パリから日帰りで行けるけれど、甘く見てはいけない理由
パリ中心部からわずか40分、RER C線に揺られて到着するヴェルサイユ。「日帰りで軽く見てこよう」と思っていた私は、現地で愕然としました。宮殿だけでも700を超える部屋があり、庭園は800ヘクタールという途方もない広さ。半日で回れると思っていたのが大間違いでした。
入場料は宮殿のみで20ユーロ、庭園込みのパスポートチケットは30ユーロですが、絶対にパスポートチケットを選んでください。宮殿だけでは、ヴェルサイユの真の魅力の半分も体験できません。開館時間は午前9時からですが、平日でも午前8時30分には現地に到着していることをおすすめします。
最寄り駅のヴェルサイユ・シャトー・リヴ・ゴーシュ駅から宮殿まで徒歩10分ほど。この道のりでさえ、期待感が高まる美しい街並みが続きます。
鏡の間だけじゃない?宮殿内で見逃せない隠れた名所
誰もが知っている鏡の間(ガレリー・デ・グラス)は確かに圧巻です。17枚の鏡で構成された長さ73メートルのこの大広間で、ルイ14世が外国の使節を迎えていたなんて、想像するだけでワクワクしますよね。
しかし、実は私が一番感動したのは別の場所でした。それは王の寝室です。ここでルイ14世は毎朝7時30分、貴族たちに囲まれながら起床する儀式を行っていました。ベッドの周りに金の柵があるのは、王の神聖さを演出するためだったそうです。
さらにマニアックな情報をひとつ。戦争の間の天井画には、ルイ14世がヨーロッパ諸国を踏みつけている絵が描かれています。これは当時のフランスの圧倒的な国力を示すプロパガンダアートなんです。現代なら確実に外交問題になりそうな内容ですが、絶対権力を誇示したかった太陽王らしいエピソードです。
庭園で迷子になる前に知っておきたいこと
800ヘクタールの庭園、これは東京ドーム約170個分の広さです。私は案内図を見ずに歩き始めて、本気で迷子になりました。特にマリー・アントワネットの離宮エリアは宮殿から徒歩30分以上かかるため、時間配分が重要です。
庭園の見どころは季節によって大きく変わります。4月から10月は大噴水ショーが開催され、音楽に合わせて55基の噴水が踊るように水を噴き上げます。この光景は、造園家ル・ノートルが設計した当時の贅沢さを現代に蘇らせてくれます。
意外と知られていないのが、庭園内にある大トリアノン。ルイ14世が公式行事に疲れた時の隠れ家として建てたピンク色の宮殿です。ここは観光客が少なく、静かにヴェルサイユの歴史を感じられる穴場スポットです。
マリー・アントワネットの本当の姿が見える場所
「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」という有名な言葉で知られるマリー・アントワネット。実はこの言葉、彼女は一度も言っていないんです。これは後世の創作だったことが歴史学者によって証明されています。
プチ・トリアノンと呼ばれる彼女の離宮を訪れると、派手なイメージとは違う一面が見えてきます。ここには彼女が作らせた農村風景を再現したエリアがあり、王妃が農民の生活に憧れていたことがわかります。もちろん、実際の農民の生活とはかけ離れた「お姫様ごっこ」的なものでしたが、宮廷生活の息苦しさから逃れたかった彼女の心境が伝わってきます。
この離宮エリアは徒歩だと往復1時間以上かかるため、レンタサイクル(1時間7ユーロ)の利用をおすすめします。プチトラン(観光列車)もありますが、自由度を考えると自転車の方が断然楽しいです。
実際に行って分かった「失敗しない」攻略法
私が実際に体験して学んだ、効率的なヴェルサイユ攻略法をお伝えします。まず火曜日から木曜日の平日を狙ってください。週末は観光バスが次々と到着し、鏡の間では身動きが取れないほどの混雑になります。
時間配分は「宮殿2時間、庭園3時間、マリー・アントワネット離宮1時間」が理想的です。ただし、庭園の噴水ショーがある日(土日祝日)は30分余分に時間を見ておきましょう。
意外な落とし穴が館内のトイレ事情です。宮殿内のトイレは数が少なく、いつも長蛇の列。入場前に駅のトイレを済ませ、庭園エリアのカフェを利用するのが賢明です。
持参すべき必需品とは?
スマートフォンの充電器は必須です。写真を撮りまくっていると、午後にはバッテリーが危険水域に。庭園は想像以上に日差しが強いため、日焼け止めと帽子も忘れずに。
食事は宮殿内のレストランよりも、庭園内にあるラ・プティット・ヴニーズがおすすめ。マリー・アントワネットが愛したオーストリア風のケーキが味わえます。値段は少し高めですが、歴史的な場所で食べる特別感は格別です。
最後に、帰りの電車は夕方のラッシュと重なることが多いので、RER C線の遅延を見込んで時間に余裕を持ってください。パリ市内への帰路で疲れ切った体に、満員電車は本当にきついものです。
でも、その疲れも含めて、ヴェルサイユは間違いなく人生で一度は訪れるべき場所です。フランス革命前夜の華やかさと影を同時に感じられる、これほど歴史の重みを体感できる場所は世界でもそう多くありません。