「インドで一番危険な街」は本当なの?
コルカタと聞いて何を思い浮かべますか?貧困、混沌、危険な街…そんなネガティブなイメージを持つ人が多いでしょう。実際、私も初めてコルカタの地を踏んだとき、ハウラー駅の人混みと熱気、そして独特の匂いに圧倒されて「何てところに来てしまったんだ」と後悔しました。
でも、3日間滞在した今、断言できます。コルカタは間違いなくインドで最も魅力的な街の一つです。表面的な混沌の奥に、これほど豊かな文化と人情味あふれる人々が暮らしている場所を、私は他に知りません。
ただし、甘く見てはいけません。コルカタ観光には確実に「覚悟」が必要です。
ビクトリア記念館は想像以上にヤバかった
コルカタ最大の観光スポットといえばビクトリア記念館です。イギリス植民地時代の遺産として1921年に完成したこの白亜の建物は、まるでタージマハールを思わせる美しさ。入場料は外国人30ルピー(約50円)と格安で、開館時間は10時から17時まで(月曜休館)。
しかし、ここで私は衝撃的な体験をしました。館内には確かにイギリス統治時代の絵画や工芸品が展示されているのですが、その説明文の多くが「イギリスがいかにインドを発展させたか」という視点で書かれているのです。一方で、同じフロアには独立運動の資料も展示され、全く異なる歴史観が並存している。
この矛盾した展示こそが、現代インドの複雑さを物語っているのかもしれません。建物周辺のマイダン公園では地元の人々がクリケットに興じ、夕方になると家族連れでにぎわいます。アクセスはメトロのマハトマ・ガンジー・ロード駅から徒歩10分です。
カーリー寺院で見た「死と再生」の儀式
観光ガイドブックには必ず載っているカーリーガート寺院。破壊の女神カーリーを祀るこの寺院は、コルカタ南部のカーリーガートにあり、市内中心部からタクシーで約30分の距離です。参拝は無料ですが、ここでの体験は価格では測れません。
朝6時から夜10時まで開いているこの寺院で、私は山羊の生贄の儀式を目撃しました。観光客の多くが顔をしかめるこの光景ですが、地元の人々にとっては神聖な宗教行為。カーリー女神は破壊を通じて再生をもたらすという信仰が、現在も息づいているのです。
寺院の外では物乞いをする人々の姿も目立ちます。しかし、彼らと信者たちの間には独特の共存関係があることに気づきました。これもまた、コルカタの複雑な社会構造の一面なのでしょう。
ロッシュ・ゴルラで食べた「世界一危険な屋台飯」
コルカタのB級グルメといえば、やはり屋台料理は外せません。中でもフチカ(パーニープリー)は絶対に試してほしい一品。小麦粉でできた小さな器に、スパイス入りの水とポテトを入れて一口で食べる軽食です。
私がトライしたのは、ローカルに人気のロッシュ・ゴルラ地区の屋台。一皿15ルピー(約25円)という破格の安さでしたが、正直言って衛生状態は不安でした。屋台のおじさんは素手で器を触り、水道水で食器を洗っている様子。
それでも勇気を出して食べてみると…これが驚くほど美味しい!タマリンドの酸味とミントの爽やかさ、そしてクミンの香りが口の中で爆発します。幸い体調を崩すこともなく、むしろこの味が忘れられずに翌日も同じ屋台に通いました。
意外すぎる文化都市としての顔
多くの人が知らないコルカタの一面があります。実はコルカタはインドの文化首都と呼ばれ、数々のノーベル賞受賞者を輩出している知的な街なのです。
詩聖ラビンドラナート・タゴールの生家は現在博物館となっており(入場料5ルピー、10時-17時開館)、彼の直筆原稿や絵画を見ることができます。北コルカタのジョラサンコ地区にあるこの博物館は、メトロのギリッシュ・パーク駅から徒歩15分。観光客はほとんどいませんが、地元の文学愛好家が静かに見学している姿が印象的でした。
また、コレージ・ストリート周辺には古本屋が軒を連ね、英語の古書から希少なベンガル語文献まで、まさに本の宝庫。1冊10ルピーから手に入る古書の中には、植民地時代の貴重な資料も紛れています。
交通手段で命がけの体験?
