なぜヒューストンは「退屈な街」と呼ばれるのか?
テキサス州最大の都市ヒューストン。人口230万人を誇るこの街が、なぜか観光ガイドブックでは影が薄い存在です。実際、アメリカの旅行雑誌では「全米で最も退屈な観光都市」なんて不名誉なランキングに入ったこともあります。
理由は単純明快。ニューヨークのような摩天楼もなければ、サンフランシスコのような絵になる風景もない。ましてやラスベガスのような派手さとは無縁です。でも、だからこそ見えてくる本当のアメリカがここにはあるんです。
宇宙への憧れが現実になる場所、NASAジョンソン宇宙センター
ヒューストンといえば、やはりNASAジョンソン宇宙センターは外せません。ダウンタウンから車で約30分、入場料は大人31.95ドルです。
ここで体験できるのは、単なる展示見学ではありません。実際にアポロ計画で使われたサターンVロケットの実物を間近で見ることができます。全長111メートルの巨大なロケットを目の前にすると、人間がいかに小さな存在かを実感します。
特に感動的なのはミッション・コントロール・センターの見学。アポロ11号の月面着陸を管制した実際の部屋で、当時のコンソールがそのまま保存されています。「ヒューストン、問題が発生した」の名セリフで有名なアポロ13号の緊迫した瞬間も、この部屋で展開されたのです。
意外と知られていない宇宙食の試食体験
多くの観光客が見落とすのが、宇宙センター内の宇宙食試食コーナー。フリーズドライのアイスクリームは想像以上に美味しく、お土産にも最適です。平日の午後2時頃が最も空いているので、ゆっくり体験したい方はこの時間帯がおすすめです。
カウボーイの聖地?実は意外な畜産業の中心地
テキサスといえばカウボーイのイメージが強いですが、ヒューストン市内でカウボーイハットを被っている人はほとんどいません。でも、車で1時間ほど郊外に足を伸ばすと、本物のカウボーイ文化に触れることができます。
ジョージランチ・ヒストリカル・パークでは、19世紀から現代まで続くテキサスの牧場経営の歴史を体験できます。入場料は大人17ドル、子供12ドル。実際に牛の世話をしたり、ロープワークを学んだりと、テーマパークとは一線を画す本格的な体験ができます。
石油王の街に残る、驚くほど多様な食文化
ヒューストンの最大の魅力は、実は食文化の多様性にあります。この街は全米でも有数の移民都市で、世界90カ国以上の料理が楽しめるのです。
テックス・メックス料理って本当はどんな味?
まず体験すべきはテックス・メックス料理。メキシコ料理のテキサス風アレンジですが、本場メキシコとは別物です。ニニファズ・カフェ(ダウンタウンから車で15分)では、チーズたっぷりのファヒータが15.99ドルで味わえます。
驚くのはその量の多さ。一人前で日本人なら2〜3人分はありそうな大盛りで、アメリカンサイズを実感します。営業時間は午前11時から午後10時まで、日曜日は午後9時まで。
意外すぎる中華街の実力
もう一つの隠れた名所が中華街です。サンフランシスコやニューヨークの中華街ほど有名ではありませんが、実は全米でも屈指の本格的な中華料理が楽しめます。
特にディンタイフォン・ヒューストン店では、台湾の小籠包を本場そのままの味で楽しめます。8個入り小籠包が14.95ドル。平日のランチタイムは地元の台湾系住民で賑わい、英語よりも中国語が飛び交う光景は、ここがアメリカだということを忘れさせます。
夏は地獄、でもそれがヒューストンの醍醐味?
