ハバナ旧市街で迷子になった私が発見した、ガイドブックには載らない本当の魅力

コロニアル建築の迷宮に足を踏み入れる前に知っておきたいこと

ハバナ旧市街のコロニアル建築群

ハバナ旧市街を初めて訪れる人は、必ずといっていいほど迷います。私もその一人でした。石畳の路地が入り組み、同じような建物が並ぶこの街は、まさに16世紀のスペイン植民地時代から続く巨大な迷宮です。

ハバナ旧市街(ラ・アバナ・ビエハ)は、1982年にユネスコ世界遺産に登録された約5平方キロメートルの歴史地区。入場料は無料で、24時間いつでも歩けますが、観光のベストタイムは午前9時から午後5時頃までです。この時間帯なら、主要な教会や博物館も開いているからです。

旧市街へのアクセスは、新市街から車で約15分、徒歩なら40分ほど。タクシー料金は約5CUC(当時のキューバの通貨単位)が相場でした。しかし、本当の冒険は旧市街に足を踏み入れてからが始まります。

迷子になって気づいた、時が止まった街の秘密

石畳の路地を歩く地元の人々

地図を片手に歩いていたはずなのに、気がつくと全く知らない路地にいました。そこで出会ったのは、洗濯物を干している地元のおばあちゃんたち。彼女たちの笑顔が、私の焦りを一瞬で和らげてくれました。

実は、ハバナ旧市街には約6万人の住民が今でも普通に生活しています。観光地でありながら、リアルな生活空間でもあるのです。朝7時頃に歩くと、子どもたちが学校に向かう姿や、パンを買いに行く人々の日常風景に出会えます。

アルマス広場は旧市街の中心部にあり、毎日午前9時から午後5時まで古本市が開かれています。ここで私が発見したのは、1950年代のキューバの写真集。値段は3CUCでしたが、その写真から見えてきたのは、革命前のハバナの華やかな姿でした。

カテドラル広場で感じた、音楽が溢れる魂の震え

カテドラル広場の大聖堂と音楽演奏

カテドラル広場に着いた時、バロック様式の大聖堂の前でサルサの演奏が始まりました。午後2時頃のことです。トランペット、コンガ、ギターの音色が石造りの建物に反響して、まるで天然のコンサートホールのようでした。

ハバナ大聖堂は1748年に完成し、正式名称は「聖クリストファー大聖堂」。入場は無料で、午前10時30分から午後4時まで見学できます。内部の祭壇は見事ですが、私が最も感動したのは、大聖堂の鐘の音でした。毎正時に響く鐘の音は、500年以上前から旧市街に時を告げ続けています。

広場のカフェで地元の人に教えてもらったのですが、この広場では毎週土曜日の午後6時から、地元の音楽学校の学生たちが無料コンサートを開いているそうです。観光客向けではない、本物のキューバ音楽に出会える貴重な機会です。

革命博物館近くで見つけた、隠れた美食スポット

地元のパラダールの料理風景

お腹が空いて困っていた時、革命博物館から徒歩3分ほどの路地で、小さな看板を見つけました。「Paladar」と書かれたその店は、個人経営のレストランでした。

パラダールは、キューバ政府が1990年代に認可した家庭経営のレストラン。最大12席という制限があるため、どの店も小さくアットホームです。私が入ったその店では、おばあちゃんが一人で切り盛りしていて、ロパ・ビエハ(牛肉の煮込み)を8CUCで出してくれました。

この料理、実は「古い服」という意味で、煮込んだ牛肉がボロボロの布のように見えることから名付けられたとか。味は絶品で、黒豆とライス、プラタノ(揚げバナナ)が付いてきました。観光客向けレストランでは15CUC以上する料理が、半額で味わえたのです。

営業時間は午前11時から午後9時までで、日曜日は休み。事前予約は不要ですが、夕食時は地元の人で混雑することもあります。

サン・フランシスコ広場の鐘楼から見下ろす、絶景の代償

サン・フランシスコ広場の鐘楼からの眺望

旧市街を一望したくて、サン・フランシスコ・デ・アシス教会の鐘楼に上ることにしました。入場料は3CUC、開館時間は午前9時から午後5時まで。しかし、この40メートルの石造りの螺旋階段は想像以上に険しく、途中で何度も休憩が必要でした。

鐘楼に到着した時の感動は忘れられません。ハバナ湾の青い海、カラフルなコロニアル建築の屋根、遠くに見える新市街の高層ビル群。360度のパノラマビューが広がっていました。特に夕方4時頃の景色は絶景で、西日に照らされた建物がオレンジ色に染まります。

ここで出会った地元ガイドのカルロスさんが教えてくれた秘密があります。実は、この鐘楼の鐘は1739年製で、キューバに現存する最古の鐘なのだそうです。そして毎日午後6時に鳴らされるこの鐘の音は、かつて船乗りたちが港に帰る合図として使われていたとか。

夜の旧市街で体験した、予想外のトラブルと発見

日が暮れてからの旧市街は、昼間とは全く違う顔を見せます。街灯が少ないため、石畳でつまづきやすくなります。私も実際に小さな段差で転びそうになりました。夜間の観光には懐中電灯があると安心です。

しかし、夜の旧市街には昼間にはない魅力もあります。プラサ・デ・アルマス周辺では、午後8時頃からストリートミュージシャンたちが集まり始めます。観光客向けではない、地元の人々のための音楽が始まるのです。

ある夜、偶然通りかかったのが「Casa de la Trova」という伝統音楽の店。入場料は5CUCで、午後9時から深夜1時まで営業しています。ここで聞いたソン(キューバの伝統音楽)は、レコードでは決して味わえない生の迫力がありました。演奏者の多くは70歳を超える高齢者で、革命前からの音楽を今に伝える生き証人たちでした。

帰り道で気づいた、本当の旧市街の魅力とは?

3日間の旧市街滞在を終えて気づいたのは、ここが単なる観光地ではないということです。世界遺産であり、博物館のような街でありながら、同時に人々の生活の場でもある。この二面性こそが、ハバナ旧市街の最大の魅力なのかもしれません。

朝の静寂、昼の賑わい、夕方の美しさ、夜の神秘さ。時間帯によって全く違う表情を見せるこの街で、私は迷子になった時間も含めて、すべてが貴重な体験だったと感じています。

最後に一つアドバイスを。旧市街を訪れる際は、時間に余裕を持って、地図は参考程度に考えてください。道に迷うことも、予定外の発見も、すべてがハバナ旧市街の醍醐味なのですから。