インドネシア第3の都市メダンと聞いて、あなたはどんな街を想像しますか?実は私も最初は「きっとジャカルタやスラバヤのような大都市なんだろう」と軽く考えていました。しかし実際に足を踏み入れてみると、そこには予想を遥かに超える多様性と独特の魅力が待っていたのです。
メダンってどんな街?北スマトラの玄関口の意外な素顔
メダンはインドネシア・北スマトラ州の州都で、人口約270万人を擁する巨大都市です。クアラルンプール国際空港から約1時間半のフライトでアクセスできる立地の良さもあって、東南アジア旅行の穴場として密かに注目を集めています。
でも正直に言うと、メダンは決して「美しい観光都市」ではありません。むしろ雑然としていて、初めて訪れた時は「本当にここが観光地なの?」と思ってしまいました。しかしそれこそがメダンの真の魅力だったのです。
この街の最大の特徴は、多民族都市としての複雑な文化のミックスです。マレー系、中華系、インド系、バタック系など様々な民族が共存し、それぞれの文化や宗教が街のあちこちに息づいています。歩いていると、イスラム教のモスク、キリスト教の教会、中国系の廟、ヒンドゥー教寺院が驚くほど近い距離に建っているのを目にします。
グルメ天国?それとも地獄?メダンの食文化に挑戦
メダンを語る上で絶対に外せないのが食文化です。この街は「インドネシア屈指のグルメ都市」として知られていますが、日本人の口には正直かなりハードルが高いものも多いのが実情です。
必食グルメ「ソト・メダン」は本当に美味しいのか?
ソト・メダンは牛肉と内臓を使ったスープで、メダン名物として観光客にも人気です。ガイドブックには「絶品」と書かれていることが多いのですが、実際に食べてみると…かなり好みが分かれます。私が最初に挑戦したガンダリア通りの老舗店では、朝6時から営業していて地元の人で賑わっていました。1杯約2万ルピア(約180円)という手頃さは魅力的ですが、独特の香辛料の香りと内臓特有の食感に慣れるまでは時間がかかりました。
中華系グルメの宝庫「ケサワン地区」
一方で、日本人の口により合うのが中華系料理です。特にケサワン地区は中華系住民が多く住むエリアで、本格的な中華料理店が軒を連ねています。ここの「バクミー」(汁なし麺)は絶品で、1杯1万5千ルピア程度で食べられます。営業時間は店によって異なりますが、多くが午前10時頃から夜10時頃まで開いています。
絶対に行くべき観光スポット?実は期待値調整が重要
メダン観光で多くのガイドブックに載っている定番スポットがいくつかありますが、正直に言うとかなり期待値を下げて行った方が良いものも多いです。
メダン大モスク(Masjid Raya Medan)の想像以上の迫力
メダン大モスクは1906年に建設されたインドネシア最古のモスクの一つです。メダン中心部のイマム・ボンジョル通りに位置し、市内からは徒歩またはベチャ(輪タク)で簡単にアクセスできます。
外観はそれほど派手ではありませんが、内部に入ると意外な美しさに驚かされます。特に午後の祈りの時間帯(アスル、15時頃)に訪れると、信者の方々の祈る姿を目にすることができ、宗教の持つ静謐な力を感じられます。見学は無料ですが、適切な服装(長袖、長ズボン必須)での入場が求められます。
メイムーン宮殿は「がっかり名所」?
