アレクサンドリア図書館跡で「何もない」現実に直面した私が気づいた本当の魅力

期待と現実のギャップに愕然?古代最高峰の図書館跡を訪ねて

アレクサンドリア図書館跡の現在の様子

エジプトのアレクサンドリアにある図書館跡を訪れた時、正直言って「え、これだけ?」と思ってしまいました。古代世界で最も偉大な知の殿堂と呼ばれたアレクサンドリア図書館の跡地は、想像していた壮大な遺跡とは程遠い場所だったのです。

実際の跡地は、アレクサンドリア市内の住宅街に紛れるように存在しています。コルネーシュ通り沿いの小さな区画で、現在は「セラペウム遺跡」として知られる場所が、かつての図書館の分館があった場所とされています。入場料は約50エジプトポンド(約300円)で、朝8時から夕方5時まで開放されています。

しかし、この「何もなさ」こそが、実は深い歴史の物語を語っているのです。

なぜ何も残っていないの?消失の謎を追う

図書館跡地に残る石柱の遺構

アレクサンドリア図書館が「消失」した理由については、実は複数の説があります。一般的には「アラブ軍による焼失」や「キリスト教徒による破壊」が有名ですが、現地のガイドさんから聞いた話では、実際はもっと複雑だったようです。

紀元前3世紀にプトレマイオス朝によって建設された図書館は、最盛期には70万巻もの書物を所蔵していました。ここで驚くのは、当時の「書籍収集方法」です。アレクサンドリア港に入港する全ての船舶から書物を一時的に没収し、写本を作成してから原本を図書館に収蔵するという、現代なら完全に著作権法違反の手法を取っていたのです。

図書館の衰退は段階的に進みました。ローマ時代の予算削減、地震による建物損傷、そして宗教的対立による知識人の流出。最終的には7世紀のアラブ征服時には、すでに往年の姿はなくなっていたというのが現在の定説です。

現地で感じる「知の重み」とは?

遺跡内に展示されている古代の書物レプリカ

跡地を歩いていると、不思議な感覚に襲われます。足元の石畳の下に、かつてアルキメデスやエラトステネスが研究に没頭した場所が眠っているかもしれないと思うと、鳥肌が立ちました。

特に印象的だったのは、遺跡内にある小さな展示室です。ここにはパピルスの製造過程を実演するコーナーがあり、古代の書物がどのように作られていたかを体験できます。パピルスを実際に触ってみると、想像以上に丈夫で、これが2000年以上前の「紙」だったことに驚かされます。

現地の考古学者によると、図書館跡からは今でも時々、古代の陶器片や硬貨が発見されるそうです。2019年には、図書館で使用されていたと思われるインク壺の破片が発見され、当時の学者たちの研究風景をより具体的に想像できるようになりました。

新アレクサンドリア図書館との違いに驚愕?

現代に建設された新アレクサンドリア図書館の外観

古代図書館跡から車で約20分の場所には、2002年に開館した「新アレクサンドリア図書館(Bibliotheca Alexandrina)」があります。この現代的な建物を訪れると、古代との対比がより鮮明になります。

新図書館は円盤状の斬新なデザインで、800万冊の蔵書能力を持つ巨大施設です。入場料は大人70エジプトポンド(約420円)ですが、古代図書館跡とのセット券も販売されています。

ここで面白いのは、新図書館の地下に「写本博物館」があることです。古代アレクサンドリア図書館で実際に使われていた写本技術を、現代の技術で再現した展示が見られます。特に注目すべきは、「アルキメデス・パリンプセスト」のデジタル復元版です。これは10世紀に宗教書として再利用されたパーチメント(羊皮紙)の下に、アルキメデスの失われた数学論文が隠されていたという、まさに「古代の宝探し」のような発見です。

訪問前に知っておきたい現実的なアドバイス

図書館跡周辺の街並みと案内標識

カイロから日帰りで訪れる場合、電車で約2時間半、料金は1等車で約200エジプトポンド(約1200円)です。ただし、遅延は日常茶飯事なので、余裕を持ったスケジュールを組むことをお勧めします。

現地での注意点として、図書館跡周辺にはほとんど日陰がありません。特に夏場(6月〜9月)は気温が40度を超えることもあるため、帽子と日焼け止めは必須です。私が訪れた8月は、午後2時頃には石の遺構が熱くて触れないほどでした。

意外だったのは、遺跡内に野良猫が多数住み着いていることです。エジプト全土で猫は大切にされていますが、ここの猫たちは人懐っこく、まるで古代の知識を守る番人のような風格があります。地元の人によると、この猫たちの祖先は何世代にもわたってこの場所に住んでいるそうで、ある意味で「生きた歴史の証人」と言えるかもしれません。

食事については、遺跡近くの「Abu Ashraf」というローカル食堂がおすすめです。地元の漁師が営む店で、新鮮な魚料理が1皿50エジプトポンド程度で味わえます。特に「サマック・マクリー(焼き魚)」は絶品で、古代アレクサンドリアの人々も同じような魚を食べていたのかもしれないと想像すると、より一層美味しく感じられました。

最後に、この場所の真の価値は「目に見える遺構」ではなく、「失われた知識への想像力」にあると感じました。何もない石の上に立ち、風を感じながら目を閉じると、古代の学者たちの議論する声が聞こえてくるような気がします。現代のデジタル社会に生きる私たちにとって、知識の脆さと貴重さを改めて考えさせてくれる、そんな特別な場所でした。