サンペドロ・デ・アタカマで高山病に苦しみながら見た絶景が人生を変えた話

標高2400m、酸素薄めの天空の町で何が待っている?

サンペドロ・デ・アタカマの街並みと周囲の山々

チリ北部、ボリビアとの国境近くに位置するサンペドロ・デ・アタカマ。人口わずか5000人のこの小さな町が、なぜ世界中の旅行者を魅了するのでしょうか。答えは単純です。ここは地球上で最も乾燥したアタカマ砂漠の入り口であり、まるで火星のような風景が広がる場所だからです。

私が初めてこの町に降り立ったのは、サンティアゴから飛行機で約2時間のカラマ空港経由でした。空港から町まではバスで約1時間30分。料金は約3000ペソ(約500円)ほどです。しかし、到着してすぐに感じたのは標高2400メートルの洗礼でした。軽い頭痛と息切れ、そして何より乾燥した空気が喉を刺すような感覚。これが私の冒険の始まりでした。

町の中心部を歩いてみると?

町の中心部は徒歩で回れるほどコンパクトです。メインストリートのカラコレス通りには、ツアー会社、レストラン、お土産屋が並んでいます。ここで驚いたのは、看板に日本語表記があるお店の多さ。実は日本人観光客がとても多く、現地の人たちも慣れているのです。

町の中心にあるサンペドロ教会は17世紀に建てられた歴史ある建物で、アドベ(日干しレンガ)とサボテンの木で造られています。入場は無料で、朝6時から夜8時まで開放されています。内部は質素ですが、厳しい砂漠環境の中で400年近く佇み続けるその存在感に圧倒されます。

月の谷で体験した地球じゃない感覚

月の谷の奇岩群と砂漠の風景

町から西へ約13キロメートル、バレ・デ・ラ・ルナ(月の谷)は必見のスポットです。ツアーに参加すれば往復約4時間、料金は25000ペソ(約4200円)程度。しかし、この金額を払う価値は十分にあります。

夕方のツアーに参加した私は、岩塩でできた奇怪な形の岩山群を目の当たりにしました。風と時間が作り出した芸術品のような風景は、まさに月面のよう。ガイドが教えてくれたのですが、実際にNASAがここで火星探査車のテストを行ったことがあるそうです。それほど地球離れした光景なのです。

サンセットポイントでの感動体験

ツアーのクライマックスは展望台でのサンセット鑑賞。標高が高く空気が澄んでいるため、太陽が地平線に沈む瞬間の色彩は息をのむ美しさです。オレンジ、ピンク、紫と移り変わる空の色に、周囲の観光客たちも静寂の中で見入っていました。ただし、日が沈むと気温は急降下します。昼間は25度でも夜は5度以下になることもあるので、必ず防寒着を持参してください。

ウユニ塩湖ツアー、3日間の過酷な冒険

ウユニ塩湖の真っ白な塩の平原

サンペドロ・デ・アタカマを拠点にしたい理由の一つが、ウユニ塩湖への3日間ツアーです。ボリビアのウユニ村から行くよりも安く、約150ドル(約22000円)でツアーに参加できます。ただし、これは決して楽な旅ではありません。

初日は朝7時に出発し、4WDで未舗装路を約8時間かけてボリビア国境を越えます。途中で立ち寄るエドゥアルド・アバロア国立保護区では、フラミンゴが生息するカラフルな湖や間欠泉を見ることができます。しかし、標高4000メートルを超える場所での移動は想像以上に体力を消耗します。

塩の平原で見た奇跡の風景

2日目の早朝、ついにウユニ塩湖に到着。乾季(5月~10月)だったため、純白の塩の結晶が地平線まで続く絶景が広がっていました。トリック写真を撮るのも楽しいですが、何より印象的だったのは完全なる静寂でした。風の音すら聞こえない、地球上でこれほど静かな場所があるのかと驚きました。

星空観測、天の川が手に届きそうな夜

アタカマ砂漠の満天の星空

アタカマ砂漠が世界で最も天体観測に適した場所の一つであることをご存知でしょうか。年間300日以上が晴天で、湿度は極めて低く、光害もほとんどありません。実際に、ALMA電波望遠鏡などの世界最先端の天文台がこの地域に建設されています。

町から車で約15分の場所で行われる星空ツアーに参加したのは、私の滞在3日目の夜でした。料金は約18000ペソ(約3000円)。ガイドが用意してくれた望遠鏡で土星の輪を初めて肉眼で見た時の感動は今でも忘れられません。南半球でしか見ることのできない南十字星や、まるで雲のように濃密な天の川。都市部では決して体験できない宇宙の壮大さを実感しました。

地元ガイドだけが知る秘密のスポット

ツアーガイドのカルロスさんが教えてくれたのは、観光客がほとんど知らない場所でした。町から北へ約30キロメートル、プカラ・デ・キトールという12世紀の要塞遺跡です。アタカマ砂漠にも先住民の高度な文明があったことを示す貴重な遺跡で、石造りの建物群が砂漠の中に静かに佇んでいます。入場料は3000ペソですが、訪れる人は1日に数人程度。歴史好きには堪らないスポットです。

高山病と闘いながらの絶品グルメ体験

アタカマ砂漠の伝統料理と地元食材

標高の影響で食欲がなくなりがちですが、それでも挑戦したい地元グルメがあります。リャマ肉のステーキは、この地域ならではの珍味です。カラコレス通りの「La Estaka」というレストランで食べることができ、価格は約8000ペソ(約1350円)。癖のない赤身肉で、意外にも日本人の口に合います。

もう一つのおすすめはキノアサラダ。この地域はキノアの原産地の一つで、新鮮で栄養価の高いキノアを使った料理が豊富です。高山病で体調が優れない時でも消化が良く、エネルギーを補給できます。

水分補給が命を左右する?

アタカマ砂漠での滞在で最も重要なのは水分補給です。湿度が5%以下という極度の乾燥状態では、気づかないうちに脱水症状が進行します。私は1日最低3リットルの水を飲むよう心がけました。町のスーパーマーケット「Unimarc」では500mlのペットボトルが約800ペソで購入できます。

現地の人が教えてくれたのは、コカの葉茶を飲むこと。高山病の予防に効果があるとされ、多くのホテルやレストランで無料提供されています。苦味がありますが、頭痛や吐き気が軽減される実感がありました。

帰路で感じた、日常への違和感

5日間のサンペドロ・デ・アタカマ滞在を終えて帰路につく時、不思議な感覚に襲われました。カラマ空港へ向かうバスの中で、携帯電話に電波が戻り、メールが一気に届いた瞬間、現実世界に引き戻される感覚でした。

砂漠で過ごした静寂の時間、地球の雄大さを肌で感じた体験、そして高山病という身体的な試練を通じて、自分自身と向き合えた貴重な時間でした。観光地としては決して快適とは言えませんが、だからこそ得られる深い感動がありました。

もしあなたが単なる観光地巡りではなく、本当の意味での冒険を求めているなら、サンペドロ・デ・アタカマは間違いなくその期待に応えてくれる場所です。ただし、しっかりとした事前準備と体調管理を忘れずに。この地は優しくはありませんが、その分、一生忘れることのない思い出を与えてくれるはずです。