コルカタの交通事情は、初心者には正直厳しいものがあります。メトロは1日券20ルピー(約33円)と格安で、路線図も比較的分かりやすいのですが、問題はバス。
黄色いタクシーは市内どこでも走っていて便利なのですが、メーターを使わない運転手が多く、事前の料金交渉が必須。市内中心部なら50-100ルピーが相場です。
しかし、最もスリリングなのは人力車(リキシャ)。狭い路地を縫って進む人力車は、まるでジェットコースターのような体験でした。料金は距離にもよりますが20-50ルピー程度。ただし、引いているのは生身の人間だということを忘れてはいけません。この光景に複雑な気持ちになる観光客も多いでしょう。
ハウラー橋の朝の絶景が忘れられない
コルカタのランドマーク、ハウラー橋は1943年に完成した全長705メートルの巨大な鉄橋です。一日に約10万台の車両と150万人の歩行者が通行する、まさに街の大動脈。
私のおすすめは早朝5時頃の橋上からの眺め。朝霧に包まれたフーグリー川と、対岸に見えるハウラー駅の巨大な建物のシルエットは圧巻です。この時間帯なら人通りも少なく、橋の構造美をゆっくりと観察できます。興味深いのは、この橋が一本のボルトも使わずにリベットだけで組み立てられていること。イギリス統治時代の技術力の高さを物語る建造物です。
ホテル選びで絶対に失敗しない方法
コルカタでの宿泊先選びは慎重に。私が最初に予約した安宿は、写真と実物があまりにも違いすぎて愕然としました。エアコンは動かず、シャワーからはぬるい水しか出ない状態。
結局、パーク・ストリート周辺のミドルクラスホテルに移りました。一泊3000-5000ルピー(5000-8000円)程度で、清潔で安全な部屋を確保できます。このエリアはレストランやショッピングセンターも充実しており、初回訪問者には最適な立地。
バックパッカー向けなら、サダル・ストリート周辺に500-1000ルピーの安宿が集まっています。ただし、セキュリティと衛生面は要チェック。
最後の夜に気づいた「本当のコルカタ」
帰国前夜、ふらりと入った小さなベンガル料理店での出来事が忘れられません。マッチャー・ジョル(魚のカレー)とライスを注文した私に、店主のおじいさんが片言の英語で話しかけてきました。
「日本から来たのか?私の息子はムンバイで働いているんだ。君のような若者がコルカタに興味を持ってくれて嬉しい」
そして彼は、無料でロッショゴッラ(コルカタ名物のスイーツ)をサービスしてくれました。甘いシロップに浸った白い団子のような菓子は、まさに優しい甘さ。一個5ルピー程度で街の至る所で売られていますが、この時の味は特別でした。
混沌と貧困の中にある温かい人情。これこそが、コルカタの最大の魅力なのかもしれません。表面的な印象だけで判断せず、少し深く街に踏み込んでみてください。きっと、あなたも予想外の発見と感動に出会えるはずです。
持参すべきものと心構え
コルカタ旅行で絶対に必要なのは、まず正露丸とポカリスエットの粉。現地の食事や気候で体調を崩す可能性が高いからです。また、ウェットティッシュと除菌用アルコールも必携アイテム。
そして何より大切なのは「寛容な心」です。時間通りに物事が進まない、思い通りにならないことがあっても、それも含めてコルカタの魅力なのだと受け入れる覚悟。
この街は間違いなく人を変える。良い意味でも悪い意味でも。でも、その変化こそが旅の醍醐味ではないでしょうか。