なぜトゥールが「フランスで最も美しいフランス語」の街と呼ばれるのか?
パリから南西へ約240キロ、TGVで約1時間の距離にあるトゥール。多くの旅行者がシャンボール城やシュノンソー城への玄関口としてしか見ていませんが、実はこの街こそがロワール地方観光の真の宝石なのです。
トゥールが「最も美しいフランス語が話される街」と言われる理由は、16世紀にフランソワ1世がこの地を王室の居住地としたことにあります。宮廷文化の中心地となったトゥールでは、洗練されたフランス語が育まれ、現在でもその伝統が受け継がれています。街を歩けば、地元の人々の美しい発音に思わず聞き入ってしまうでしょう。
旧市街のプリュムロー広場周辺は、15世紀から16世紀の木組み建築が立ち並ぶ絶景スポット。特に夕暮れ時の温かな光に包まれた街並みは、まるで絵本の世界に迷い込んだような感覚を味わえます。
地元っ子が教えてくれた!観光客が知らない地下都市の存在
トゥールの最大の秘密、それは街の地下に広がる巨大な地下都市です。一般的なガイドブックには載っていませんが、サン・マルタン大聖堂の地下には、4世紀から続く地下墓地とトンネル網が今も眠っています。
私が初めてこの地下世界を知ったのは、地元のカフェ店主との何気ない会話からでした。「観光客はみんな地上ばかり見てるけど、本当のトゥールは地下にあるんだよ」と彼が言った時の神秘的な表情は今でも忘れられません。
地下見学は事前予約制で、4月から10月まで毎週土曜日の午後2時から実施されています。料金は大人12ユーロ。ガイドツアーは約1時間30分で、地下20メートルの世界へ降りていきます。中世の石工たちが掘り出した石灰岩の採石場跡は、後に避難所として、そして第二次大戦中は防空壕として使われました。
地下探検で発見した驚きの事実
地下に降りて最初に驚くのは、その規模の大きさです。総延長は約20キロメートルにも及び、現在も一部は地元住民がワインセラーとして使用しています。温度は年間を通じて約12度で、湿度も一定に保たれているため、ワインの熟成には最適な環境なのです。
壁面には12世紀から19世紀にかけての落書きや彫刻が残っており、当時の人々の生活が垣間見えます。特に印象的だったのは、石工たちが休憩時間に彫ったとされる十字架や、恋人同士の名前が刻まれた愛の証です。
絶対に食べるべき!トゥール名物「リエット」の真実
トゥールといえばリエット(肉のパテ)発祥の地として有名ですが、観光地化されたレストランで食べるリエットと、地元で愛され続ける本物のリエットには雲泥の差があります。
私が出会った本物は、旧市街から少し離れた住宅街にある小さな肉屋「Boucherie Hardouin」でした。3代続く老舗で、毎朝手作りするリエットは地元民が行列を作るほどの人気です。営業時間は火曜日から土曜日の午前8時から午後1時、午後3時から午後7時まで。
ここのリエットの秘密は、豚肉と豚脂の絶妙な配合比率。一般的なリエットよりも脂身が少なく、肉の旨味がダイレクトに伝わってきます。100グラム4.8ユーロと決して安くはありませんが、その価値は十分にあります。
リエットの正しい食べ方、知っていますか?
