スコットランド北端に眠る「幻のゴルフ場」って本当?
スコットランドの最北端近く、ドーノックという小さな町に、世界中のゴルファーが憧れる聖地があります。それがロイヤル・ドーノック・ゴルフクラブです。1616年創設という驚異的な歴史を誇り、世界で3番目に古いゴルフコースとして知られています。
エディンバラから車で約4時間、インヴァネスからでも1時間半という立地の不便さが、かえってこのコースの神秘性を高めています。「予約が取れない」という噂が一人歩きしていますが、実際のところはどうなのでしょうか。私が実際に体験した真実をお伝えします。
なぜ「王室御用達」の称号を得たのか?
1906年、エドワード7世によって「ロイヤル」の称号を授与されたこのコースですが、その理由は単なる格式だけではありません。当時の王室メンバーが実際にここでプレーし、その自然美と戦略性に魅了されたのです。
特筆すべきは、この称号を得たゴルフ場の中でも、最も商業化されていない点です。派手な宣伝もなく、巨大なプロショップもない。クラブハウスは築100年を超える石造りの建物で、まるで時が止まったかのような静寂が漂います。
現地のプロに聞いた話では、王室メンバーは今でも時折訪れるそうです。その際は一般客には知らされず、ひっそりとプレーを楽しんでいるとのこと。これこそが真の「ロイヤル」たる所以でしょう。
チャンピオンシップコースの「罠」を知っていますか?
メインとなるチャンピオンシップコースは、全長6,514ヤード、パー70の設計です。数字だけ見ると現代のゴルフ場に比べて短く感じますが、これが大きな間違いです。
最大の特徴はガース(gorse)と呼ばれる黄色い花を咲かせる棘のある低木です。このガースが戦略的に配置されており、少しでもコースを外れると、ボールを探すのさえ困難になります。私も実際に3番ホールで経験しましたが、ガースに入ったボールは諦めて新しいボールでプレーするしかありませんでした。
さらに驚いたのは風の影響です。北海からの強風が常に吹いており、晴れていても風速10メートル以上は当たり前。クラブ選択を2番手以上変える必要があり、まさに「自然との真剣勝負」を強いられます。
予約の「裏技」と料金の実際は?
多くの日本人ゴルファーが「予約が取れない」と諦めているロイヤル・ドーノックですが、実は平日なら比較的予約が取りやすいのが実情です。特に9月から4月の冬季は、現地でも「空いている」と言われるほどです。
料金は時期によって大きく変動します。夏季(6月〜8月)のチャンピオンシップコースは1ラウンド約200ポンド(約35,000円)ですが、冬季なら半額以下の80ポンド程度でプレー可能です。セカンドコースのストルーイコースなら、さらにリーズナブルな料金設定になっています。
予約のコツは、直接電話で問い合わせることです。オンライン予約システムでは満席表示でも、電話では空きがあることが多々あります。現地の方は非常に親切で、片言の英語でも丁寧に対応してくれました。
知られざる「セカンドコース」の魅力とは?
多くの人が見落としているのが、ストルーイコースというセカンドコースの存在です。チャンピオンシップコースほど有名ではありませんが、こちらも1899年開場という100年以上の歴史を持つ名コースです。
全長6,265ヤード、パー68のこのコースは、チャンピオンシップコースよりも戦略性が高く、実は地元の上級者に愛されています。特に13番ホールからの北海の眺望は絶景で、「ここでゴルフができただけで人生が豊かになった」と感じさせてくれます。
料金もチャンピオンシップコースの約半額と手頃で、予約も取りやすいのが魅力です。両コースをセットでプレーする36ホールパッケージなら、さらにお得になります。
アクセスと滞在のコツ
ドーノック町内にはドーノック・キャッスル・ホテルという素晴らしい宿泊施設があります。ゴルフ場から徒歩5分という立地で、15世紀の城を改装した歴史あるホテルです。
地元グルメで疲れを癒そう
プレー後の楽しみといえば、やはり地元の食事です。クラブハウス内のレストランでは、スコティッシュ・ビーフのステーキが絶品です。地元ハイランド牛を使った柔らかい肉質は、18ホールで疲れた体に染み渡ります。
町の中心部にある「The Eagle Hotel」では、新鮮なハイランド・サーモンを味わえます。北海で獲れたばかりのサーモンは、日本で食べるものとは全く違う濃厚な味わいです。地元のウイスキー「グレンモーレンジー」との相性も抜群で、ゴルフ談義に花を咲かせるのに最適な環境です。
意外な歴史の真実
実は、ロイヤル・ドーノックには一般的にはあまり知られていない興味深い事実があります。このコースは世界初の女性ゴルフ会員制度を導入したゴルフ場の一つなのです。1889年という早い時期から女性の会員を受け入れており、当時としては革新的な試みでした。
さらに驚くべきことに、あの有名なゴルフコース設計家ドナルド・ロスがここで修行を積んだという事実です。後にアメリカで数多くの名コースを手がけた彼の原点がここにあったのです。現在のコースレイアウトにも、彼の影響が色濃く残っています。
プレー時の実践的なアドバイス
ロイヤル・ドーノックでプレーする際の服装規定は厳格です。ジャケットとネクタイ着用がクラブハウス内では必須で、ゴルフウェアも襟付きシャツ、長ズボン着用が求められます。ジーンズやスニーカーは禁止されているため、事前の準備が重要です。
風対策として、軽量のレインウェアを必ず持参してください。晴れていても突然の雨や強風に見舞われることがあります。また、ボールは多めに用意することをお勧めします。前述のガースに入ったボールは、ほぼ確実にロストボールとなります。
キャディを雇うことも可能で、料金は1ラウンド約50ポンドです。コースの特徴や風の読み方を熟知したキャディのアドバイスは、スコアメイクだけでなく、このコースの歴史や逸話を聞く貴重な機会にもなります。
帰国後も続く特別な思い出
ロイヤル・ドーノックでプレーした証として、スコアカードとピンフラッグのレプリカをプロショップで購入できます。スコアカードには各ホールの詳細な解説が英語で書かれており、帰国後に読み返すたびにあの日の記憶が蘇ります。
多くのゴルファーが口を揃えて言うのは、「人生観が変わった」ということです。商業主義とは一線を画した純粋なゴルフの楽しさ、自然との調和、そして400年以上続く伝統の重み。これらすべてを肌で感じられるのが、ロイヤル・ドーノックの真の魅力なのです。
確かに遠く、確かに予約は簡単ではありません。しかし、一度この聖地でプレーすれば、なぜ世界中のゴルファーがここを目指すのかが理解できるはずです。それは単なるゴルフ場ではなく、ゴルフというスポーツの原点に触れる特別な体験だからです。