ラリベラ岩窟教会群で迷子になった私が語る「地下の新エルサレム」の罠と感動

まさか地下で迷子になるなんて…ラリベラの複雑すぎる構造

ラリベラの岩窟教会群の複雑な地下構造

エチオピアのラリベラで、まさか地下の教会群で迷子になるとは思いませんでした。この世界遺産は、12~13世紀に岩を掘り抜いて造られた11の教会群で構成されているのですが、地上から見ただけでは全体像が全く分からないんです。

ラリベラの岩窟教会群は、エチオピア北部の標高2,630メートルの高地にあります。入場料は50米ドル(約7,500円)で、朝の6時から夕方の6時まで見学可能です。アディスアベバから国内線で約1時間20分、そこから車で約30分の場所にあります。

私が最初に驚いたのは、教会が「建てられた」のではなく「掘られた」ということでした。地面を上から垂直に掘り下げ、岩の塊から教会の形を彫り出していく。想像してみてください、巨大な岩の彫刻を作るように、屋根も壁も柱も全て一つの岩から削り出すんです。

地下通路が張り巡らされた理由とは?

なぜこんなに複雑な地下構造になっているのか。実は、ラリベラの教会群は単なる宗教施設ではありません。12世紀後半、イスラム勢力がエルサレムを占領し、キリスト教徒の聖地巡礼が困難になった時代、ザグウェ朝のラリベラ王が「新しいエルサレム」を造ろうと決意したのです。

地下に造られたのには軍事的な理由もありました。外敵から身を守るため、そして秘密の礼拝を行うため。教会同士を結ぶ地下通路は、まさに地下都市の機能を果たしていたのです。

聖ギョルギス教会の完璧すぎる十字架に震えた瞬間

完璧な十字架の形をした聖ギョルギス教会

ラリベラで最も有名な聖ギョルギス教会を上から見下ろした瞬間、言葉を失いました。完璧な十字架の形に掘られた教会が、まるで地面に埋め込まれた巨大な宝石のように見えたのです。

この教会の凄さは、その精密さにあります。高さ約15メートル、幅約12メートル、すべてが一枚岩から掘り出されています。しかも、建築学的に完璧なプロポーションを保っているんです。現代の技術でも困難な工事を、800年以上前に手作業で行ったという事実に圧倒されます。

なぜ最後に造られたのか?

実は聖ギョルギス教会は、11の教会の中で最後に造られました。伝説によると、エチオピアの守護聖人である聖ギョルギス(聖ジョージ)が、自分の教会がないことに怒り、ラリベラ王の夢に現れて文句を言ったのだとか。慌てて造られたにも関わらず、最も美しい教会になったというのは皮肉ですね。

早朝ミサで体験した信者たちの生きた祈り

早朝ミサに参加する地元の信者たち

観光地として有名なラリベラですが、今でも生きた教会として機能していることを実感したのは、早朝5時のミサでした。聖マリア教会で行われるミサに参加すると、白いショールを被った信者たちが、800年前と変わらない祈りを捧げている姿に出会えます。

エチオピア正教のミサは独特です。古代エチオピア語(ゲエズ語)で歌われる賛美歌、香の煙が立ち込める薄暗い教会内、そして信者たちの熱心な祈り。観光客の私たちも、自然と厳粛な気持ちになります。

写真撮影は要注意

ミサ中の写真撮影は基本的に禁止です。フラッシュは絶対にNG。地元の人々の神聖な時間を邪魔しないよう、最大限の配慮が必要です。私は最初これを知らずに、厳しく注意されてしまいました。

ベット・マルヤムで発見した古代の謎の記号

古代の謎めいた記号が刻まれた教会内部

ベット・マルヤム(聖母マリア教会)で、ガイドブックには載っていない興味深いものを発見しました。教会の壁に刻まれた謎の記号です。一見すると装飾に見えますが、よく観察すると、古代エチオピアの文字や、さらに古い象形文字のようなものが混在しているのです。

現地のガイドに尋ねても、「昔からあるもの」としか答えてくれません。一説では、キリスト教以前の古代宗教の名残りとも言われていますが、詳細は謎に包まれています。こうした未解明の要素が、ラリベラの神秘性を高めているのです。

隠し部屋の存在

さらに驚いたのは、この教会には一般観光客が入れない隠し部屋があることです。考古学者によると、これらの隠し部屋からは古代の写本や宗教的遺物が発見されているそうですが、詳細は公開されていません。800年の歴史の中で、まだ解明されていない秘密がどれほどあるのか、想像するだけでわくわくします。

雨季に訪れて知った水の恐怖と美しさ

雨季に水が溜まった教会内部の様子

私がラリベラを訪れたのは雨季の8月でした。多くのガイドブックは乾季(10月~5月)を推奨していますが、雨季には雨季の美しさがあります。ただし、覚悟も必要です。

ベット・ゴルゴタ教会の地下部分に降りた時、膝まで水に浸かってしまいました。岩窟教会の宿命として、雨水の排水が完全ではないのです。しかし、水面に映る古代の柱や天井の光景は、まるで地下の湖に沈んだ遺跡のようで幻想的でした。

持参必須のアイテム

雨季に訪れるなら、防水の靴は絶対に必要です。また、懐中電灯も持参することをお勧めします。教会内部は薄暗く、雨季は特に視界が悪くなります。私は現地で購入しましたが、品質があまり良くありませんでした。

地元の人しか知らない最高の撮影スポット

観光客の多くは決められた見学ルートを歩きますが、地元のガイドと仲良くなると、特別な場所に案内してもらえることがあります。私が教えてもらったのは、聖ギョルギス教会を斜め上から見下ろせる隠れスポットです。

そこからの眺めは、まさに絶景でした。十字架の形が完璧に見え、夕日が教会の岩肌を赤く染める瞬間は、一生忘れられない光景です。ただし、足場が不安定なので、訪れる際は十分な注意が必要です。

撮影のベストタイミング

写真撮影なら、午前10時頃と午後4時頃がおすすめです。太陽の角度が教会内部を自然に照らし、神秘的な光景を撮影できます。特にベット・マルヤムでは、この時間帯に差し込む光が十字架の影を作り出し、まるで神の存在を感じるような写真が撮れました。

想像以上の体力勝負だった現実

ラリベラ観光で予想外だったのは、その体力的な厳しさでした。標高2,630メートルでの階段の上り下りは、平地とは全く違います。11の教会を一日で回ろうとした私は、途中で息切れしてしまい、3日に分けて見学することになりました。

特に大変なのは、教会間を結ぶ地下通路です。狭く、急で、滑りやすい。しかも途中で分岐があり、方向感覚を失いやすいのです。私が迷子になったのも、この通路でした。幸い、地元の少年に助けられましたが、一人での探索は危険だと痛感しました。

現在、ユネスコの支援で教会群の保存工事が進められており、一部の教会では見学に制限があります。訪問前に最新の情報を確認することをお勧めします。ラリベラは単なる観光地ではなく、今も息づく信仰の場であり、古代の謎を秘めた考古学的な宝庫なのです。

この地で過ごした数日間は、私の旅行観を根本から変えました。単に見学するだけでなく、その場の歴史や信仰、そして未解明の謎と向き合う。それこそが、真の旅行の醍醐味なのかもしれません。