネット教会周辺は、観光バスの駐車場になるため大変混雑します。静寂な教会の雰囲気を味わいたいなら、午前10時前か午後3時以降がおすすめです。

ケンブリッジ駅からの「意外と遠い」現実

ケンブリッジ駅から市中心部まで、実は徒歩で約20分かかります。重いスーツケースを持っていると、石畳の道はかなりの負担。駅前のタクシーは約8-10ポンドで市内中心部まで運んでくれますが、平日の朝夕は渋滞で時間がかかることも。

おすすめは駅前から出ているCiti 1バス。2.20ポンドで市内中心部まで約15分、10分間隔で運行しています。地元民の多くがこのバスを利用しているため、車内で聞こえる会話からケンブリッジの日常を垣間見ることができます。

ロンドンからの日帰り観光も可能ですが、キングス・クロス駅からケンブリッジまでの電車は片道約1時間、往復チケットで35-50ポンド程度。意外と交通費がかかることも計算に入れておきましょう。

結局のところ、ケンブリッジの本当の魅力は、観光地としての華やかさよりも、800年以上続く学問の伝統が今も息づく日常の中にあります。慌ただしく名所を回るよりも、時間に余裕を持って街の空気を感じることで、この特別な場所の真の価値を理解できるはずです。