「地球最後の楽園」は本当に存在するのか?
インド洋に浮かぶセーシェル共和国のプラスリン島。その北西部に位置するアンスラツィオビーチは、数々の旅行雑誌で「世界で最も美しいビーチ」として紹介されてきました。しかし実際に足を運んでみると、美しさの裏に隠された意外な現実があることを知りました。
このビーチの名前「ラツィオ」は、実はイタリアのローマがある州の名前と同じ。なぜアフリカ東岸の島にイタリア由来の地名があるのでしょうか。これは18世紀後半にイタリア系の探検家がこの地を発見し、故郷を偲んで名付けたからなのです。現地の人々は今でもこの歴史的背景を大切にしており、ビーチ近くには小さな記念碑も建てられています。
到着前に知っておくべき「アクセスの現実」
多くのガイドブックでは「気軽に行ける楽園ビーチ」として紹介されていますが、実際のアクセスは想像以上に時間がかかります。まずセーシェルの首都ヴィクトリアがあるマヘ島から、プラスリン島まで国内線で約15分。その後、プラスリン空港からアンスラツィオビーチまではタクシーで約20分かかります。
タクシー料金は片道約25ユーロ(約3,500円)が相場です。レンタカーという選択肢もありますが、プラスリン島の道路は狭く、慣れない観光客には運転が困難な場所も多いのが実情です。私が実際に体験したのは、朝8時にマヘ島のホテルを出発し、アンスラツィオビーチに到着したのが10時30分頃でした。
バスを使った節約アクセス術
地元の人々が利用するSPTC(セーシェル公共交通公社)のバスを使えば、プラスリン空港からビーチまで約5ルピー(約40円)で移動できます。ただし、バスの本数は1時間に1本程度で、時刻表通りに来ないことも多いため、時間に余裕を持った計画が必要です。
「完璧すぎる美しさ」に隠された意外な一面
アンスラツィオビーチの砂は、確かに雑誌で見る通りの純白さです。しかし、この美しさの背景には意外な事実があります。実はこの砂、大部分がサンゴの骨格が砕けてできた炭酸カルシウムなのです。そのため、日中の気温が30度を超える日には、砂の表面温度が50度近くまで上がることがあります。
私が午後2時頃にビーチを歩いた際、裸足では熱くて歩けませんでした。現地のビーチガードに聞くと、「観光客はいつもサンダルを忘れて困っている」とのこと。美しい砂浜を素足で歩きたい気持ちは分かりますが、必ずビーチサンダルを持参することをおすすめします。
潮の満ち引きで劇的に変わる風景
アンスラツィオビーチのもう一つの特徴は、潮の満ち引きによって全く違う表情を見せることです。干潮時(通常午前中)には、沖合100メートル近くまで歩いて行けるほど水深が浅くなります。一方、満潮時(午後から夕方)には、ビーチの幅が半分以下になることもあります。
現地で出会った「本物のセーシェル料理」
ビーチから徒歩5分の場所にある「Café des Arts」では、観光客向けではない本格的なクレオール料理を味わえます。特におすすめは「カリ・ポワソン」という魚のカレー。セーシェルならではのココナッツミルクをベースにした優しい味で、一皿約18ユーロ(約2,500円)です。
営業時間は午前11時から午後4時までと短いのですが、地元の漁師が朝獲った新鮮な魚を使っているため、売り切れ次第終了となります。私が訪れた際も、午後2時頃には人気メニューの多くが品切れになっていました。
知る人ぞ知る「フルーツバット・ウォッチング」
アンスラツィオビーチの隠れた楽しみは、夕方5時頃から始まるフルーツバット(オオコウモリ)の観察です。ビーチ背後のタコノキの森から、翼を広げると1メートルを超える大型のコウモリが飛び立つ光景は圧巻です。これは多くの観光ガイドには載っていない、現地の人だけが知る自然の営みです。
トラブル体験から学んだ「必携アイテム」
私がアンスラツィオビーチで経験した最大のトラブルは、突然のスコールでした。午後3時頃、快晴だった空が15分ほどで真っ黒な雲に覆われ、激しい雨が降り始めたのです。ビーチには屋根のある休憩所が一切なく、近くのカフェまで走って避難する羽目になりました。
現地のスタッフによると、セーシェルでは乾季(5月〜10月)でも午後にスコールが発生することが多いとのこと。簡易的な雨具は必ず持参した方が良いでしょう。また、貴重品を防水バッグに入れておくことも重要です。
日焼け対策は「過剰すぎるくらい」がちょうどいい
赤道に近いセーシェルの紫外線は、日本の3倍以上と言われています。私は普段使っているSPF30の日焼け止めを塗っていたにも関わらず、3時間のビーチ滞在で軽度の日焼けをしてしまいました。現地のドラッグストアで購入したアロエクリームが1本約12ユーロ(約1,700円)と高額だったため、SPF50以上の日焼け止めと帽子は日本から持参することを強くおすすめします。
帰路で感じた「本当の贅沢」とは
アンスラツィオビーチでの一日を終えて空港へ向かう車中で、私は妙な充実感を覚えていました。確かにアクセスは不便で、思わぬトラブルもありました。しかし、そんな小さな困難を乗り越えた先にある絶景は、簡単にたどり着ける観光地では決して味わえない特別な感動がありました。
ビーチは入場無料で、24時間いつでも利用できます。ただし、夜間は照明がないため、実質的には日の出から日没まで(午前6時頃から午後6時頃)の利用が現実的です。
最後に一つアドバイスをするとすれば、アンスラツィオビーチは「完璧な楽園」を期待して行く場所ではありません。不便さや予期しないトラブルも含めて、それらすべてを旅の一部として楽しめる人にこそ、真の美しさを感じてもらえる場所だと思います。セーシェルの人々が大切に守り続けてきたこの自然の宝物を、私たち観光客も敬意を持って訪れたいものですね。