フェズの迷路で3回道に迷った私が教える、世界最大のメディナ攻略法と隠された魅力

なぜフェズのメディナは「迷子製造機」と呼ばれるのか?

モロッコの古都フェズを訪れた瞬間、私は自分が別世界に迷い込んだことを実感しました。フェズ・エル・バリと呼ばれる旧市街は、なんと9,000本もの路地が網の目のように張り巡らされた世界最大のメディナなのです。

実際に歩いてみると分かりますが、この迷路のような街並みは偶然できたものではありません。1200年前の建設当時から、外敵の侵入を防ぐために意図的に複雑に設計されているのです。つまり、観光客が迷子になるのは当たり前のこと。私も初日に3回道に迷い、地元の子供たちに助けを求める羽目になりました。

フェズ観光の正しいスタート地点、知っていますか?

多くの観光ガイドでは触れられていませんが、フェズ観光はバブ・ブージュルード門から始めるのが鉄則です。この青いタイルで装飾された美しい門は、メディナの北西入り口にあたり、ここから時計回りに歩くと効率よく主要スポットを回れます。

門をくぐると、まず圧倒されるのが人々の活気です。朝の8時頃から夜の10時頃まで、商人の声、ロバの鳴き声、職人たちの作業音が絶え間なく響いています。ここで重要なのは、慌てずにゆっくりと街の空気に慣れること。私の失敗は、最初から急いで歩き回ろうとしたことでした。

メディナを歩く前に覚えておきたい3つのルール

フェズのメディナには、知らないと困る暗黙のルールがあります。まず、ロバやラバが通る時は必ず道を譲ること。狭い路地では人間よりも荷物を運ぶ動物たちが優先です。次に、写真撮影は必ず許可を取ること。特に職人さんや商人の方々は、無断撮影を嫌がります。最後に、値段交渉は必須ですが、最初から喧嘩腰になるのはNGです。

1200年前の職人技が今も生きている、本物の工房街

フェズの最大の魅力は、中世から変わらない職人たちの技術を間近で見られることです。メディナの中央付近にあるタンネリ(皮なめし工場)では、1000年以上前から同じ方法で革製品が作られています。

ここで驚いたのは、化学薬品を一切使わずに天然素材だけで皮をなめしていること。鳩の糞やざくろの皮、オリーブオイルなどを使った昔ながらの製法で、世界最高品質の革製品が生まれているのです。ただし、独特の匂いがかなり強いので、見学の際はハンカチを鼻に当てることをおすすめします。営業時間は朝8時から夕方6時頃まで、入場料は約20ディルハム(約220円)です。

知られざる職人街の歩き方

タンネリの周辺には、金属細工のスーク陶器のスーク織物のスークが集まっています。ここで面白いのは、同じ業種の職人たちが一つのエリアに固まって作業していること。これは中世ギルド制度の名残で、お互いに技術を高め合いながら伝統を守っているのです。

特に注目してほしいのが、ブルーポタリーの工房です。フェズ特有の青い陶器は、コバルトを含む地元の土を使っているため、他の地域では作ることができません。職人さんに交渉すれば、実際にろくろ回しを体験させてもらえることもあります。

絶対に食べるべきフェズの隠れグルメって?

観光客向けのレストランも良いのですが、本当のフェズの味を知るなら地元の人たちが通う小さな食堂を狙うべきです。メディナの奥にある「Café Clock」の近くに、看板も出していない小さな店があります。そこで食べたハリラスープは、今まで飲んだ中で最も美味しいものでした。

値段は一杯15ディルハム(約165円)と格安で、朝6時から昼2時頃まで営業しています。トマトベースのスープにレンズ豆、チキン、香草がたっぷり入っていて、パンと一緒に食べると満腹になります。地元の人に混じって食べる体験は、高級レストランでは味わえない特別感があります。

フェズでしか食べられない伝統菓子の世界

甘いもの好きなら、シュバキアという伝統菓子を試してみてください。花の形をした揚げ菓子にハチミツがたっぷりかかった一品で、通常はラマダン明けにのみ食べられる特別な菓子です。しかし、フェズの老舗菓子店「Pâtisserie Bennis Habous」では一年中購入できます。

1個約10ディルハム(約110円)で、午前9時から夜8時まで営業しています。作りたてはサクサクとした食感で、ハチミツの甘さが口の中に広がります。お土産にも最適ですが、湿気に弱いので注意が必要です。

フェズで迷子になった時の意外な解決法

最初にお話しした通り、フェズで迷子になるのは避けられません。でも実は、これが最高の街歩き体験になるのです。道に迷った時こそ、普通の観光では見つけられない隠れた中庭や古いモスクを発見できるチャンスなのです。

私が3回目に迷子になった時、偶然見つけたのがネジャリン木工博物館の裏にある小さな中庭でした。そこでは80歳を超えたおじいさんが、昔ながらの方法で木製の器を彫っていました。観光ルートには載っていない場所ですが、フェズの職人文化の真髄を感じられる貴重な体験でした。

迷子になった時は、慌てずに「バブ・ブージュルード?」と地元の人に尋ねてみてください。必ず親切に道を教えてくれます。フェズの人々は観光客に慣れているので、片言のアラビア語やフランス語でも十分コミュニケーションが取れます。

知る人ぞ知る、フェズの夕暮れスポット

日中の喧騒に疲れたら、ボルジュ・ノールという要塞跡に登ってみてください。メディナの北側にあるこの高台からは、フェズの街全体を見渡すことができます。特に夕方5時頃から7時頃にかけて、夕日に照らされたメディナの屋根が金色に輝く光景は圧巻です。

ここまでのアクセスには徒歩で約30分かかりますが、途中の坂道からも美しい景色を楽しめます。入場料は無料で、地元の若者たちのデートスポットとしても人気があります。観光客はほとんど来ないので、静かにフェズの美しさを堪能できる穴場です。

モスクから響く祈りの声に耳を傾けて

フェズ滞在中に必ず体験してほしいのが、アザーン(祈りの呼びかけ)を聞くことです。1日5回、街中のモスクから同時に響く美しい声は、まさにフェズでしか味わえない神秘的な体験です。

特に早朝4時半頃のアザーンは最も静寂な中で聞こえるため、心に深く響きます。宿泊先のリヤドの屋上テラスから聞くのがおすすめで、朝日が昇る前の薄暗い空に響く声は、まるで天からの贈り物のように感じられます。

フェズ観光で絶対に避けたいトラブルとは?

最後に、私が実際に経験した失敗から学んだ注意点をお伝えします。最も気をつけるべきは、偽ガイドの存在です。バブ・ブージュルード門周辺では、「日本語話せます」「道案内しましょう」と声をかけてくる人が必ずいます。

正式なガイドは政府発行のIDバッジを必ず身につけているので、それを確認してから依頼しましょう。公認ガイドの料金は半日で約300ディルハム(約3,300円)が相場です。無資格ガイドに頼むと、最終的に高額な買い物を強要されることがあります。

もう一つの注意点は、金曜日の午後の観光です。この時間帯は多くの店が閉まり、モスクでの礼拝のため人通りも少なくなります。活気あるメディナを体験したいなら、平日の午前中から午後3時頃までがベストタイミングです。

フェズは確かに複雑で時に混乱する街ですが、その分他では得られない濃密な体験ができる場所です。迷子になることを恐れずに、千年の歴史が息づく石畳の上を自分の足で歩いてみてください。きっと一生忘れられない思い出が待っているはずです。