フエってどこ?多くの人が勘違いしている場所
ベトナム中部にある古都フエ。ハノイやホーチミンと違って、多くの日本人観光客は「聞いたことはあるけど、どこにあるかよくわからない」というのが正直なところでしょう。
実は私も最初はそうでした。地図で確認すると、ダナンから北に約100キロ、車で約2時間半の場所にあります。1802年から1945年まで、ベトナム最後の王朝グエン朝の都として栄えた街です。
フエの魅力は、観光地化されすぎていない「生きた遺跡」であること。朝6時頃に街を歩くと、地元の人々が普通に生活している中に、突然現れる王宮の城壁に驚かされます。この日常と歴史が溶け合った雰囲気こそが、フエ最大の魅力なのです。
王宮観光で絶対に見逃してはいけないポイントは?
フエ王宮(紫禁城)は、北京の紫禁城を模して造られたといわれています。入場料は大人200,000ベトナムドン(約1,200円)、営業時間は8時から17時まで。
多くの観光客が犯す最大の失敗は「午後の暑い時間に行くこと」です。私も最初の訪問では、昼過ぎに到着して汗だくになりながら見学し、疲れ果てて半分も見ずに退散してしまいました。
午前9時前の入場をお勧めします。朝の涼しい空気の中で見る王宮は、まったく別世界。特に太和殿では、朝日が建物の装飾を美しく照らし出します。
意外と知られていないのが、王宮内に残る「弾痕」です。ベトナム戦争時、この一帯は激戦地となり、多くの建物が破壊されました。復元された建物の陰に、当時の銃弾の跡がそのまま残されている場所があります。ガイドブックには載らない、生々しい歴史の証人です。
カイディン帝廟:なぜここが一番印象に残るのか?
フエ郊外にあるカイディン帝廟は、他の帝廟とは明らかに異なる建築様式で建てられています。フエ市内から約7キロ、バイクタクシーで約20分の距離にあります。
この帝廟の最大の特徴は、東西文化が混在した装飾です。カイディン帝は西洋文化に強い興味を示した皇帝で、帝廟内部にはモザイクタイルや色鮮やかなガラス装飾が施されています。
階段を上って内部に入った瞬間、思わず「ここは本当にベトナム?」と口にしてしまうほど。金箔で覆われた皇帝の等身大銅像が、きらびやかな装飾に囲まれて鎮座している光景は、一度見たら忘れられません。
入場料は100,000ベトナムドン(約600円)。午前中の見学がお勧めですが、実は夕方16時頃の西日が差し込む時間帯も美しく、訪れる人が少ないので落ち着いて見学できます。
フエ名物「ブンボーフエ」を食べ逃すと後悔する理由
フエのソウルフードといえばブンボーフエ。牛肉とレモングラスが効いた辛いスープ麺で、フエ以外では本格的な味になかなか出会えません。
地元の人に愛される老舗「Bun Bo Hue Ba Do」(住所:26 Le Loi Street)では、朝6時から営業開始。価格は1杯約35,000ベトナムドン(約210円)と格安です。
このお店の特徴は「辛さの調整ができること」。ベトナム料理初心者の方は「it ot」(イット・オット=辛さ少なめ)と伝えると良いでしょう。逆に辛いもの好きの方は「nhieu ot」(ニェウ・オット=辛さ多め)でチャレンジを。
意外な事実ですが、ブンボーフエには地域差があります。フエ市内でも店によって牛肉の部位や香辛料の配合が微妙に異なり、地元の人でも「あの店の味じゃないとダメ」というこだわりを持っています。
移動手段の選択で旅の満足度が大きく変わる?
フエ観光の移動手段は主に3つ:タクシー、バイクタクシー、レンタル自転車です。
タクシーは安全で確実ですが、料金は他の手段の3〜4倍。バイクタクシーは安くて速いですが、交通ルールに慣れていない外国人には少しスリリングすぎるかもしれません。
私のお勧めはレンタル自転車です。市内の多くのホテルで1日50,000〜80,000ベトナムドン(約300〜500円)でレンタル可能。フエの街は平坦で、自転車での移動に適しています。
特に香水(フォーン川)沿いのサイクリングは格別です。川沿いの道路は整備されており、朝夕の涼しい時間帯なら快適に走れます。途中で地元の釣り人や散歩している家族連れと目が合い、手を振り合う瞬間は、団体ツアーでは絶対に味わえない体験です。
トゥドゥック帝廟で知る、意外すぎる皇帝の素顔
フエ郊外約5キロにあるトゥドゥック帝廟は、他の帝廟と比べて異質な雰囲気を持っています。入場料は100,000ベトナムドン、開園時間は7時から17時30分まで。
この帝廟の最大の特徴は「生前から別荘として使われていた」こと。トゥドゥック帝は詩と音楽を愛する文人皇帝で、ここで詩作や読書に時間を費やしていました。
敷地内のルウ・キエム湖では、皇帝が実際に釣りを楽しんでいたという記録が残っています。湖畔に建つ小さな東屋「ズ・カンク・パビリオン」は、皇帝が詩想を練った場所。現在でも静寂に包まれ、時が止まったような感覚に包まれます。
興味深いことに、トゥドゥック帝の遺体はここには眠っていません。皇帝の遺言により、埋葬場所は秘密にされ、現在でも発見されていないのです。つまり、ここは「お墓のない帝廟」という世界的にも珍しい存在なのです。
フエ観光で絶対に避けるべき時期と時間帯
フエ観光には明確に「避けるべき時期」があります。10月から1月の雨季は、連日雨が降り続き、特に11月は月間降水量が700ミリを超えることもあります。
私が初回訪問した11月中旬、3日間滞在して晴れたのはわずか半日。王宮も帝廟も雨に濡れてしまい、写真撮影どころではありませんでした。
最適な時期は3月から5月、または8月から9月。特に4月は気温も湿度も程よく、観光には絶好の条件が揃います。
時間帯については、正午から15時までの外歩きは避けましょう。気温は35度を超え、湿度も80%以上になります。この時間帯は室内の博物館見学や、カフェでの休憩時間として使うのが賢明です。
地元の人が実践している暑さ対策は「朝夕の二部制観光」。朝6時から10時まで屋外観光、昼間は室内で休憩、夕方16時から日没まで再び屋外へ。この方法なら、フエの魅力を余すことなく体験できます。
最後に伝えたい、フエの本当の価値
フエは決して派手な観光地ではありません。ハロン湾のような絶景もなければ、ホイアンのようなフォトジェニックな街並みもありません。
しかし、フエには「時間の重み」があります。王朝時代の面影を残しながらも、現代のベトナム人が普通に生活している、その重層的な時間の流れこそがフエの真価です。
帰国後、友人に「フエはどうだった?」と聞かれたとき、一言では説明しきれない複雑な感情が湧き上がります。それは、歴史の重さと人々の暮らしの温かさ、そして失われつつあるものへの郷愁が混じり合った、特別な記憶だからです。
フエを訪れるなら、急ぎ足ではなく最低2泊3日の滞在をお勧めします。この古都が持つ独特のリズムに身を委ね、ゆっくりと時間を過ごしてみてください。きっと、他の観光地では得られない深い満足感を持って帰ることができるはずです。