なぜストラスブールは「フランスの中のドイツ」と呼ばれるのか?
ストラスブールを初めて訪れた時、私は正直戸惑いました。フランスに来たはずなのに、街角から聞こえる言葉はドイツ語のような響きがあり、建物もまるでドイツの古都のよう。実は、この街は歴史上何度もフランスとドイツの間を行き来した複雑な過去を持つのです。
グラン・ディル(Grande Île)という旧市街は、1988年にユネスコ世界遺産に登録されており、イル川に囲まれた中洲にあります。パリからTGVで約2時間20分、料金は時期により50-120ユーロ程度で到着できる距離感も魅力的です。
興味深いのは、現在でも街の看板や標識の多くがフランス語とアルザス語(ドイツ語方言)の両方で表記されていること。この二重言語文化こそが、ストラスブールの最大の魅力なのかもしれません。
大聖堂の天文時計が動く瞬間を見逃した私の大失敗
ストラスブール大聖堂(Cathédrale Notre-Dame de Strasbourg)は間違いなくこの街のハイライトです。しかし、私は最初の訪問で痛い目を見ました。
大聖堂内部にある天文時計(Horloge astronomique)は、毎日12時30分にからくり人形が動く大変貴重な瞬間があります。私は12時45分に到着し、すでに動きが終わった静寂の時計を見つめることになりました。入場料は大人5ユーロですが、この動く瞬間を見るためには12時頃から場所取りが必要です。
実は、この天文時計は1574年に完成したもので、現在でも正確に天体の動きを示しています。月齢や日食・月食の予測まで可能な精密機械なのです。大聖堂自体は無料で見学できますが、天文時計エリアのみ有料となっています。
また、大聖堂の尖塔(142メートル)は、19世紀まで世界で最も高い建造物でした。現在は改修工事のため登塔は不定期開催ですが、事前にオフィシャルサイトで確認することをお勧めします。
プティット・フランス地区で迷子になって発見した絶景スポット
プティット・フランス(Petite France)地区は、ストラスブール観光のもう一つの核心です。16-17世紀の木組みの家々が運河沿いに並ぶ光景は、まさに絵本の世界そのもの。
私がここで迷子になったのは、実は幸運でした。メインの観光ルートから外れた小さな橋の上から、偶然ポン・クヴェール(Ponts couverts)の全景を望む絶景ポイントを発見したのです。多くの観光客が見落とすこの場所は、古い要塞塔と運河が一望できる隠れたフォトスポットです。
この地区の名前「プティット・フランス」は皮肉なことに、16世紀にドイツ騎士団の病院があり、「フランス病」と呼ばれた梅毒の治療所があったことに由来します。現在は美しい観光地となっていますが、こんな歴史的背景があったとは驚きです。
地区内にはメゾン・デ・タヌール(Maison des Tanneurs)という1572年建造の皮なめし職人の家があり、現在はレストランとして営業しています。アルザス料理を味わうなら、ここでの食事は特別な体験となるでしょう。
現地で気づいた食事の罠と本当に美味しいアルザス料理
ストラスブールでの食事について、観光客向けレストランと地元民向けの店には大きな差があります。私が最初に入った大聖堂近くの観光地価格レストランでは、シュークルート(Choucroute)一皿が28ユーロもしました。
後日、地元の方に教えてもらったヴァンストゥブ(Winstub)と呼ばれる伝統的な居酒屋では、同じ料理が15ユーロ程度で、しかも量も味も格段に上でした。特に「Au Pont Corbeau」や「Chez Yvonne」などは地元民にも愛される老舗です。
アルザス料理で絶対に試すべきは、タルト・フランベ(Tarte flambée)です。薄いピザのような生地にクリーム、玉ねぎ、ベーコンをのせて焼いた郷土料理で、一人前8-12ユーロが相場です。
意外な発見だったのは、アルザス地方のワインの素晴らしさです。特にゲヴュルツトラミナー(Gewürztraminer)という白ワインは、独特のスパイシーな香りがあり、アルザス料理との相性が抜群でした。
欧州議会見学で知った意外すぎるストラスブールの正体
多くの観光客が見落としがちですが、ストラスブールは実は欧州連合(EU)の重要拠点なのです。欧州議会、欧州人権裁判所、欧州評議会がすべてこの街に置かれています。
私が欧州議会(Parlement européen)の見学ツアーに参加した時の驚きは今でも忘れられません。無料のガイドツアーが平日に開催されており(要事前予約)、本会議場の迫力は圧巻でした。28カ国の代表が一堂に会する半円形の議場では、同時通訳のブースが24言語に対応している光景に感動しました。
見学後、議会近くのオランジュリー公園(Parc de l’Orangerie)で地元家族がピクニックを楽しむ平和な光景を見て、「ヨーロッパ統合の理念」を肌で感じることができました。この公園は1804年にナポレオンの妻ジョゼフィーヌのために造られた歴史ある場所です。
路面電車で失敗しないための現地の知恵
ストラスブール市内の移動には路面電車(トラム)が非常に便利ですが、初回利用時に私は大きなミスを犯しました。
チケットは乗車前に必ず券売機で購入し、車内で打刻する必要があります。私は打刻を忘れて検札で罰金50ユーロを支払う羽目になりました。1回券は1.80ユーロ、1日券は4.60ユーロです。
トラムのA線とD線は主要観光地を結んでおり、「Langstross Grand’Rue」駅で下車すれば大聖堂まで徒歩3分です。意外に知られていませんが、自転車も同じチケットで一緒に乗車可能で、ヨーロッパらしい合理的なシステムに感心しました。
12月のクリスマスマーケットは別世界だった
もしも12月にストラスブールを訪れる機会があるなら、それは本当にラッキーです。ストラスブールのクリスマスマーケットは、1570年から続く歴史を持ち、フランス最古にして最大規模を誇ります。
大聖堂前のクレーベル広場に巨大なクリスマスツリーが設置され、周辺11箇所にマーケットが展開されます。特に、温かいヴァン・ショー(vin chaud)と呼ばれるホットワインは寒さを忘れさせてくれる魔法の飲み物でした。1杯3-4ユーロで、記念品として持ち帰れるマグカップ付きです。
地元の人に教えてもらった秘密は、平日の午前中が最も空いており、本当の地元民向けの手作り品を見つけやすいということ。週末は観光客で溢れかえりますが、平日なら職人さんと直接話すことも可能です。
最後に知っておきたい実用的なアドバイス
ストラスブール観光で覚えておくべき実用情報をお伝えします。旧市街の多くの店舗は日曜日が定休日で、特に食材店やお土産店は要注意です。観光案内所は大聖堂近くの17 place de la Cathédraleにあり、日本語パンフレットも用意されています。
両替については、銀行のATMが最もレートが良く、観光地の両替所は避けた方が賢明です。また、多くのレストランではクレジットカードが使えますが、小さなカフェや市場では現金が必要な場合があります。
最も重要なのは、ストラスブールは「急いで回る」街ではないということです。石畳の道をゆっくり歩き、運河沿いのベンチで休憩し、地元の人々の生活リズムに合わせることで、この街の真の魅力が見えてきます。フランスでもドイツでもない、唯一無二の「アルザスの心」を感じる旅になることでしょう。