「フランスの地方都市なんて、パリに比べたらきっと退屈でしょ?」そんな先入観を見事に打ち砕いてくれたのが、ナントでした。この街に足を踏み入れた瞬間、巨大な機械仕掛けの象が目の前を悠々と歩いていく光景に、私は言葉を失いました。一体この街には何が待っているのでしょうか。
ナントってどんな街?知られざる歴史都市の素顔
ナントは、フランス西部ロワール=アトランティック県の県庁所在地で、人口約30万人の活気ある都市です。パリから高速列車TGVで約2時間、大西洋から約50キロ内陸に位置しています。
実はこの街、かつてフランス有数の港湾都市として栄えた歴史があります。ナント勅令で有名なアンリ4世の時代から、砂糖貿易で大いに潤った商業都市でした。しかし、20世紀後半に造船業が衰退すると、街は新たな道を模索することになったのです。
そこで生まれたのが、アートと文化による街の再生プロジェクト。廃墟となった工場跡地や造船所を、世界でも類を見ない文化施設に生まれ変わらせる試みが始まりました。
レ・マシーン・ド・リル島で出会う驚愕の機械たち
ナント観光の最大の目玉は、間違いなくレ・マシーン・ド・リル島(Les Machines de l’île)です。ロワール川の中州にあるこの施設は、元造船所を改装した、世界でここでしか体験できない不思議な空間なのです。
施設内で最も有名なのが、高さ12メートル、重量45トンの巨大機械象「グラン・エレファン」です。この象は実際に歩き回り、鼻から水を噴き出し、最大49人の乗客を背中に乗せて敷地内を練り歩きます。料金は大人9.50ユーロ、子ども7.50ユーロで、約30分の幻想的な散歩を楽しめます。
営業時間は季節によって異なりますが、夏季は平日10時〜19時、週末は10時〜20時まで開館しています。ただし、象の運行は天候に左右されるため、雨の日は中止になることも。事前にウェブサイトで確認することをおすすめします。
海底2万里の世界が現実に?
この施設を手がけたのは、劇団「ロイヤル・ド・リュクス」の創設者フランソワ・ドゥラロジエールとピエール・オルフィス。彼らはジュール・ヴェルヌの小説世界とレオナルド・ダ・ヴィンチの発明品からインスピレーションを得て、これらの機械たちを生み出しました。
実際、施設内の「ギャラリー・デ・マシーン」では、巨大なイカやエイ、深海魚などの海洋生物を模した機械装置が展示されています。これらはすべて実際に動き、来訪者が操縦することも可能です。まさに『海底2万里』の世界が現実になったかのような感覚を味わえます。
ナント城で感じるブルターニュ公国の栄華
機械の驚きから一転、今度は本物の歴史に触れてみましょう。ナント城(Château des Ducs de Bretagne)は、15世紀にブルターニュ公フランソワ2世によって建設された城塞です。
ここで特筆すべきは、アンヌ・ド・ブルターニュゆかりの地であるということ。彼女は後にフランス王シャルル8世、そしてルイ12世と結婚し、ブルターニュをフランスに統合する重要な役割を果たしました。城内の博物館では、この複雑な歴史が丁寧に展示されています。
入場料は大人8ユーロ、18歳未満は無料です。開館時間は9時〜19時(冬季は18時まで)で、月曜日は休館となっています。城壁の上からは、ナントの街並みとロワール川の美しい景色が一望できます。
知られざる奴隷貿易の記憶
ナント城の博物館では、一般的なフランス観光では触れられることの少ない奴隷貿易の歴史についても詳しく展示されています。実は、ナントは18〜19世紀にかけて、フランス最大の奴隷貿易港だったのです。
この暗い過去と正面から向き合い、教育に活用している姿勢は、現代フランスの歴史認識の深さを物語っています。重いテーマですが、歴史を学ぶうえで貴重な機会となるでしょう。
ガレット発祥の地で味わう本場の味?
ナントがあるロワール=アトランティック県は、厳密にはブルターニュ地方ではありませんが、文化的にはブルターニュの影響を強く受けています。そのため、ガレットやクレープの名店が数多く存在します。
おすすめは旧市街にある「La Cigale」というブラッスリー。1895年創業の老舗で、アール・ヌーヴォー様式の美しい内装が印象的です。ここのガレット・コンプレット(ハム、卵、チーズ入り)は絶品で、価格も12ユーロ程度とリーズナブルです。
また、地元の人が愛するミュスカデというワインも忘れてはいけません。このフレッシュな白ワインは、ガレットやシーフードとの相性が抜群で、グラス1杯4〜6ユーロで楽しめます。
意外!ナントはLUビスケットの故郷
実は、日本でもおなじみのLU(リュ)ビスケットの発祥地がナントなのです。1846年にジャン=ロマン・ルフェーブル=ユティルとポーリーヌ・ユティル夫妻が創業したこの会社は、現在も世界中で愛され続けています。
旧市街には小さなLUビスケットのミュージアムショップがあり、ここでしか買えない限定商品も販売されています。お土産にぴったりの一品です。
パッサージュ・ポムレで感じる19世紀の優雅さ
ナントで見逃せないのがパッサージュ・ポムレ(Passage Pommeraye)です。1843年に建設されたこのガラス張りのアーケードは、パリのギャラリー・ヴィヴィエンヌと並ぶフランス屈指の美しさを誇ります。
3階建ての構造で、大理石の階段と精巧な彫刻で装飾されており、まるで19世紀にタイムスリップしたかのような感覚に包まれます。現在もブティックやカフェが営業しており、買い物を楽しみながら建築美を堪能できます。
特に午後の時間帯は、ガラス屋根から差し込む光が幻想的な雰囲気を演出し、写真撮影にも最適です。アクセスも便利で、ナント駅から路面電車で約10分の距離にあります。
実際に行って分かった注意点とコツ
ナント観光で最も重要なのは、路面電車の1日券を購入することです。料金は5.50ユーロで、主要観光地をすべて網羅できます。特にレ・マシーン・ド・リル島へは路面電車が最も便利なアクセス方法となります。
また、夏季(7〜8月)は観光客が多く、巨大機械象の乗車券が売り切れることがあります。事前にオンライン予約をしておくか、開館時間の10時に合わせて到着することをおすすめします。
雨の日でも楽しめる?
ナントは大西洋性気候のため、年間を通じて雨が多い地域です。しかし、主要観光施設の多くが屋内にあるため、雨の日でも十分楽しめます。特にナント城やパッサージュ・ポムレは屋内施設なので、天候に左右されません。
ただし、前述の通り巨大機械象は雨天時運休となるため、天気予報をこまめにチェックし、晴れ間を狙って訪問する計画を立てましょう。
ナントが教えてくれた都市再生の奇跡
ナント観光を終えて感じたのは、この街が単なる観光地ではなく、創造都市として生まれ変わった奇跡だということでした。衰退した工業都市が、アートの力で世界中から人を惹きつける魅力的な場所に変貌を遂げたのです。
機械仕掛けの象に乗りながら見える街の風景は、過去と未来が共存する不思議な感覚を与えてくれます。フランス旅行の際には、パリだけでなく、ぜひこの創造性にあふれた街を訪れてみてください。きっと、旅の概念が大きく変わるはずです。