メイムーン宮殿は多くのガイドブックで「必見」とされていますが、正直なところかなりの「がっかり名所」です。1888年に建てられたデリー王国の宮殿で、入場料2万ルピアを払って見学できますが、展示物は決して充実しているとは言えません。
ただし、建物そのものの歴史的価値は確かにあります。特に建築様式はマレー、イスラム、インド、ヨーロッパの影響が混在した独特のもので、建築好きの方なら楽しめるかもしれません。開館時間は午前9時から午後4時までです。
メダンの隠れた魅力?多様性こそが最大の観光資源
実はメダン観光の真の醍醐味は、有名な観光スポットを巡ることではありません。街を歩き回って、この複雑な多民族社会の日常を肌で感じることにあるのです。
早朝の市場散歩が教えてくれる「リアルなメダン」
私がメダンで最も印象深い体験をしたのは、ケサワン市場での早朝散歩でした。朝6時頃から活気づくこの市場では、様々な民族の商人たちが入り混じって商売をしています。中華系の乾物屋、マレー系の香辛料売り、インド系の布屋が軒を並べて、まるで小さな国連のような光景が広がっています。
ここで面白いのは、商人同士が異なる言語で会話していることです。インドネシア語、中国語、タミル語、バタック語が飛び交い、時には身振り手振りで商談が成立している様子を見ることができます。市場は午前中が最も活気があり、午後2時頃には多くの店が閉まってしまうので、早起きして訪れることをお勧めします。
知られざるバタック文化の体験スポット
メダン周辺にはバタック族という独特の文化を持つ民族が住んでいます。多くの観光客はトバ湖まで足を伸ばしますが、実はメダン市内でもバタック文化に触れることができる場所があります。
メダン郊外のアンピラス地区には、バタック族の伝統家屋を再現した文化センターがあり、土曜日の午後には伝統舞踊の披露が行われています。入場料は1万5千ルピアと格安で、市内からはアンコット(乗り合いバス)で約45分、運賃は5千ルピア程度です。ここで聞くバタック族の伝統音楽は、他のインドネシア音楽とは明らかに異なる独特のメロディーを持っています。
メダン観光で絶対に知っておくべき「落とし穴」
メダン観光には、事前に知っておかないと後悔する「落とし穴」がいくつかあります。私自身が実際に体験した失敗談も含めてお伝えします。
交通手段の選択が成功の鍵?
メダンの交通事情は正直言って混沌としています。ベチャ(輪タク)は観光客向けの移動手段として便利ですが、料金交渉が必須で、相場を知らないとかなり高額を請求されます。市内の短距離移動なら1万〜1万5千ルピアが相場ですが、観光客だと分かると3万ルピア以上を要求されることもあります。
意外にお勧めなのがグラブ(Grab)の利用です。東南アジア版Uberのようなサービスで、事前に料金が確定するため安心して利用できます。メダン市内であれば大抵の場所に1万5千〜2万5千ルピア程度で移動できます。
宿泊エリア選びで旅の質が大きく変わる
メダンでの宿泊は、エリア選びが非常に重要です。観光客に人気のケサワン地区は確かに便利ですが、夜間の騒音がかなりひどく、睡眠不足に悩まされる可能性があります。私が初回に宿泊したホテルは、深夜2時過ぎまで近くの店からの音楽が響いていました。
むしろお勧めしたいのは、少し中心部から外れたセティアブディ地区です。この辺りは比較的静かで、中級ホテルが1泊3万〜5万ルピア程度で利用できます。中心部へのアクセスもグラブを使えば15分程度です。
メダンから足を伸ばす?日帰りで行ける意外なスポット
メダンを拠点にして、日帰りで訪れることができる興味深いスポットがいくつかあります。定番のトバ湖以外にも、知る人ぞ知る場所があるのです。
ベラスタギの朝市が教えてくれる山岳地帯の暮らし
ベラスタギはメダンから約2時間の山岳地帯にある避暑地ですが、ここの朝市は一見の価値があります。標高1300メートルの高地で採れる野菜や果物は、平地のメダンとは全く異なる種類のものが並びます。特に「マルキサ」という紫色のパッションフルーツは、この地域でしか食べられない貴重な果物です。
ベラスタギへはメダンのピナン・バリス・バスターミナルから公共バスが30分おきに出発しており、片道1万5千ルピア、所要時間約2時間です。朝6時頃に出発すれば、午前中に朝市を楽しんで夕方にはメダンに戻ることができます。
結局メダンは「行く価値がある」のか?
この記事を読んで、「結局メダンって観光地としてどうなの?」と思われているかもしれません。正直に言うと、メダンは万人にお勧めできる観光地ではありません。綺麗に整備された観光地を期待している方には、物足りなさを感じる可能性が高いです。
しかし、「リアルなインドネシア」を体験したい、多様な文化が混在する社会を肌で感じたい、という好奇心旺盛な旅行者にとっては、メダンは非常に興味深い目的地だと思います。私自身、最初は戸惑いましたが、滞在を重ねるうちにこの街の独特の魅力に引き込まれていきました。
特に東南アジア旅行に慣れている方なら、メダンの雑多で複雑な文化的多様性は新鮮な体験になるはずです。ただし、初めての海外旅行や東南アジア初心者の方には、もう少しハードルの低い都市から始めることをお勧めします。