シムラーで標高2206mのモール・ロードを歩いた日、高山病より怖かったのは○○だった

なぜシムラーが「インドの避暑地の女王」と呼ばれるのか?

標高2206メートル。デリーの灼熱地獄から電車で約7時間、バスで約8時間かけてたどり着いたシムラーは、まさに別世界でした。ヒマーチャル・プラデーシュ州の州都であるこの街は、イギリス植民地時代には夏の首都として使われていた歴史があります。

私が初めてシムラーを訪れたのは7月。デリーでは連日40度を超える猛暑日だったのに、シムラーに着いた瞬間、長袖のシャツを羽織りたくなるほどの涼しさに包まれました。これが標高2000メートル超えの避暑地の威力なのかと、心底感動したものです。

モール・ロード散策で見つけた意外な落とし穴とは?

シムラー観光のメインストリートといえば、なんといってもモール・ロードです。約2キロメートル続くこの歩行者天国は、カラフルな建物が立ち並ぶフォトジェニックな通り。土産物店、レストラン、カフェがぎっしりと軒を連ねています。

しかし、ここで私は思わぬ罠にはまりました。標高が高いとはいえ、歩き続けていると意外に疲れるのです。特に階段や坂道が多く、普段の感覚で歩いていると息が切れてきます。高山病というほどではないものの、平地とは明らかに違う体への負荷を感じました。

モール・ロードの営業時間は店舗により異なりますが、大部分は朝10時から夜8時頃まで。ただし日曜日は一部店舗が休業することがあるので注意が必要です。

リッジで出会った猿たちの本当の恐ろしさ

モール・ロードの中心部にあるリッジ(The Ridge)は、シムラーで最も人気の集合場所です。この広場からは雪を頂いた山々の絶景が楽しめ、特に夕暮れ時の美しさは格別。

しかし、ここで私が高山病よりも恐怖を感じたのは、野生の猿たちでした。観光客の食べ物を狙って堂々と近づいてくる彼らは、想像以上に大胆で力も強い。私の目の前で、ある観光客のバッグからスナック菓子を器用に取り出す猿を見て、背筋が凍りました。

地元の人に聞いたところ、「食べ物は絶対に見えるところに置かない」「猿と目を合わせない」「慌てて逃げない」という3つの鉄則があるそうです。可愛い見た目に騙されてはいけません。

カルカ・シムラー鉄道の揺れる車窓から見えた絶景

シムラーへのアクセスで最も印象深いのが、カルカ・シムラー鉄道です。この狭軌鉄道は2008年にユネスコ世界遺産に登録されており、全長96キロメートルを約5時間かけてゆっくりと走ります。

運賃は1等車で約600ルピー(約900円)、2等車で約200ルピー(約300円)。朝6時頃から夕方まで数便運行していますが、観光シーズンは予約が取りにくいので注意が必要です。

車窓から見える景色は圧巻の一言。103のトンネルと864の橋を通過しながら、徐々に標高を上げていく過程で、熱帯から温帯へと植生が変わっていく様子が手に取るように分かります。特にバログ駅周辺の螺旋状のループ線では、電車が自分の後ろを走っているような不思議な体験ができます。

ジャク寺院で知った地元の人だけが知る参拝方法

シムラーから約8キロメートル離れたジャク寺院は、ハヌマーン神を祀る重要な聖地です。標高2455メートルに位置するこの寺院は、地元の人々にとって特別な意味を持つ場所。

しかし、多くの観光ガイドブックには書かれていない重要なマナーがあります。それは寺院内では必ず裸足になること、そしてレザー製品(革靴、ベルト、財布など)は持ち込み禁止ということです。

私は知らずにレザーの財布を持参してしまい、入口で預ける羽目に。寺院の開門時間は朝6時から夜8時まで、入場料は無料ですが、山頂までのトレッキングには約1時間かかります。

意外と知らない?シムラーのベストシーズンと服装

多くの人がシムラーを「夏の避暑地」と考えがちですが、実は4月から6月と9月から11月がベストシーズンです。7月から8月はモンスーンシーズンで雨が多く、道路状況が悪くなることも。

服装に関しては、夏でも朝晩は冷え込むため必ず長袖の羽織ものを持参してください。私が7月に訪れた際も、日中は半袖で過ごせましたが、夕方以降はフリースが必要でした。冬季(12月から2月)は雪が降ることもあり、防寒具が必須です。

地元民が愛する隠れグルメスポット

観光地のレストランは高くて味も普通、というのがインド旅行の定説ですが、シムラーには例外があります。モール・ロードから少し外れたローワー・バザールには、地元の人たちが通う食堂が点在しています。

特に印象深かったのが、チベット系住民が営む小さなモモ(餃子)の店でした。1皿(8個入り)わずか80ルピー(約120円)で、皮はもちもち、中の具は肉汁たっぷり。観光地価格に疲れた財布にも優しく、味も本格的です。

また、意外な発見だったのがシムラーのりんごです。ヒマーチャル・プラデーシュ州はインド最大のりんご産地で、9月から11月にかけて収穫される地元産りんごは、日本のものに負けないほど甘くてジューシー。1キログラム150ルピー(約225円)程度で購入でき、お土産にも最適です。

宿泊で失敗しないための意外な盲点

シムラーの宿泊施設は、高級ホテルから格安ゲストハウスまで幅広く揃っています。しかし、ここで注意すべきは給湯システムです。標高が高く朝晩冷え込むため、お湯が出ないと本当に辛い思いをします。

私が最初に泊まった安宿では、夜中にお湯が出なくなり、翌朝の冷水シャワーは地獄でした。予約時に必ず「24時間温水供給」を確認することをお勧めします。料金の目安は、ゲストハウスで1泊1000-2000ルピー(1500-3000円)、中級ホテルで3000-5000ルピー(4500-7500円)程度です。

帰路で気づいたシムラーの真の魅力

3日間のシムラー滞在を終え、再び灼熱のデリーに戻る時、私はこの街の本当の価値を理解しました。それは単なる避暑地としての涼しさではなく、時間がゆっくりと流れる感覚でした。

都市部の喧騒から離れ、山の澄んだ空気を吸いながら、煉瓦造りの建物が立ち並ぶ街並みを歩く。夕暮れ時にリッジから眺める山々のシルエット。そんな日常から離れた特別な時間こそが、シムラーが多くの人を魅了し続ける理由なのかもしれません。

標高2206メートルの街で過ごした数日間は、高山病の心配よりも、野生の猿との遭遇や予想外の寒さといった小さなハプニングの方が印象に残りました。それもまた、旅の醍醐味の一つ。次回シムラーを訪れる際は、もう少し長期滞在して、この山の街が持つ深い魅力をじっくりと味わってみたいと思います。