ビクトリア・ゴルフクラブで痛感した「格式の重み」と日本人ゴルファーが知らない厳格ルール

まさか服装チェックでこんなに厳しいとは?

ビクトリア・ゴルフクラブの格式高いクラブハウス

カナダ・ブリティッシュコロンビア州にあるビクトリア・ゴルフクラブ。1893年創設という歴史を誇るこのコースで、私は日本のゴルフ場では経験したことのない「格式の洗礼」を受けました。ゲートをくぐった瞬間から漂う重厚な空気感は、まさに英国統治時代の面影を色濃く残す老舗クラブそのもの。

入口でのドレスコードチェックは想像以上に厳格で、襟なしシャツはもちろんNGですが、驚いたのはロゴの大きさまで規定されていること。日本から持参したポロシャツのブランドロゴが「少し大きすぎる」と指摘され、プロショップで急遽購入する羽目になりました。料金は18ホールで約180カナダドル(約2万円)と決して安くありませんが、この体験は値段以上の価値がありました。

1893年から続く「本物の伝統」を肌で感じる瞬間

歴史あるコースレイアウトの美しい景観

ティーオフの瞬間、目の前に広がる光景は圧巻でした。130年間変わらぬレイアウトを保持するコースは、現代のゴルフ場とは一線を画す趣があります。特に印象的だったのはフェアウェイの起伏の自然さ。人工的な整地を最小限に抑え、土地本来の地形を活かした設計は、まさに「ゴルフの原点」を感じさせてくれます。

営業は4月から10月までと限定的で、ビクトリア市内から車で約20分の立地にあります。朝8時からの営業開始に合わせて訪れましたが、平日でもメンバーやゲストで賑わっていました。特に夏季(6月~8月)は予約が取りにくく、最低でも2週間前の予約が必要です。

キャディマスターが教えてくれた「隠された名物ホール」

コース途中の戦略的なハザード配置

ラウンド前、経験豊富なキャディマスターが教えてくれたのは、観光ガイドには載っていない「13番ホールの秘密」でした。このパー4ホールは一見平凡に見えますが、実はカナダ総督が愛用したティーグラウンドが残されているのです。現在も使用可能で、特別にそこからティーオフさせてもらいました。

風の読み方も独特で、海からの風向きが午後になると劇的に変化します。午前中は穏やかだった海風が、14時頃から急激に強くなり、番手選択が一気に難しくなります。地元メンバーたちは「ビクトリア・ウィンド」と呼んでこの現象を熟知しており、午後のラウンドは風との戦いになることを覚悟しておきましょう。

クラブハウスで体感する「真の会員制クラブ文化」

伝統的なクラブハウス内部の様子

ラウンド後のクラブハウス体験こそ、このゴルフクラブの真価が発揮される場面です。19世紀から続くアフタヌーンティー文化が今も健在で、ラウンド終了後にはメンバーズラウンジでの軽食が楽しめます。ただし、ここにも厳格なルールがあり、ゴルフシューズでの立ち入りは厳禁。必ずシューズを履き替える必要があります。

特に興味深かったのは、壁に掲げられた歴代チャンピオンの写真の中に、1920年代の女性ゴルファーの記録が残されていること。カナダでも女性の社会進出が遅れていた時代に、このクラブでは既に女性メンバーが活躍していたという事実は、進歩的な運営方針を物語っています。

予約から帰路まで:知っておくべき実践的アドバイス

ゴルフクラブでの実際のプレー風景

実際にラウンドを計画する際の具体的なポイントをお伝えします。予約は電話またはメンバー経由が基本で、オンライン予約システムは導入されていません。これも伝統を重んじるクラブならではの方針です。

ビクトリア市内からのアクセスは、レンタカーが最も便利ですが、クラブ周辺は一方通行が多いため、初回訪問時は余裕を持って出発することをお勧めします。また、ラウンド後の着替えやシャワーも時間に制限があり、次の組への配慮から17時までにはクラブハウスを出るのがマナーとされています。

カナダの他のゴルフ場と大きく異なるのは、チップの習慣です。キャディマスターやクラブハウススタッフへのチップは、金額よりも感謝の気持ちを込めた渡し方が重要視されます。目安としては、キャディマスターには10カナダドル程度、特別なサービスを受けた場合のスタッフには5ドル程度が適切です。

ラウンド中に遭遇した印象的なエピソードもありました。14番ホールで同伴した地元メンバーが教えてくれたのは、このコースでプレーした著名人の隠れたエピソード。1960年代にはあの映画俳優ボブ・ホープが定期的に訪れ、特に16番パー3ホールでホールインワンを達成したという記録が残されています。その記念プレートは今もティーグラウンド脇にひっそりと設置されており、多くのゴルファーが気づかずに通り過ぎてしまうほど控えめな場所にあります。

想像以上に手強い「見た目以上の戦略性」

コース攻略で最も苦戦したのは、古典的な設計ゆえの距離感の錯覚でした。現代のGPSに慣れた身には、目測での距離判断が予想以上に困難。特に海抜の変化が微妙で、打ち上げ・打ち下ろしの判断を誤りやすく、番手選択で何度も失敗しました。グリーンも小さめで、ピン位置によっては非常にタフな攻めが要求されます。

ラウンド終了後、プロショップで購入したクラブオリジナルのボールマーカーは、今でも大切な記念品として愛用しています。単なるお土産ではなく、130年の歴史を感じられる重厚なデザインは、このコースでの体験を思い出させてくれる特別なアイテムです。

ビクトリア・ゴルフクラブでの一日は、単なるゴルフ以上の価値がありました。格式と伝統の重みを肌で感じ、ゴルフというスポーツの奥深さを改めて実感できる、まさに一生に一度は体験すべき特別な場所だったのです。