デナリ山が見えない日のほうが多い?現実を知っておこう
アラスカのデナリ国立公園を訪れる人の多くが期待しているのは、標高6190メートルの北米最高峰デナリ山(旧称マッキンリー山)の絶景です。しかし、現地のレンジャーから聞いた驚きの事実があります。年間を通してデナリ山の山頂が完全に見える日は、なんと全体の約30%程度しかないのです。
雲がかかりやすい気候条件のため、せっかく遠路はるばる訪れても山が見えないことは珍しくありません。でも安心してください。デナリ国立公園の魅力は山の景色だけではないのです。むしろ、山が見えない日だからこそ楽しめる体験がたくさん待っています。
野生動物との遭遇率が驚異的に高い理由とは?
デナリ国立公園の面積は約24000平方キロメートルで、これは四国全体よりも大きな広さです。この広大な土地に、グリズリーベア、ムース、カリブー、ドールシープ、オオカミといった北米を代表する野生動物たちが自由に暮らしています。
実際に公園内のシャトルバス(5月下旬~9月中旬運行、料金は大人38ドル程度)に乗って驚いたのは、野生動物に出会う確率の高さでした。特に朝の時間帯は動物たちの活動が活発で、バスの運転手さんが動物を見つけると必ず停車してくれます。私が訪れた際は、片道約8時間のバス旅で15回以上も野生動物に遭遇しました。
ここで知られていないマニアックな事実をひとつ。デナリのグリズリーベアは、他の地域のものと比べて毛色が明るいブロンド系が多いのです。これは食べ物や気候条件の違いによるもので、野生動物写真家の間では「デナリ・ブロンド」と呼ばれています。
シャトルバスの座席選びで景色が大きく変わる?
公園内の移動は基本的にシャトルバスを利用します(デナリ公園道路は一般車両の乗り入れが制限されているため)。アンカレッジからデナリまでは車で約4時間半、鉄道利用なら約8時間かかります。
バスに乗る際のコツをお教えしましょう。座席は進行方向右側を選ぶのがポイントです。なぜなら、デナリ山が見える方向や、野生動物がよく現れるエリアの多くが右側だからです。また、前方の座席のほうが動物を早く発見でき、写真撮影にも有利です。
バスの運転手兼ガイドは皆、野生動物の生態に詳しく、面白いエピソードを聞かせてくれます。英語ですが、ゆっくり話してくれるので中学レベルの英語力があれば十分楽しめます。
白夜の季節に訪れると時間感覚が狂う?
夏のアラスカは白夜の季節です。6月下旬から7月上旬にかけては、夜中の12時を過ぎても薄明るい状態が続きます。これは観光には大きなメリットで、午後10時頃からの遅い時間帯でも、まだまだ観光や写真撮影が可能です。
ただし、この白夜が思わぬ落とし穴になることも。時間感覚が狂って睡眠不足になったり、レストランの営業時間を勘違いしたりすることがあります。デナリ周辺の宿泊施設では、遮光カーテンが完備されているところを選ぶことをお勧めします。
極寒の冬季も実は穴場シーズン?
多くの人は夏にデナリを訪れますが、実は冬季(10月~3月)も魅力的な季節です。夏場は閉鎖されるシャトルバス路線の代わりに、犬ぞり体験やオーロラ観測が楽しめます。
冬のデナリの気温は氷点下30度以下になることもありますが、空気が澄んでいるためデナリ山が見える確率は夏よりも高くなります。また、雪景色の中を駆け抜ける犬ぞり体験は、アラスカならではの貴重な体験です。
ただし、冬季は公園内の施設やサービスが大幅に制限されるため、事前の入念な準備と現地情報の確認が必要です。防寒着は現地でレンタルすることも可能ですが、手袋や帽子などの小物類は日本から持参することをお勧めします。
地元の人しか知らない隠れた絶景スポット
観光客の多くはビジターセンター周辺やワンダーレイク付近で写真を撮りますが、地元のレンジャーから教えてもらったプリマドンナ・ヒルという場所があります。シャトルバスのルート上にあるにも関わらず、多くのガイドブックには載っていない穴場スポットです。
ここからの景色は、デナリ山の全景を遮るものなく見渡せる絶好のポイントです。バスの運転手に「プリマドンナ・ヒルで写真を撮りたい」と伝えれば、停車してもらえる可能性が高いです。
また、意外と知られていないのが、デナリ公園内での星空観察です。光害がほとんどない環境のため、天の川がくっきりと見える夜があります。夏の短い夜の時間帯(午前2時~4時頃)が狙い目で、宿泊施設の周辺でも十分楽しめます。
食事で気をつけたい意外な落とし穴
デナリ周辺の食事事情は、想像以上に限られています。公園内にはレストランがほとんどなく、最寄りの町までは車で数時間かかることも珍しくありません。多くの宿泊施設ではアラスカ産サーモンやトナカイ肉を使った料理が名物ですが、料金は1食30~50ドルと高めです。
特に注意したいのは、レストランの営業時間が不規則なことです。観光シーズンでも、スタッフの都合で急に閉店することがあります。私が滞在中に体験したのは、夕食を取ろうと向かったレストランが「今日はシェフが体調不良で休業」という張り紙が貼られていたことでした。
対策として、非常食やスナック類は必ず持参しましょう。また、宿泊施設を選ぶ際は、食事付きプランがあるかどうかを事前に確認することをお勧めします。
帰国後も続くデナリの魅力
デナリ国立公園の本当の魅力は、帰国してからじわじわと感じられるものです。都市の喧騒に戻ったとき、あの広大な自然の静寂さや、野生動物たちの自由な姿が恋しくなります。
デナリ山が見えた人も見えなかった人も、共通して感じるのは「また必ず戻ってきたい」という想いです。山が見えなかった場合のリベンジ旅行率は実に70%以上というデータもあります。それほどまでに、この場所には人を惹きつける特別な何かがあるのです。
訪れる前は「山が見えなかったらがっかりするかも」と心配していましたが、実際に体験してみると、デナリ国立公園の真の価値は山の景色だけではないことがよく分かりました。大自然の中で過ごす時間そのものが、かけがえのない財産になるのです。