クレタ島の宝石と称されるハニアは、多くの旅行者が「ヴェネツィアより美しい」と絶賛する港町です。しかし、この魅力的な古都には、初めて訪れる観光客が陥りがちな落とし穴があります。美しい景色に見とれているうちに、せっかくの旅が台無しになってしまうことも。今回は実際の体験をもとに、ハニア観光の真実をお伝えします。
朝一番の旧市街は別世界?観光のベストタイミング
ハニアの旧市街を訪れるなら、絶対に朝の8時前がおすすめです。観光バスが到着する前のこの時間帯は、まるで時が止まったかのような静寂に包まれています。
ヴェネツィア港の灯台周辺では、地元の漁師たちが夜の漁から戻ってくる姿を見ることができます。この灯台は14世紀に建設されたもので、現在も現役で使われているという驚きの事実があります。多くのガイドブックでは触れられていませんが、実はこの灯台、第二次世界大戦中にドイツ軍によって一部破壊され、戦後に修復されたという歴史があるのです。
朝の散策では、ハリドン通りを歩いてみてください。この石畳の道は、オスマン帝国時代からほとんど変わらない姿を保っています。営業時間は店によって異なりますが、多くのカフェは朝7時頃から開店しています。地元のパン屋「Bougatsa Iordanis」では、クレタ島名物のブガツァが朝6時から購入できます。
絶対に避けたい昼間の大失敗とは?
正午から午後3時の間のハニア旧市街は、まさに観光地の「負の側面」を体現した状態になります。クルーズ船から降りた数千人の観光客で、狭い石畳の道は身動きが取れないほどになるのです。
特に注意が必要なのはヴェネツィア港周辺のレストランです。この時間帯の料金は朝夕と比べて約30%高く設定されており、サービスの質も明らかに低下します。実際に、同じシーフードプラッターが朝は18ユーロだったのに、昼には25ユーロになっていたという体験をしました。
もしどうしても昼間に観光する必要がある場合は、スプランツィア地区の小路に逃げ込むことをおすすめします。ここは観光バスがアクセスできないため、比較的静かに過ごせます。この地区には、15世紀のヴェネツィア時代の建築様式をそのまま残した住宅が点在しており、まさに生きた博物館のような場所です。
地元の人だけが知る避暑スポット
昼間の暑さを避けるなら、市立庭園(Dimotikos Kipos)がおすすめです。ハニアの中心部から徒歩10分の場所にあり、入場料は無料。ここには19世紀に植えられたプラタナスの巨木があり、真夏でも涼しく過ごせます。地元の人々がシエスタ(昼休み)を取る場所としても知られており、観光客はほとんど訪れません。
夕暮れ時の魔法にかかる前に知っておくべきこと
午後6時を過ぎると、ハニアは全く違う表情を見せ始めます。西向きの港に沈む夕日は、確かに息をのむほど美しいものです。しかし、この美しさに魅了されて犯しがちな失敗があります。
ヴェネツィア港のウォーターフロント沿いのレストランは、夕日の時間帯(午後7時から8時半頃)は予約必須です。特に夏季(6月から9月)は、2週間前でも希望の席が取れないことがあります。多くの観光客が当日の飛び込みで断られ、結局立ち飲みで夕日を眺めることになってしまいます。
意外と知られていないのが、ヤリ・ツァミ・モスクからの夕日の眺めです。このモスクは現在は展示施設として使われており(入場料2ユーロ、夏季は午後8時まで開館)、2階のバルコニーからは港全体を見渡せます。観光客の多くは1階だけ見て帰ってしまうため、2階は穴場スポットとなっています。
地元の人が教えてくれた夕日撮影の秘密
最高の夕日写真を撮るなら、フィルカ要塞の城壁を登ってください。入場料は4ユーロですが、午後6時以降は3ユーロに割引されます。ここから撮影する夕日の写真は、港のレストランから撮るものとは比較にならないほど美しく仕上がります。要塞へは旧市街から徒歩5分でアクセスできますが、石段が急なため歩きやすい靴が必要です。
食の天国で絶対に食べるべき隠れた名物
ハニアの食事といえば、多くの観光客はムサカやギリシャサラダを注文してしまいます。しかし、クレタ島には本土のギリシャとは全く異なる独自の食文化があることを知っていますか。
ダコスというクレタ島特有の料理は、絶対に試してほしい一品です。大麦のパンにトマト、フェタチーズ、オリーブオイルをのせたシンプルな料理ですが、使われる大麦パンは島内でしか作られていない特別なもの。「To Maridaki」というtaverna(営業時間:午後6時から深夜2時、日曜定休)では、3世代続く家族のレシピで作られた本格的なダコスが8ユーロで味わえます。
さらに驚くべきはスタカという食材です。これはヤギの乳から作られるクリーム状の食品で、クレタ島以外ではほとんど食べることができません。地元の人でさえ「観光客には教えたくない」と言うほど貴重な食材で、「Tamam Restaurant」では週末限定でスタカを使った伝統料理を提供しています(要予約、1人前15ユーロ)。
絶対に避けるべき観光客向けレストラン
港沿いで英語のメニューを大々的に掲げているレストランは、90%が観光客向けの価格設定になっています。本当に美味しいタベルナは、カスタネア広場の裏路地にひっそりと佇んでいます。「Glossitses」というタベルナでは、メニューがギリシャ語のみですが、店主のヤニスさんが片言の英語で料理を説明してくれます。ここの羊肉料理は絶品で、値段も観光地価格の半分程度です。
意外と知らない移動とアクセスの落とし穴
ハニア空港から旧市街までは約14キロの距離があります。多くの観光客がタクシーを利用しますが、実は大きな落とし穴があるのです。
空港からのタクシー料金は、昼間で約25ユーロ、夜間(午後11時から午前6時)は約35ユーロが相場です。しかし、観光シーズン中は「メーター制ではなく定額制」と主張するドライバーがおり、50ユーロ以上請求されることがあります。正規のタクシーはメーター制が義務付けられているため、必ずメーターの使用を要求してください。
バスを利用する場合は、空港から旧市街まで2.5ユーロで移動できます(所要時間約45分)。ただし、大きなスーツケースがある場合は追加料金(1ユーロ)が必要で、運転手に直接支払います。バスの運行は1時間に1本程度で、日曜日は運行本数が半分になるため注意が必要です。
旧市街での移動は徒歩が基本
旧市街内は車の乗り入れが制限されており、石畳の細い路地は徒歩でしか移動できません。履物選びは非常に重要で、石畳は雨に濡れると非常に滑りやすくなります。実際に、適切でない靴で転倒する観光客を何度も目撃しました。
旧市街の探索には最低でも半日、できれば1日は確保することをおすすめします。急いで回ろうとすると、隠れた小路や美しい中庭を見逃してしまいます。ハニアの本当の魅力は、計画されたルートではなく、偶然の出会いの中にあるのです。