多くの観光客が犯している間違いは、リエットをクラッカーに乗せて食べることです。正しい食べ方は、常温に戻したリエットを薄くスライスしたバゲットに厚めに塗り、コルニッション(小さなピクルス)と一緒に食べること。このコルニッションの酸味が、リエットの脂っこさを中和し、最後まで飽きずに楽しめます。
地元のワインとのペアリングなら、ヴーヴレイの白ワインが最高です。トゥールから車で20分ほどのヴーヴレイ村で作られるこの白ワインは、シュナン・ブラン種から作られ、リエットの濃厚さを引き立てる上品な酸味が特徴です。
現地人だけが知る隠れた絶景スポット
観光客で賑わうロワール河畔から少し足を伸ばすと、地元の人々だけが知る絶景スポットがあります。それがサン・コスム修道院の裏手にある小高い丘です。
ここへのアクセスは少し複雑で、修道院の駐車場から徒歩約15分、舗装されていない小道を登っていきます。地図にも載っていない場所なので、地元の人に道を尋ねながら向かうことになりますが、その苦労は必ず報われます。
丘の頂上からは、トゥールの街全体とロワール河が一望でき、特に朝霧が立ち込める早朝の景色は息を呑む美しさです。朝6時頃に到着すれば、河面に立ち上る朝霧の中に浮かび上がる古城群のシルエットを捉えることができます。
この場所は地元のカメラマンたちの間では「秘密の撮影スポット」として知られており、週末の早朝には数人の愛好家が三脚を立てている光景を目にすることもあります。観光バスでは絶対にアクセスできない場所だからこそ、静寂に包まれた特別な時間を過ごせるのです。
トゥール観光で避けるべき時間帯とは?
多くの旅行者が知らずに陥る罠があります。それは火曜日の午前中の観光です。トゥールでは多くの個人商店や地元レストランが火曜日を定休日としているため、せっかく訪れても閉まっている店が多く、街全体が静まり返ってしまいます。
また、8月15日前後の2週間は地元住民の多くがバカンスに出かけるため、本当の地元の雰囲気を味わいたいなら避けた方が賢明です。逆に最もおすすめなのは9月後半から10月前半。気候も穏やかで、新学期が始まり街に活気が戻る時期です。
知らないと損する!トゥール発の日帰り裏ルート
シャンボール城やシュノンソー城は確かに素晴らしいのですが、観光バスで溢れかえる夏場の混雑ぶりを考えると、別のルートをおすすめしたくなります。
私が提案するのはアンボワーズ城とクロ・リュセ城を組み合わせた半日コースです。トゥールからバスで約30分のアンボワーズは、レオナルド・ダ・ヴィンチが晩年を過ごした街として有名ですが、注目すべきは彼が実際に住んでいたクロ・リュセ城です。
ここの地下には、ダ・ヴィンチの設計図を基に復元された実物大の発明品が展示されており、実際に動かすことができるものもあります。入場料は大人17ユーロと少し高めですが、音声ガイド(日本語対応)が充実しており、約2時間じっくりと見学できます。営業時間は9時から19時まで(12月は18時まで)。
帰りに立ち寄りたい隠れ家カフェ
アンボワーズから帰る途中、ぜひ立ち寄ってほしいのが「Café de la Paix」です。駅から徒歩5分ほどの住宅街にひっそりと佇むこの小さなカフェは、地元の文学愛好家たちの溜まり場として親しまれています。
店内には古い本がびっしりと並び、常連客が持参した本を自由に交換できる「ブック・エクスチェンジ」コーナーもあります。ここのタルト・タタンは絶品で、バターの香りとリンゴの甘酸っぱさが絶妙にバランスしています。一切れ4.5ユーロ、コーヒーとセットで7ユーロです。
オーナーのマダム・デュポンは少しだけ日本語を話すことができ、日本人観光客には特別に温かく接してくれます。彼女の祖父が戦前に日本を訪れたことがあり、その時の思い出話を聞かせてくれることもあります。
最後に知っておくべきトゥール観光の心得
トゥール観光を成功させるための最後のアドバイスです。この街の魅力は急いで回るものではありません。石畳の小径をゆっくりと歩き、地元の人々との何気ない会話を楽しみ、カフェのテラスで時間を忘れることにこそ、真の価値があります。
観光案内所は駅前にありますが、本当に価値ある情報は街角のパン屋さんや花屋さんとの立ち話から得られることが多いものです。片言のフランス語でも構いません。「ボンジュール」と「メルシー」だけでも、現地の人々は驚くほど親切に応えてくれます。
トゥールは決して派手な観光地ではありませんが、フランスの真の魅力を静かに、深く味わえる稀有な街です。急がず、焦らず、この街が持つ上品な時の流れに身を任せてみてください。きっと忘れられない思い出が、あなたの心に刻まれることでしょう。