モロッコの隠れた宝石、テトゥアンってどんな街?
モロッコと聞けば、多くの人がマラケシュやフェズを思い浮かべるでしょう。でも、私がお伝えしたいのは北部の小さな街テトゥアンです。スペインから車でわずか40分という立地にありながら、観光客の数はずっと少なく、本物のモロッコ文化に触れられる貴重な場所なんです。
人口約38万人のこの街は、1997年にユネスコ世界遺産に登録されました。アラビア語で「泉」を意味するテトゥアンは、まさにその名の通り清涼な雰囲気に包まれています。標高250メートルの高台に位置し、地中海とリフ山脈に挟まれた絶妙なロケーションが、この街独特の涼しさを生み出しているのです。
迷路のようなメディナで道に迷うのも旅の醍醐味?
テトゥアンの旧市街(メディナ)は、15世紀にアンダルシアから追放されたイスラム教徒とユダヤ人によって築かれました。狭い路地が複雑に入り組んだ構造は、まさに天然の迷路です。
私も最初の訪問で見事に道に迷いました。でも、この「迷子体験」こそがテトゥアンの魅力なんです。迷いながら歩いていると、観光地では絶対に見つけられない小さな工房や、地元の人だけが知る隠れ家的なカフェに出会えます。
メディナ内のグラン・モスクは17世紀に建設され、その美しいミナレット(尖塔)は街のシンボルとなっています。入場料は無料ですが、イスラム教徒以外は内部見学ができないため、外観から楽しみましょう。営業時間は日の出から日没まで、1日5回の礼拝時間には特に厳かな雰囲気に包まれます。
職人街で見つけた驚きの技術力
メディナの奥深くには、代々受け継がれてきた職人たちの工房が軒を連ねています。特に革製品と金属細工の技術は圧巻です。私が感動したのは、一人の職人が手作業だけで作り上げるモロッコ伝統のバブーシュ(革製スリッパ)でした。
値段は品質によって10ディルハム(約120円)から200ディルハム(約2,400円)まで幅広く、交渉次第で3割程度安くなることも。午前9時から午後6時頃まで開いている工房が多いですが、金曜日は礼拝のため午後は閉まることがあります。
王宮前広場で感じる、生きている歴史の重み
テトゥアンの王宮(パレ・ロワイヤル)周辺は、この街の格式を物語る重要なエリアです。現在でもモロッコ王室が使用する現役の宮殿のため内部見学はできませんが、その壮麗な外観だけでも一見の価値があります。
王宮前の広場では、毎週金曜日の午後に地元の人々が集まり、伝統的な音楽と踊りを楽しむ光景を見ることができます。これは観光向けのショーではなく、地元コミュニティの自然な文化活動。観光ガイドブックには載っていない、本当の「生きた文化」に触れられる貴重な機会です。
アクセス情報と訪問のベストタイミング
テトゥアンへは、カサブランカから電車とバスを乗り継いで約5時間、タンジェからはバスで約1時間30分です。スペインのアルヘシラスからフェリーでセウタ港に渡り、そこからバスで約45分のルートも人気があります。
王宮周辺の散策に最適な時間は、午前10時から正午まで、そして午後4時から6時まで。この時間帯は日差しが優しく、地元の人々の日常生活も垣間見ることができます。
考古学博物館で発見!テトゥアンの意外すぎる過去
多くの観光客が見逃してしまうのがテトゥアン考古学博物館です。入場料はわずか20ディルハム(約240円)、営業時間は午前9時から午後5時(月曜休館)と気軽に立ち寄れます。
ここで私が驚いたのは、テトゥアンがローマ時代から重要な交易拠点だったという事実でした。館内に展示されているローマ時代のモザイクタイルや、フェニキア人の陶器などは、この地域の知られざる歴史を物語っています。
海賊の拠点だった?驚きの黒歴史
博物館のガイドさんから聞いた興味深い話があります。実は17~18世紀のテトゥアンは、バルバリア海賊(北アフリカの海賊)の重要な拠点だったのです。彼らは地中海で商船を襲い、捕らえた人々を奴隷として売買していました。
この「海賊都市」としての歴史は、現在のテトゥアンではほとんど語られることがありません。でも、旧市街の一部に残る頑丈な城壁や、港に向かって建てられた見張り塔などは、そんな激動の時代の名残なのです。
