なぜ世界のゴルファーがこのコースに震え上がるのか?
フランス北部のル・トゥーケにあるレ・ボルデ ゴルフ(Les Bordes Golf)は、一見すると美しい森に囲まれた穏やかなゴルフコースに見えます。しかし、ティーグラウンドに立った瞬間、多くのゴルファーが「これは想像していたものと全く違う」と感じるのです。
このコースは1986年にロバート・トレント・ジョーンズによって設計され、世界で最も難易度の高いゴルフコースの一つとして知られています。パリから約2時間の距離にありながら、まるで別世界のような挑戦が待っています。料金は平日で約200ユーロ、週末は250ユーロ程度と決して安くはありませんが、その価値は十分にあると断言できます。
計画段階で気づいた「普通じゃない」サイン
予約を取る段階で、すでに「ただのゴルフコースではない」ことが分かります。まず、ハンディキャップ証明書の提示が必須で、男性は18以下、女性は28以下でないとプレーできません。これだけでも十分驚きですが、さらに「初心者お断り」という明確なメッセージが込められています。
営業時間は朝8時から夕方6時までですが、実際には1ラウンド5時間以上かかることが珍しくありません。なぜなら、各ホールでボールを探す時間が異常に長くなるからです。地元のプロショップスタッフは「1日に3個以上ボールを失くすのは当たり前」と笑いながら教えてくれました。
事前にレンタカーでのアクセスを調べていましたが、最寄りの駅からタクシーで約30分という立地も、このコースの「隔離感」を演出しています。
実際にプレーして分かった「美しい悪魔」の正体
1番ホールからいきなり洗礼を受けます。フェアウェイは十分な幅があるように見えるのですが、実際に打ってみると見た目と実際の距離感が全く違うのです。これは設計者ロバート・トレント・ジョーンズの巧妙な視覚トリックで、多くのホールで「目の錯覚」を利用した設計が施されています。
特に印象深かったのは7番ホール。島グリーンのパー3ですが、風向きによって番手選択が3つも4つも変わります。現地のキャディーが「このホールだけで平均スコアが2打は変わる」と教えてくれましたが、実際にその通りでした。
18ホール全体を通じて感じたのは、単純にボールを飛ばすだけでは攻略できないということです。戦略性、精度、そして何より精神力が試されるコースなのです。
最大の難所で味わった屈辱と感動
このコースで最も恐れられているのが13番ホールのパー4です。距離はそれほど長くないのですが、ティーショットの落下地点に巨大な池が待ち構えています。しかも、安全に刻もうとすると、セカンドショットが極端に難しくなるという二重の罠が仕掛けられているのです。
実際にプレーした時、同伴者の一人がここで8打を叩きました。しかし不思議なことに、そのゴルファーは怒るどころか「こんな完璧な設計があるのか」と感動していたのです。これがレ・ボルデの魔力なのかもしれません。
地元のメンバーに聞いた話では、プロゴルファーでも初回は必ずスコアを崩すとのこと。世界ランキング上位の選手でも、このコースでは100を切るのに苦労することがあるそうです。
知られざるコースの秘密と地元民だけが知る楽しみ方
レ・ボルデには一般のガイドブックには載っていない興味深い特徴があります。実はコース内に野生動物保護区域が設けられており、プレー中に鹿やキツネに出会うことがあるのです。15番ホール付近では、朝早い時間帯に野生の鹿がフェアウェイを横切る姿を見ることができます。
クラブハウスのレストランでは、地元ソローニュ地方の伝統料理が味わえます。特にジビエ料理は絶品で、プレー後の疲れた体に染み渡る美味しさです。料金は約40ユーロからで、パリの高級レストランと比べても遜色ない質の高さです。
また、このコースには「リベンジ制度」という面白いシステムがあります。初回プレーでスコアが満足いかなかった場合、1か月以内であれば半額でもう一度チャレンジできるという珍しいサービスがあります。ただし、これを利用するゴルファーの多くが「2回目の方がさらに難しく感じた」と口を揃えて言うのも、このコースの不思議なところです。
コース設計者のロバート・トレント・ジョーンズは、実はこのコースを作る際に3年間で127回も設計図を書き直したという逸話があります。現地スタッフによると、彼は「ゴルファーを謙虚にさせるコース」を目指していたそうで、その意図は確実に達成されていると言えるでしょう。
プレー後に残る不思議な余韻と再挑戦への想い
レ・ボルデでのラウンドを終えた後、多くのゴルファーが感じるのは単純な達成感ではありません。むしろ「まだこのコースの本当の姿を理解していない」という、もどかしさに近い感情です。
帰路につく車の中で、同伴者たちと「あのホールはこうすれば良かった」「次回はこの戦略で挑もう」という話で持ちきりになります。これほどプレー後の議論が盛り上がるコースは珍しく、それだけ印象深い体験だったということでしょう。
地元のタクシー運転手が教えてくれたのですが、このコースを訪れる日本人ゴルファーの多くが「人生観が変わった」と言うそうです。大袈裟に聞こえるかもしれませんが、実際にプレーしてみると、その意味が分かるような気がします。
スコアカードを見返すたびに、悔しさと同時に「また挑戦したい」という気持ちが湧き上がってきます。レ・ボルデ ゴルフは、単なるゴルフコースを超えた、一種の人生修行の場なのかもしれません。きっと多くのゴルファーが、このコースでの体験を一生忘れることはないでしょう。