ヒューストンの夏は正直言って過酷です。7月から9月にかけては連日38度を超え、湿度も90%近くになります。でも、だからこそ地元の人たちの生活の知恵や工夫が面白いんです。
地下街が発達している意外な理由
ダウンタウンには総延長12キロメートルの地下街が張り巡らされています。これは寒さ対策ではなく、暑さ対策なんです。地元の人たちは夏場、ほとんど外を歩きません。ホテルからレストラン、ショッピングモールまで、すべて地下で移動できます。
観光客にとっても、この地下街は貴重な避暑空間。迷路のように複雑ですが、主要な観光スポットはすべて地下街で繋がっているので、夏場の観光には必須の知識です。
アートシーンが実は全米トップクラス?
意外かもしれませんが、ヒューストンのアートシーンは全米でもトップクラスです。ミュージアム・ディストリクトには19の美術館・博物館が集積し、その規模はワシントンD.C.に次ぐ全米第2位。
無料で楽しめる世界級のアートコレクション
ヒューストン美術館は入場料が無料という太っ腹ぶり。しかも所蔵作品は6万5千点を超え、モネ、ピカソ、ルノワールといった印象派の名画から、現代アートまで幅広くカバーしています。火曜日から日曜日の午前10時から午後5時まで開館(木曜日は午後9時まで)。
特に見逃せないのが、日本ではあまり知られていないアメリカン・インディアンの現代アートセクション。テキサス州に住む先住民アーティストたちの作品は、伝統的な技法と現代的な表現が見事に融合しており、アメリカの多様性を改めて実感させられます。
プロスポーツの熱狂を肌で感じる
ヒューストンは全米でも珍しく、4大プロスポーツすべてのチームが揃う都市です。特にヒューストン・アストロズ(MLB)の人気は絶大で、2017年にワールドシリーズ初優勝を果たした時の街全体の盛り上がりは今でも語り草になっています。
ミニッツメイド・パークでのナイトゲーム観戦は、チケットが20ドルから購入可能。テキサスらしく球場内でもBBQが楽しめ、試合観戦というより地元の文化体験そのものです。試合開始の2時間前から球場周辺では地元ファンによるテイルゲート・パーティ(駐車場でのBBQ)が始まり、観光客でも気軽に混ぜてもらえます。
意外と便利?ヒューストンの交通事情
車社会のテキサスですが、ヒューストンにはMETRORailという路面電車が走っています。全長35キロメートル、3路線で主要観光地をカバー。1日乗車券は3ドルと格安です。
ただし、路線は限られているので、郊外の観光地に行く場合はレンタカーが必須。ヒューストン・ホビー空港でのレンタカーは1日40ドル程度から借りられます。
駐車場探しで苦労しない秘訣
ダウンタウンの駐車料金は平日で1時間3ドル程度ですが、週末は多くの駐車場が1日5ドルの定額制になります。地元の人に教わったコツは、平日でも午後6時以降はほとんどの駐車場が無料になること。夕方以降の観光なら駐車料金を気にする必要がありません。
ヒューストンで絶対に避けたい時期と場所
8月は絶対に避けてください。気温40度、湿度95%の日が続き、屋外観光は現実的ではありません。また、ハリケーンシーズン(6月から11月)は天候が不安定になりがち。
治安面では、ダウンタウン南西部のサード・ワード地区は夜間の一人歩きは避けた方が無難です。観光地からは離れているので通常は近づくことはありませんが、レンタカーでの移動時は注意が必要です。
最後に:ヒューストンの本当の魅力とは?
4回の訪問を通じて分かったのは、ヒューストンの魅力は「普通のアメリカ」を体験できることです。観光地化されていない、等身大のアメリカ人の生活や文化に触れられる貴重な都市なんです。
宇宙開発の最先端技術と、開拓時代から続く牧場文化。世界各国からの移民が作り上げた多様な食文化と、テキサスらしい大らかさ。これらすべてが自然に共存しているのがヒューストンという街の最大の魅力です。
確かに写真映えするような観光地は少ないかもしれません。でも、旅の思い出は必ずしも絶景や名所だけで作られるものではありません。現地の人たちとの何気ない会話や、予想外の発見こそが、本当の旅の醍醐味なのではないでしょうか。