なぜリヨンで「観光客っぽさ」を消すべきなのか?
フランス第3の都市リヨンを歩いていると、地元の人たちの視線が妙に冷たく感じることがあります。実はリヨンっ子(リヨネ)は、パリとは違った独特のプライドを持っているんです。美食の都として知られるこの街では、観光客扱いされると本当に美味しい店を教えてもらえないことも。逆に地元民として認められれば、驚くほど親切になってくれるのがリヨンの魅力なんです。
リヨンは東京23区ほどの広さに約52万人が住む、コンパクトながら奥深い街。ローヌ川とソーヌ川に挟まれたプレスキル地区を中心に、歴史地区からモダンエリアまで徒歩圏内に収まります。地下鉄4路線とトラム6路線が走り、1日券は6.9ユーロ。でも実は、中心部なら歩いた方が街の空気を感じられるんです。
朝8時のクロワルース地区で見つけた「本物の朝食」とは?
観光客が行くカフェと地元民が行くカフェは全く違います。朝のクロワルース地区(4区)を歩いていると、工房から出てきた職人さんたちが立ち寄る小さなカフェを発見しました。ここで頼むべきは「カフェ・セレ」と「タルティーヌ」。観光地のクロワッサンではなく、バターたっぷりのパンにジャムを塗った素朴な朝食が、地元民スタイルなんです。
クロワルース地区は19世紀の絹織物工場が残る世界遺産エリア。営業時間は工房によって異なりますが、多くは朝9時から夕方6時まで。ここで面白いのは、今でも現役で絹織物を作っている工房があること。観光客は「メゾン・デ・カニュ」(入場料6ユーロ)に行きがちですが、実は路地を歩いているだけで窓越しに職人の手仕事を見ることができます。
地元民になりきるコツは、急な坂道を息切れしながらも平然と歩くこと。観光客は必ず途中で立ち止まって写真を撮りますが、地元の人は慣れたものです。
「トラブール」探しで迷子になった時の対処法
リヨン観光のハイライトといえば「トラブール」探し。建物を貫通する秘密の通路のことですが、これが曲者なんです。観光案内所でもらった地図を片手にウロウロしていると、完全に観光客認定されます。
実際に体験した失敗談をお話しします。旧市街(5区)で有名なトラブールを探していたところ、地図を見ながら迷っていると、地元のマダムに「また迷子の観光客ね」という顔をされました。でも、スマホをしまって「すみません、この辺りに住む友人を探しているんです」と尋ね方を変えると、親切に教えてくれたんです。
現在公開されているトラブールは約40箇所。中でも「54 Rue Saint-Jean」から「27 Rue du Bœuf」へ抜ける通路は、中世の雰囲気が残る代表格。朝の10時から夕方5時まで通行可能です。地元民のコツは、トラブールを「近道」として当たり前に使うこと。写真を撮るために立ち止まらず、サラッと通り抜けるのがポイントです。
ブション(伝統食堂)で「ツーリストメニュー」を避ける方法
リヨンといえばブションでの食事は外せません。でも観光客向けのツーリストメニューと、地元民が食べる本物の料理は雲泥の差があります。見分け方にはちょっとしたコツがあるんです。
まず、本物のブションは「認定マーク」を掲げています。リヨン市が認定した約20軒だけが本物の証。営業時間は昼12時から14時、夜19時30分から22時が基本。地元民は必ず予約を入れるので、飛び込みで入れるブションは観光客向けと思って間違いありません。
私が通い詰めた「シェ・ポール」では、「クネル・ド・ブロシェ」(カワカマスの練り物)と「アンドゥイエット」(豚の腸詰め)が絶品。でも注文の仕方がポイントです。「おすすめは?」と聞く観光客に対して、地元民は「いつものやつ」と言うんです。常連になりきるには、メニューを見ずに「今日の気分で」とマダムに委ねるのが正解。
価格は前菜8-12ユーロ、メイン18-25ユーロ程度。ワインはコート・デュ・ローヌの赤を「ピシェ(500ml)」で注文するのが地元流です。
夜のプレスキル地区で見つけた「隠れた社交場」
夜のリヨンで観光客が見落とすのが、「カフェ・フィロゾフィーク」という独特の文化です。プレスキル地区のベルクール広場周辺には、夜10時頃から地元の知識人や学生が集まる小さなカフェが点在しています。
私が偶然見つけたのは、リュー・デュ・バ・ダルジャン通りの小さなカフェ。表からは普通のバーに見えますが、奥の部屋では毎週火曜日の夜8時から「哲学カフェ」が開かれているんです。参加費はドリンク代のみ(ワイン1杯4-6ユーロ)。フランス語がそれほど流暢でなくても、聞いているだけで地元民の本音が聞けて面白いんです。
観光客なら絶対に知らない情報として、リヨンっ子はパリを「上の人たち」と呼んで微妙に対抗意識を燃やしていること。マルセイユには親近感を持っているけれど、パリの観光客と同じに見られるのを嫌います。だから「パリは初めてで」と言うより「南仏の方が好きで」と言った方が好感度が上がります。
地下鉄A線で発見した「リヨンっ子の通勤ルール」
観光客がよく使う地下鉄でも、地元民には見えないルールがあります。特に朝の通勤ラッシュ(8時-9時)では、右側に立つのは絶対NG。エスカレーターは左立ち右空けが徹底されています。
面白いのは、リヨンの地下鉄には「無人運転」の路線があること。A線とB線は1993年から完全自動運転で、運転手がいません。地元民は当たり前のように先頭車両に乗って前面展望を楽しんでいますが、観光客はそれを知らずに中間車両に乗りがち。
フルヴィエールの丘へのケーブルカー(フニキュレール)も要注意。観光客は必ず右側の窓際に殺到しますが、地元民は左側に座ります。なぜなら、帰りの下りで旧市街の絶景が左側に見えることを知っているから。往復2.4ユーロですが、地元民は定期券で乗るのが普通です。
真冬のリヨンで体感した「観光客泣かせの罠」
12月のリヨンを訪れた時の失敗談です。「光の祭典(フェット・デ・リュミエール)」の時期だったのですが、観光客向けの情報と現実は大違いでした。
公式では「12月8日から4日間」となっていますが、実際は天気次第で中止になることも。地元民は天気予報を必ずチェックして、雨や強風の日は最初から諦めます。観光客は雨の中でも傘をさして見物していますが、地元の人は「来年また見ればいい」とあっさりしたもの。
この時期の平均気温は2-7度で、石畳が凍結することも。観光客はスニーカーで来て滑って転びますが、地元民は必ず滑り止めの靴を履いています。ホテル代も通常の3倍(1泊150-300ユーロ)に跳ね上がるので、地元民は友人宅に泊まったり、近郊の町に宿を取ったりします。
本当にお得な楽しみ方は、祭典期間を避けて11月後半に訪れること。街のイルミネーションは既に始まっていて、人混みも少なく、地元民とゆっくり話せる絶好のタイミングなんです。