まさか発祥の地がこんなに手強いとは…
スコットランド西海岸の小さな町プレストウィック。ここにあるプレストウィック ゴルフクラブは、1860年に第1回全英オープンゴルフ選手権が開催された、まさにゴルフの聖地です。グラスゴーから電車で約45分という立地にも関わらず、この歴史あるコースでラウンドした時の衝撃は今でも忘れられません。
「発祥の地だから記念にラウンドしよう」という軽い気持ちで予約を取ったのですが、これが大きな間違いでした。1851年に設立されたこのコースは、160年以上の歴史が作り上げた自然の要塞そのもの。現代のゴルフコースとは全く違う、容赦ない挑戦が待っていたのです。
予約から当日まで、緊張の準備期間
プレストウィック ゴルフクラブでのラウンド料金は、平日で約200ポンド(約35,000円)、週末は250ポンド(約45,000円)と決して安くはありません。しかし全英オープン発祥の地でプレーできることを考えれば、むしろリーズナブルと言えるでしょう。
予約は公式ウェブサイトから可能ですが、特に夏場は非常に混雑するため、少なくとも1か月前の予約をお勧めします。私が訪れた5月でも、希望する時間帯を確保するのに苦労しました。
クラブハウスは朝7時から営業しており、ラウンド前には必ずドレスコードのチェックがあります。襟付きシャツ、長ズボン、ゴルフシューズは必須。ジーンズやスニーカーでは入場を断られるので注意が必要です。
いざティーオフ!歴史の重みを感じる瞬間
朝9時、ついにティーオフの時間がやってきました。1番ホールのティーグラウンドに立った瞬間、歴史の重みが肩にのしかかってきます。ここで160年前に初めての全英オープンが開催されたと思うと、手が震えそうになりました。
しかし、感傷に浸る暇もなく現実に引き戻されます。プレストウィックの最大の特徴は、自然の地形をそのまま活かした設計にあります。現代のように重機で整地された平坦なコースとは全く違い、起伏に富んだフェアウェイ、深いバンカー、そして容赦ない海風が待ち受けているのです。
特に印象的だったのは3番ホール「カーディナル」。ここは初回の全英オープンで使用されたホールの一つで、グリーン手前の巨大なバンカー群は「カーディナル・バンカーズ」と呼ばれています。現代のサンドウェッジがない時代、選手たちはどうやってここを攻略したのか、想像するだけでも恐ろしくなります。
予想外の試練、でもそれが本物の証拠?
ラウンドが進むにつれて、プレストウィックの真の恐ろしさが明らかになってきました。12番ホール「アルプス」は、まさにその名の通り山のようなマウンドがグリーンを隠しているのです。セカンドショットは完全にブラインド。現代のゴルフ場設計では考えられない設計ですが、これこそがオリジナル・ゴルフの醍醐味なのかもしれません。
さらに驚いたのは、コース内に鉄道が走っていること。17番ホールでは実際にグラスゴー・プレストウィック線の電車がコースを横切ります。プレー中に電車の音が聞こえてくるのは、他では絶対に味わえない体験でした。
海風の影響も想像以上でした。スコットランド西海岸特有の強い風により、普段150ヤードで打っているクラブが200ヤード飛んだり、逆に100ヤードしか飛ばなかったり。風を読む技術の重要性を痛感させられました。
ラウンド後の余韻、そして気づいた本当の価値
18ホールを終えて、正直言ってスコアは散々でした。しかし、クラブハウスのバーで地元のエール(約5ポンド)を飲みながら振り返ってみると、これほど充実感のあるラウンドは久しぶりでした。
クラブハウス内には歴代の全英オープン優勝者の写真や記念品が展示されており、ゴルフの歴史を肌で感じることができます。特に興味深かったのは、初回の全英オープンは参加者わずか8名で、優勝賞金は0ポンド(優勝者には翌年まで保管する赤いモロッコ革のチャンピオンベルトのみ)だったという事実です。現在の賞金総額約1,500万ドルの全英オープンとは隔世の感があります。
プレストウィックが全英オープンの開催地から外れたのは1925年が最後。その理由は観客収容能力の限界でしたが、逆に言えばそのおかげで当時の原型がほぼそのまま保存されているのです。現在でも年間約2万人のゴルファーがここを訪れますが、商業化に走らず歴史を大切にする姿勢には本当に頭が下がります。
次回挑戦する人への実践的なアドバイス
プレストウィックでのラウンドを成功させるためには、いくつかの準備が欠かせません。まず風対策は必須。通常より2番手上のクラブを持参し、低い弾道で打てるよう練習しておくことをお勧めします。
また、キャディーサービス(約50ポンド)は一見高く感じますが、絶対に利用すべきです。地元のキャディーは各ホールの攻略法を熟知しており、特にブラインドホールでは彼らのアドバイスが得点に直結します。私のキャディーのマクレガーさんは、このコースで40年働いているベテランで、彼の助言がなければもっと悲惨なスコアになっていたでしょう。
プレー時間は約4時間30分を見込んでおいてください。現代の乗用カートはなく、歩きでのラウンドのみ。起伏の激しいコースを歩き通すには、それなりの体力が必要です。
アクセス情報と周辺の楽しみ方
グラスゴー中央駅からプレストウィック駅まで約45分、駅からゴルフクラブまでは徒歩約15分です。レンタカーの場合、M77からA79経由で約1時間。駐車場は無料で利用できます。
ラウンド前後の宿泊なら、プレストウィック駅周辺のB&Bがお勧めです。1泊60-80ポンド程度で、地元の温かいもてなしを受けられます。私が泊まった「ザ・グルフ・イン」は、ゴルファー向けの宿で、早朝のスコティッシュ・ブレックファストが絶品でした。
時間に余裕があれば、車で20分ほどのカルゼアン城跡も見学する価値があります。14世紀に建てられた古城で、ロバート・ザ・ブルースゆかりの地としても有名です。
正直に言えば、プレストウィックは誰にでもお勧めできるコースではありません。現代的な快適さを求める人には向かないでしょう。しかし、ゴルフというスポーツの原点を体験したい、歴史の重みを感じながらプレーしたいという人には、これ以上ない体験ができる場所です。
次回スコットランドを訪れる機会があれば、必ずまた挑戦したいと思っています。今度はもう少し風を読めるようになって、リベンジを果たしたいものです。