オークモント・カントリークラブで痛感した「世界一意地悪なゴルフコース」の洗礼

なぜオークモントは「ゴルフ界の鬼門」と呼ばれるのか?

オークモントゴルフコースの美しい景観

ペンシルベニア州ピッツバーグ郊外にあるオークモント・カントリークラブ。この名前を聞いただけで、世界中のゴルファーが震え上がります。1903年創設のこのコースは、全米オープンを9回開催し、毎回選手たちを苦しめてきた「世界最難関コース」の一つなのです。

私が初めてここを訪れた時、地元のキャディが開口一番こう言いました。「このコースは君を嫌いになるが、君はこのコースを愛するようになる」と。その意味を、18ホール回り終えた後に痛いほど理解することになったのです。

あの悪名高い「教会の尖塔バンカー」との格闘

ゴルフコースの難しいバンカー

オークモントの代名詞といえば、何と言っても3番ホール・4番ホール間にある「教会の尖塔バンカー」です。その名の通り、教会の尖塔のような形をした巨大なバンカーで、高さは約10メートル。一度入ったら脱出に3打、4打は当たり前という恐ろしい罠です。

興味深いのは、このバンカーが作られた経緯です。創設者のヘンリー・ファウンズは、「ゴルフは簡単すぎる」と考え、意図的にプレーヤーを苦しめる仕掛けを次々と導入しました。現在でもコース全体に約200個のバンカーが点在し、どこからでもバンカーが見えるという設計になっています。

実際にプレーしてみると、フェアウェイは見た目以上に狭く、少しでもミスショットをすると必ずバンカーが待ち受けています。特に風の強い日は、計算通りにいかないことがほとんどです。

プロも震える「剃刀グリーン」の恐怖

完璧に手入れされたゴルフグリーン

オークモントのもう一つの特徴は、「剃刀のように速いグリーン」です。スティンプメーターで測定すると13から14という驚異的な数値を記録し、全米オープン開催時にはさらに速くなります。

私が体験した中で最も印象的だったのは、18番ホールのグリーンでした。わずか1メートルのパットが、傾斜に負けてカップを素通りし、グリーンから転がり落ちてしまったのです。キャディが「ここでは重力が普通じゃない」と冗談めいて言いましたが、本当にそう感じるほどでした。

興味深い事実として、オークモントではグリーンの芝を特殊な方法で刈っていることが挙げられます。通常のゴルフコースとは逆方向に刈ることで、ボールの転がりを予測不可能にしているのです。これは創設当初からの伝統で、今でも厳格に守られています。

全米オープンの舞台で目撃した「ゴルフ史に残る名勝負」

ゴルフトーナメントの緊張感ある瞬間

2016年の全米オープンを現地観戦した時のことは、今でも鮮明に覚えています。ダスティン・ジョンソンが優勝した大会でしたが、彼でさえ最終日にはスコアを大きく崩す場面がありました。

特に印象的だったのは、8番ホール(パー3)での選手たちの苦戦ぶりです。このホールは距離こそ短いものの、グリーン周りのバンカーと高速グリーンが相まって、多くのプロが大叩きしていました。観客席からは「これでもプロか?」という声も聞こえましたが、実際にプレーしてみるとプロの凄さがよく分かります。

大会期間中の入場料は1日券で約150ドル(約16,000円)と高額でしたが、ゴルフ史に残る名勝負を間近で見られる価値は十分にありました。会場へのアクセスは、ピッツバーグ国際空港から車で約1時間程度です。

一般ゴルファーがオークモントでプレーする方法

ゴルフクラブと美しいコースの風景

「プライベートクラブだから一般人は無理」と諦めている方も多いかもしれませんが、実は限定的ながらパブリックプレーの機会があります。

最も確実なのは、メンバーの紹介を受ける方法です。また、年に数回開催される慈善ゴルフトーナメントに参加することで、プレーの機会を得ることも可能です。参加費は約500ドル(約55,000円)と決して安くはありませんが、一生の思い出になることは間違いありません。

もう一つの方法として、近隣のゴルフリゾートが企画するオークモント見学ツアーがあります。プレーはできませんが、コースを間近で見学し、クラブハウスでの食事も楽しめます。料金は約50ドル(約5,500円)程度で、事前予約が必要です。

私が実際にプレーした時は、メンバーの知人を通じて紹介していただきました。プレー料金は約300ドル(約33,000円)で、これにキャディフィー(約100ドル)とチップが加わります。平日の午前中であれば比較的予約が取りやすく、週末は数ヶ月前からの予約が必要になります。

クラブハウスで味わう「伝統の重み」

オークモントの魅力はコースだけではありません。1903年建築の歴史あるクラブハウスには、ゴルフ界の偉人たちの写真や記念品が所狭しと飾られています。

特に印象深かったのは、ベン・ホーガンが1953年の全米オープンで使用したクラブの展示でした。彼はここで復活優勝を果たし、ゴルフ史に名を刻みました。また、ボビー・ジョーンズやジャック・ニクラウスなど、レジェンドたちの直筆サインも見ることができます。

クラブハウスのダイニングルームでは、伝統的なアメリカ料理が楽しめます。特にプライムリブ(約45ドル)とロブスターテール(約55ドル)は絶品で、プレー後の疲れを癒してくれます。営業時間は午前11時から午後9時まで(日曜日は午後8時まで)となっています。

オークモント攻略の「隠れた戦略」

最後に、実際にプレーして学んだ攻略法をお伝えします。最も重要なのは、「攻めない勇気」です。このコースでは、無理に攻めるとほぼ確実に大叩きします。

特にグリーン周りでは、カップの下側に必ずボールを置くことが鉄則です。上りのパットなら多少強く打っても止まりますが、下りのパットは本当に止まりません。地元のメンバーは「グリーン上では重力と友達になれ」とよく言います。

また、意外な攻略ポイントとして、バンカーショットの練習を事前に十分に行うことをお勧めします。オークモントのバンカーは砂が非常に細かく、通常のコースとは全く感触が違います。可能であれば、似たような砂質のコースで練習しておくと良いでしょう。

風の読み方も重要で、特に午後からは風向きが変わりやすくなります。朝の風向きに惑わされず、常に風を意識したクラブ選択を心がけてください。

オークモントは確かに厳しいコースですが、それだけに攻略した時の達成感は格別です。ゴルフ人生において、一度は挑戦する価値のある特別な場所だと確信しています。