インドの首都デリーと聞いて、あなたはどんなイメージを思い浮かべますか?混沌とした街並み、スパイスの香り、そして圧倒的な人の多さ…。確かにそれらも間違いではありませんが、実際に足を運んでみると「あれ?思っていたのと全然違う」という発見の連続でした。今回は、デリー観光で私が実際に体験した「想像とのギャップ」をお話しします。
えっ、デリーってこんなにモダンなの?
デリーに到着して最初に驚いたのが、予想以上に整備された都市インフラでした。デリーメトロは清潔で時間に正確、そして車内は驚くほど静か。女性専用車両もあり、安心して利用できます。運賃は距離によって異なりますが、最短区間なら10ルピー(約18円)程度と格安です。
コンノート・プレイス周辺を歩いていると、まるでヨーロッパの街並みのような美しい円形の建物群が目に飛び込んできます。ここは1920年代にイギリス統治時代に建設されたエリアで、現在はショッピングやグルメの中心地。地下には巨大なショッピングモールもあり、国際的なブランド店が軒を連ねています。
実は「2つのデリー」があるって知ってた?
これは観光ガイドブックではあまり詳しく説明されていない重要なポイントです。デリーにはオールドデリー(旧市街)とニューデリーという、全く異なる顔を持つ2つのエリアがあります。
オールドデリーは17世紀にムガル皇帝シャー・ジャハーンによって建設された歴史ある街。狭い路地にひしめく商店、リキシャが行き交う活気ある風景は、まさに「インド」のイメージそのものです。一方、ニューデリーは20世紀初頭にイギリスによって計画的に作られた新首都で、広い道路と整然とした区画が特徴的。
面白いのは、この2つのエリアを一日で回ると、まるで時代を行き来しているような不思議な感覚になることです。午前中にオールドデリーのチャンドニー・チョークでスパイスの香りに包まれ、午後にはニューデリーのインド門周辺で芝生の上でのんびり過ごす…そんな贅沢な体験ができるのです。
デリーの食事、実はこんなに奥が深い?
「インド料理=カレー」という固定観念を持っていた私ですが、デリーの食文化の多様性には本当に驚かされました。特に朝食文化の豊かさは予想外でした。
パラーンタという、具材を練り込んだ平たいパンは、デリー人の朝の定番。カロル・バーグ地区にある老舗「パラーンタ・ワリ・ガリ」では、なんと50種類以上のパラーンタを提供しています。午前6時から営業しており、1枚30ルピー程度から味わえます。
そして意外だったのが、デリーには本格的な日本料理レストランも数多く存在することです。日本人駐在員も多く住むグルガオン地区には、日本人シェフが腕を振るう寿司屋もあります。
観光スポット、定番とは違う楽しみ方があった
もちろん、レッド・フォートやフマユーン廟、クトゥブ・ミナールといった世界遺産は見逃せません。でも、私がおすすめしたいのは少し変わった楽しみ方です。
例えば、フマユーン廟(入場料600ルピー、日の出から日没まで開放)を訪れるなら、夕方の時間帯が狙い目。西日に照らされた赤砂岩の建物は、昼間とは全く違う表情を見せてくれます。そして意外と知られていないのが、廟の周辺に点在する小さな遺跡群。メイン建物だけでなく、ゆっくり散策すると隠れた美しさを発見できます。
また、インド門から大統領官邸へと続くラージパトを歩くなら、早朝がベスト。地元の人々がジョギングやヨガを楽しんでおり、デリーの日常生活を垣間見ることができます。
こんなトラブル、想定してなかった…
正直にお話しすると、デリー観光では予期しないトラブルもありました。特に11月から2月にかけての冬季は、大気汚染が深刻になる時期。私が訪れた12月は、PM2.5の数値が危険レベルに達する日もありました。マスクは必須アイテムです。
それから、オールドデリーでの買い物では「観光客価格」を提示されることがよくあります。地元の人に聞いたコツは、最初に提示された価格の3分の1から交渉を始めること。これは現地の商習慣なので、遠慮する必要はありません。
意外だったのは、デリーの交通渋滞の激しさ。特に夕方の時間帯は、わずか5キロの距離を移動するのに1時間以上かかることも。スケジュールには余裕を持つことが重要です。
結局、デリーってどんな街?
3日間のデリー滞在を終えて感じたのは、この街の持つ「多面性」でした。古い伝統と最新技術、静寂と喧騒、貧困と富裕…全てが共存している、とても複雑で魅力的な都市です。
特に印象的だったのは、ロディ・ガーデンでの朝の光景でした。ここは15世紀から16世紀にかけてのロディ朝時代の遺跡が点在する公園で、入場無料で24時間開放されています。朝6時頃に訪れると、古い墓廟の前でヨガをする人々、ジョギングを楽しむ家族連れ、そして静かに瞑想する老人たちの姿が。まさに「生きている歴史」を感じる瞬間でした。
知らないと損する、デリーの隠れた名所
観光ガイドにはあまり載っていない、でも地元の人には愛されているスポットがあります。それがハウス・カス・ビレッジです。もともとは小さな村だったこのエリアは、今ではおしゃれなカフェやブティックが立ち並ぶ若者の街に変貌しています。
ここで偶然見つけた小さな書店「Bahrisons Booksellers」は、1953年創業の老舗。店主のおじいさんが「君は日本から来たのか?それなら特別な本を見せてあげよう」と、独立運動時代の貴重な写真集を見せてくれました。こうした人との出会いも、デリー観光の醍醐味の一つです。
食べ歩きで発見した「本当のデリーの味」
最終日に挑戦したのが、地元の人に教えてもらったチャートの食べ歩き。チャートとは、軽食やスナック類の総称で、デリーには数え切れないほどの種類があります。
特に衝撃的だったのが「パニ・プリ」という一口サイズのクリスピーな殻に、スパイスの効いた水を入れて一気に口に放り込む食べ物。最初は恐る恐るでしたが、爽やかな酸味と程よい辛さがクセになります。1個5ルピーという安さも魅力的。
ただし、屋台で食べる際は、水の質に注意が必要です。私は念のため、地元の人で賑わっている人気店を選ぶようにしました。お腹を壊すリスクを避けるため、生野菜が多く使われているものは避けるのが無難です。
デリーを去る時に気づいた本当の魅力
空港に向かうタクシーの中で、運転手のラジさんが教えてくれた言葉が印象的でした。「デリーは好きになるまで時間がかかる街だが、一度好きになると忘れられない街だ」。
確かに最初の1日目は、騒音や人の多さに圧倒されて正直戸惑いました。でも3日目になると、その混沌の中にある秩序やリズムのようなものを感じられるようになったのです。朝のチャイ売りの声、リキシャのベルの音、モスクから聞こえるアザーンの響き…それら全てが調和して、デリーという街の「音楽」を奏でているように感じました。
インディラ・ガンディー国際空港でのセキュリティチェック(出発の3時間前には到着推奨)を待ちながら、既にデリーの街が恋しくなっている自分がいました。きっとまた戻ってくるだろうし、その時はもっと深く、この街を理解できるような気がしています。デリーは一度の訪問では語り尽くせない、そんな奥深い魅力を持った街なのです。