絶対に食べるべき!テトゥアン独特のグルメ体験
テトゥアンの食文化は、アラブ、ベルベル、アンダルシア、そして意外にもスペインの影響を色濃く受けています。中でも絶対に味わってほしいのがパスティーヤ・デ・ポヨです。
これは薄いパイ生地に鶏肉、アーモンド、卵を包み、シナモンと粉砂糖をかけた甘じょっぱい料理。一皿35~50ディルハム(約420~600円)で、メディナ内のレストラン・アル・バリードで最高の一品を味わえます。営業時間は正午から午後10時まで、金曜日は午後2時からの営業です。
もう一つの名物がチェルモウラという魚料理です。新鮮な魚をコリアンダー、ニンニク、レモンでマリネしたもので、地中海に近いテトゥアンならではの絶品です。港近くのレストラン・ラ・マリーナでは、25ディルハム(約300円)から味わえます。
モロッコ版スペイン料理?不思議な融合グルメ
テトゥアンには、他のモロッコ都市では絶対に出会えない独特な料理があります。それがタジン・アンダルシです。伝統的なモロッコのタジン鍋で作るのですが、中身はスペイン風のシーフードパエリアのような味付けなんです。
この料理が生まれた背景には、スペイン統治時代(1912-1956年)の影響があります。当時のスペイン人料理人とモロッコ人料理人が協力して生み出した、まさに文化融合の産物なのです。
夕暮れ時の城壁散歩で見つけた絶景ポイント
テトゥアンの旧市街を囲む城壁の一部は、現在でも歩くことができます。特に西側の城壁からは、地中海とリフ山脈の両方を一望できる絶景スポットがあります。
私がおすすめするのは、日没の1時間前、午後6時頃からの散策です。この時間帯になると、白い建物群が夕日にオレンジ色に染まり、「白い街」テトゥアンの本当の美しさを実感できます。城壁への入場は無料で、日の出から日没まで開放されています。
現地の人だけが知る隠れ展望台
城壁散歩の途中で、地元の少年から教わった秘密の場所があります。観光マップには載っていない小さな展望台で、城壁の角の部分にある古い砲台跡です。ここからの景色は、どんな観光写真よりも美しく、テトゥアンの全景を独り占めできます。
ただし、足場が少し不安定なので、歩きやすい靴で行くことをおすすめします。また、日没後は街灯がないため、明るいうちに下山する必要があります。
旅行前に知っておきたい実用的な注意点
テトゥアンは比較的安全な街ですが、いくつか気をつけるべきポイントがあります。まず、偽ガイドの存在です。メディナ入口付近で「案内する」と声をかけてくる人がいますが、公認ガイドは胸に身分証明書をつけています。
両替は銀行または公認両替所で行いましょう。メディナ内にあるバンク・ポピュレールは午前8時から午後4時まで営業し、日本円からディルハムへの両替も可能です。ATMも設置されているので、キャッシュカードでの引き出しもできます。
服装とマナーで気をつけること
テトゥアンは保守的な街なので、服装には注意が必要です。特に女性は、肩や膝が隠れる服装を心がけましょう。モスク周辺では特に厳格で、ノースリーブやショートパンツは避けるべきです。
写真撮影については、人物を撮る前に必ず許可を取りましょう。特に年配の女性や宗教関係者は、撮影を嫌がる場合があります。建物や風景の撮影は基本的に自由ですが、軍事施設や王宮は撮影禁止です。
テトゥアンが教えてくれた「本物の旅」の意味
テトゥアンでの体験は、私の旅行観を大きく変えました。有名な観光地を急ぎ足で回るのではなく、一つの街にじっくりと滞在し、地元の人々との交流を通じてその土地の文化を理解する。これこそが「本物の旅」なのかもしれません。
メディナで迷子になりながら出会った職人のおじさん、王宮前で踊りを披露してくれた地元の人々、博物館で歴史を熱心に語ってくれたガイドさん。彼らとの出会いがあったからこそ、テトゥアンは私にとって特別な場所になったのです。
もしあなたが「普通の観光」に物足りなさを感じているなら、ぜひテトゥアンを訪れてみてください。この小さな白い街が、きっと新しい旅の楽しみ方を教えてくれるはずです。