ラージャスターン州の奥地、パキスタン国境近くに佇む黄金の城塞都市ジャイサルメール。「ゴールデンシティ」と呼ばれるこの街で、私は観光初心者ならではの痛い失敗を重ねました。美しい砂岩建築に魅了されながらも、現実は甘くなかった体験談をお話しします。
なぜジャイサルメールは「生きた要塞」と呼ばれるの?
ジャイサルメール要塞は、世界でも珍しい「生きた要塞」です。1156年に建設されたこの城塞には、現在でも約4000人が住んでいるんです。デリーから夜行列車で約17時間、ジョードプルからバスで約5時間かかる辺境の地ですが、その価値は計り知れません。
城塞の入場料は外国人30ルピー(約50円)と格安ですが、営業時間は朝8時から夕方6時まで。私が最初に犯した失敗は、夕日鑑賞のために夕方5時半に到着したことでした。慌てて入場券を購入し、息を切らしながら城壁を駆け上がったのを覚えています。
城塞内部は迷路のような細い路地が張り巡らされており、住民の洗濯物が干され、子供たちが遊び回っています。観光地でありながら、完全に生活の場なんです。この独特の雰囲気こそが、ジャイサルメールの最大の魅力といえるでしょう。
砂漠ツアーで体験した想定外の現実とは?
ジャイサルメール観光のハイライトといえば、タール砂漠でのキャメルサファリです。1日ツアーは1500ルピー程度、2日1夜のツアーは3000ルピー前後が相場ですが、ここで私は2つめの大失敗をしました。
最安値のツアーを選んだ結果、砂漠といっても実際は「砂の多い荒れ地」程度の場所でした。本格的な砂丘を見たいなら、サムサンドデューンズまで約40キロ移動する必要があります。料金は高くなりますが、絵に描いたような砂漠の絶景を望むなら、こちらを選ぶべきでした。
ラクダの背中は思った以上に揺れが激しく、慣れない人は30分で腰が痛くなります。さらに、砂漠の夜は想像以上に冷え込みます。12月の砂漠で一晩過ごしたとき、気温は5度近くまで下がり、毛布1枚では全く足りませんでした。防寒着は必須です。
ハヴェーリー巡りで見落としがちな隠れた名建築
ジャイサルメールには、豪商たちが建てた美しいハヴェーリー(邸宅)が点在しています。有名なのはパトワハヴェーリーですが、入場料200ルピーを払って中に入ると、意外にがっかりすることがあります。
実は、最も美しい彫刻装飾が施されているのはナトマルハヴェーリーです。こちらは外観の撮影は無料で、細部まで精巧に彫られた砂岩の装飾は圧巻です。営業時間は朝8時から夜8時まで、内部見学は100ルピーですが、外から眺めるだけでも十分その美しさを堪能できます。
地元の人に教えてもらった穴場は、サリムシンハヴェーリーの屋上です。ここからの城塞の眺めは絶景で、観光客もほとんどいません。建物の管理人に50ルピー渡せば、屋上まで案内してくれます。
食事で絶対に試すべき地元グルメと危険な罠
ジャイサルメールの食事情で、私が犯した3つめの致命的失敗は水の管理でした。砂漠地帯のため水質があまり良くなく、生野菜や氷入りの飲み物で見事にお腹を壊しました。
しかし、地元料理は絶品です。ケルサンガリという豆カレーは、この地域特有の料理で、濃厚でスパイシーな味わいが癖になります。城塞内のレストラン「8th July Restaurant」では、屋上席からの絶景とともに本格的なラージャスターン料理が楽しめます。
ラジャスタン・ターリーは500ルピー程度で、10種類以上の料理が小皿に盛られて出てきます。中でも「ダルバティチュルマ」は、この州を代表する料理で、甘いお菓子のような食感が印象的でした。
知る人ぞ知るジャイサルメールの隠された一面
最後に、一般的な観光ガイドには載っていないマニアックな情報をお伝えします。ジャイサルメールは実は、インドの核実験場ポカランの最寄り都市でもあります。1998年と1974年に行われた核実験の影響で、一時期観光客が激減した歴史があります。
また、城塞の石材として使用されているジャイサルメール・ストーンは、時間とともに色が変化する特殊な砂岩です。朝は薄黄色、正午は金色、夕方は深いオレンジ色へと変わり、この現象が「ゴールデンシティ」の名前の由来となっています。地質学的には非常に珍しい石材で、現在は採掘が制限されています。
城塞内には、観光客が気づかない秘密の地下水路も存在します。砂漠の厳しい環境で生き抜くため、12世紀から続く巧妙な貯水システムが今でも機能しているんです。地元のガイドに頼めば、一般公開されていない地下貯水池を見学できることもあります。
ジャイサルメール観光を成功させる実践的なアドバイス
私の失敗談を踏まえて、ジャイサルメール観光を成功させるコツをお伝えします。まず、滞在は最低3日間確保してください。1日目は城塞とハヴェーリー巡り、2日目は砂漠ツアー、3日目はゆっくりと街歩きという流れが理想的です。
宿泊先は城塞内のゲストハウスがおすすめです。「Hotel Paradise」や「Hotel Shahi Palace」なら1泊2000ルピー程度で、屋上から絶景を望めます。ただし、城塞内は車両進入禁止のため、重い荷物がある場合は麓のホテルも検討しましょう。
交通手段について、ジャイサルメール駅から城塞までは約2キロ、オートリキシャで50ルピー程度です。街は小さいので徒歩での移動が基本になります。真夏(4月〜6月)は気温が50度を超えるため、観光のベストシーズンは11月から2月です。
最後に、お土産選びのコツですが、城塞内の店は観光地価格です。サダルバザールという地元の市場なら、同じ商品が半額以下で購入できます。特に、ラジャスタン州特産のブロックプリント布や、砂漠の砂を使ったボトルアートは、ここでしか手に入らない一品です。
ジャイサルメールは確かに辺境の地ですが、その分、インドの他の観光地では味わえない静寂と神秘性に満ちています。私の失敗を参考に、ぜひとも黄金の城塞都市での特別な時間を満喫してください。砂漠に沈む夕日と、城塞から響く生活音が織り成すハーモニーは、一生忘れられない思い出となるはずです。