なぜコルマールは「おとぎ話の世界」と呼ばれるのか?
アルザス地方の小さな町コルマールに足を踏み入れた瞬間、まるで絵本の中に迷い込んだような感覚に襲われます。木組みの家々が運河沿いにひしめき合い、色とりどりの花が窓辺を彩る光景は、確かに現実とは思えないほど美しいのです。でも実は、この町には観光ガイドブックには載っていない、もっと深い魅力が隠されています。
パリ東駅からTGVで約2時間20分、ストラスブールからは在来線で約30分というアクセスの良さも魅力の一つ。しかし多くの観光客が素通りしてしまう場所にこそ、コルマールの真の美しさが宿っているのです。
旧市街の歩き方にコツがある?地元民が教える黄金ルート
観光客の多くはプティット・ヴニーズ(リトル・ベニス)を目指して一直線に向かいますが、実はこれが大きな間違い。朝9時頃に到着したら、まずサン・マルタン教会から歩き始めることをおすすめします。
教会の鐘の音が静寂な街に響く朝の時間帯は、観光バスがまだ到着していないため、本当の意味でコルマールの空気を感じることができます。サン・マルタン教会は入場無料で、内部のステンドグラスは13世紀から15世紀にかけて制作された貴重なもの。特に朝の光が差し込む時間帯の美しさは格別です。
教会から旧市街へ向かう途中、メゾン・デ・テート(頭の家)という奇妙な名前の建物に出会います。1609年に建てられたこの建物、名前の由来は正面に彫刻された106個の頭部装飾から来ています。しかし地元の人に聞くと、実はこれらの顔は当時の市民をモデルにしており、建築家の皮肉とユーモアが込められているのだとか。
リトル・ベニスで船に乗る前に知っておくべき秘密とは?
プティット・ヴニーズでのボートクルーズは確かに素晴らしい体験ですが、料金は大人1人約8ユーロ、所要時間は約25分です。運航時間は3月から11月までの10時から18時頃(季節により変動)。
でも実は、ボートに乗らなくても同じような景色を楽しめる穴場スポットがあります。ポワソニエール河岸の小さな橋から見る景色は、ボートから見るものとほぼ同じアングル。しかも無料で、好きな時間だけその場にいることができます。
さらに地元民だけが知っている秘密をお教えしましょう。夕方17時頃になると、西日が木組みの家々を黄金色に染め上げ、水面にその美しい姿が映り込みます。この時間帯の写真撮影は、プロのカメラマンも狙う「ゴールデンタイム」なのです。
グルメ巡りで絶対に外せない「隠れた名店」の正体
コルマールのグルメといえばシュークルート(ザワークラウト)やフラムクーヘン(薄焼きピザのようなアルザス料理)が有名ですが、本当に美味しい店を知っていますか?
観光地の中心部から少し外れたラ・メゾン・ルージュ(La Maison Rouge)という小さなビストロは、地元民で賑わう隠れた名店。ここのベッコフ(アルザス風肉じゃが)は絶品で、料金は約18ユーロ。観光客向けレストランの半額以下で、本格的なアルザス料理を楽しめます。
もう一つのおすすめはパティスリー・ジルグ。ここのクグロフは、マリー・アントワネットがベルサイユ宮殿でも愛したという伝説のレシピを今でも守り続けています。1個約4ユーロですが、その上品な甘さと独特の食感は、パリの高級パティスリーにも劣りません。
美術館巡りで見逃してはいけない「奇跡の絵画」とは?
ウンターリンデン美術館は入場料12ユーロ、開館時間は9時から18時(火曜休館)ですが、ここには世界中の美術ファンが一目見ようと訪れる「奇跡の作品」があります。
それはイーゼンハイム祭壇画。16世紀初頭にマティアス・グリューネヴァルトによって描かれたこの作品、実は単なる宗教画ではありません。当時、この絵画は病院の祭壇に置かれ、皮膚病患者の治療に使われていたのです。絵画の持つ「癒しの力」を信じた人々の思いが込められた、世界でも類を見ない作品なのです。
さらに興味深いのは、この祭壇画は折り畳み式になっており、宗教行事に合わせて異なる場面を見せる仕組みになっていること。現在では、その全ての面を同時に鑑賞できるよう特別な展示がされています。
お土産選びで後悔しないための地元民アドバイス
コルマールでのお土産選び、実は多くの観光客が失敗しています。旧市街の観光地で売られている「アルザスワイン」の多くは、実は他地域で生産された安価なもの。
本物のアルザスワインを求めるなら、カーヴ・ヒストリック・デ・オスピス・ド・コルマール(Hospices de Colmar)を訪れましょう。ここは1375年から続く歴史あるワイナリーで、試飲は無料、ボトル1本15ユーロからという良心的な価格です。営業時間は10時から12時、14時から17時30分(日曜休み)。
特におすすめはゲヴュルツトラミネールという品種。「ゲヴュルツ」はドイツ語で「スパイス」を意味し、独特の香りと甘みが特徴です。このワインは日本への持ち込みも可能で、開封後も比較的長持ちするため、お土産には最適です。
宿泊先選びの落とし穴?知らないと損する裏情報
コルマールでの宿泊、実は時期によって料金が3倍以上変わることをご存知ですか?12月のクリスマスマーケット期間中は、普段1泊80ユーロのホテルが250ユーロになることも珍しくありません。
逆に狙い目は1月下旬から2月。観光客が激減するこの時期、高級ホテルでも驚くほど安く泊まれます。寒さは厳しいですが、雪化粧したコルマールの美しさは格別で、まさに「知る人ぞ知る」ベストシーズンなのです。
もう一つの穴場はオーベルジュ・ル・マレシャル。旧市街から徒歩5分の立地でありながら、観光客にはあまり知られていない家族経営の小さな宿。1泊朝食付きで約90ユーロですが、オーナー夫妻の温かいもてなしと手作りの朝食は、大手ホテルでは味わえない特別な体験を提供してくれます。
最後に知っておくべき「コルマールの真実」
多くの観光ガイドは語りませんが、コルマールの美しい街並みは実は20世紀後半の大規模な修復工事によるものです。第二次世界大戦の被害と経年劣化で荒廃していた旧市街を、30年以上かけて丁寧に修復したのです。
つまり私たちが目にしている「中世の街並み」は、現代の職人たちが古い技術を研究し、当時の材料を可能な限り再現して蘇らせた「生きた文化遺産」なのです。この事実を知ると、コルマールの美しさがより深く、そして愛おしく感じられるはずです。
街を歩きながら、ふと立ち止まって木組みの家々を見上げてみてください。そこには過去と現在、そして未来への想いが込められた、人々の情熱と愛情が息づいています。それこそが、コルマールが世界中の人々を魅了し続ける真の理由なのかもしれません。