「帰り道がない」って本当?サマリア渓谷の驚くべきシステム
ギリシャのクレタ島にあるサマリア渓谷を初めて訪れる人が必ず驚くのが、この渓谷は「片道しか歩けない」という事実です。なぜなら、この16kmの長大なトレッキングコースは、標高1,230mのオマロス高原から海抜0mのアギア・ロウメリ村まで、ひたすら下り続ける一方通行の道だからです。
私が初めてここを訪れた時も、「え、帰りはどうするの?」と慌てました。答えは簡単で、ゴール地点の村からフェリーでハニア方面に戻るのが唯一の方法なんです。この独特のシステムが、サマリア渓谷を他のハイキングコースとは一線を画す特別な存在にしています。
入場料は5ユーロ(2024年現在)で、開園時間は朝6時から午後3時まで。ただし、これは入園時間の制限で、実際には夕方まで歩き続けることになります。
朝一番のスタートが命運を分ける?混雑を避ける黄金時間
サマリア渓谷で快適に歩くための最大の秘訣は、朝6時の開園と同時に歩き始めることです。ハニアから出発する場合、朝5時15分発のバスに乗る必要があり、正直かなりキツイ早起きになります。でも、この努力は絶対に報われます。
朝一番のスタートなら、最初の数時間は渓谷をほぼ独り占めできるんです。鳥のさえずりと自分の足音だけが響く静寂の中を歩く体験は、まさに神秘的。一方、10時以降にスタートすると、観光バスで来た大勢の団体客に追いつかれ、狭い渓谷内が人だらけになってしまいます。
ハニアからオマロス高原まではバスで約45分。料金は片道7.60ユーロです。朝の山道は霧がかかることも多く、バスの窓から見える幻想的な風景も楽しめます。
「アイアン・ゲート」で味わう絶景と恐怖の狭さ
トレッキングの最大のハイライトは、渓谷の最も狭い部分である「アイアン・ゲート(鉄の門)」です。ここでは両側の岩壁が迫り、幅がわずか3メートルほどしかありません。高さ500メートルの断崖絶壁に挟まれて歩く瞬間は、自分がいかにちっぽけな存在かを実感させられます。
面白いのは、この場所で多くの人が「圧迫感で怖い」と感じる一方で、「守られているような安心感」を覚える人もいることです。岩の色や質感、そして頭上のわずかな空の切れ間から差し込む光の美しさは、写真では決して伝わらない迫力があります。
ちなみに、アイアン・ゲートはスタート地点から約11km地点にあるので、体力的に最もきつい中盤を乗り越えた後のご褒美的存在でもあります。
野生のクリクリ山羊に遭遇する確率は?
サマリア渓谷が国立公園に指定されている大きな理由の一つが、クレタ島固有のクリクリ山羊の保護です。この山羊は現在世界で約2,000頭しか生息していない貴重な動物で、そのうち約200頭がこの渓谷に住んでいます。
私が歩いた時は、渓谷の中腹あたりで2頭のクリクリに遭遇しました。彼らは人間を恐れることなく、むしろ好奇心旺盛に近づいてきます。ただし、絶対に触ったり餌を与えたりしてはいけません。違反すると高額な罰金が科せられます。
地元のガイドによると、クリクリに出会う確率が最も高いのは早朝と夕方近くだそうです。これも朝一番のスタートを勧める理由の一つなんです。彼らの角は独特のカーブを描いており、オスは特に立派な角を持っています。
最後の難関?アギア・ロウメリ村でのフェリー待ち
16kmの長いトレッキングを終えてアギア・ロウメリ村に到着した時の達成感は格別です。でも実は、ここからが最後の試練だったりします。この小さな村からハニア方面に戻るフェリーは、夏季でも1日数本しか運航されていないんです。
フェリーの時刻は季節によって変わりますが、通常は午後2時30分、4時、5時30分頃の便があります。料金は片道11ユーロです。最終便に乗り遅れると村で一泊することになるので、自分の歩くペースを考慮して計画を立てることが重要です。
村には小さなタベルナ(食堂)が数軒あり、疲れた体に氷冷えたビールとグリークサラダが染み渡ります。地元の漁師が作るシーフードパスタも絶品で、長時間のトレッキング後には最高のご褒美になります。
知られざる古代の足跡?渓谷に残る歴史の痕跡
ほとんどの観光客が気づかずに通り過ぎてしまうのが、渓谷内に点在する古代の遺跡です。特に有名なのは、トレッキングコース中間地点にある「サマリア村跡」で、ここには14世紀に建てられた小さな教会の廃墟があります。
この村は1960年代まで実際に人が住んでいた場所で、国立公園化に伴って住民は移住を余儀なくされました。廃墟となった石造りの家々は、当時の生活を偲ばせる貴重な証拠として保存されています。教会内部には色あせたフレスコ画の断片も残っており、専門家でなくても歴史のロマンを感じられます。
体力に不安がある人への現実的アドバイス
「16kmなんて歩けない」と諦める前に知っておいてほしいのは、このコースが基本的に下り坂だということです。累積標高差は約1,200mの下りなので、平地を16km歩くよりもずっと楽に感じられます。
ただし、下り坂特有の膝への負担は覚悟が必要です。トレッキングポールと膝サポーターは必須アイテム。途中には休憩できるベンチや小屋もあるので、自分のペースで歩けば完歩は決して不可能ではありません。
実際、私が歩いた日には70歳を超えたドイツ人夫妻も元気にゴールしていました。彼らのアドバイスは「急がず、景色を楽しみながら歩くこと」でした。
忘れ物厳禁!持参必須アイテムと服装
サマリア渓谷では途中で物資を調達できる場所が全くないため、水分と行動食は十分すぎるほど持参しましょう。最低でも2リットルの水は必要で、夏場なら3リットルあっても足りません。
服装で特に重要なのは靴です。普通のスニーカーでは岩場で滑りやすく危険なので、グリップの効いたトレッキングシューズは絶対条件。帽子と日焼け止めも忘れずに。
意外な盲点が着替えです。ゴール地点の村には美しいビーチがあり、疲れた体を海で癒すことができます。水着を持参すれば、トレッキング後の最高の癒しタイムを過ごせますよ。