「ピンクシティ」の愛称で知られるジャイプルは、まさにインドの宝石箱のような街です。でも実際に足を運んでみると、ガイドブックには載っていない現実がそこにはありました。美しい宮殿群に心を奪われた一方で、思わぬ失敗も重ねてしまった私の体験談をお話しします。
なぜジャイプルは「ピンク」なのに実際は茶色く見える?
多くの旅行者が最初に感じる疑問がこれです。1876年、当時のマハラジャが英国のエドワード7世を迎えるため、街全体をピンク色に塗らせたのが始まりとされています。しかし現在の旧市街を歩いてみると、むしろテラコッタ色や薄い茶色に見える建物が大半です。
実はこれ、時間の経過と共に色が褪せたり、補修の際に微妙に色合いが変わったりしているから。特に早朝の柔らかい日差しの中で見ると、確かにピンクがかった美しい色合いを楽しめるんです。午前6時頃の旧市街散歩は、観光客も少なく写真撮影にも最適でした。
朝の散歩で出会った地元の人々
早起きして良かったのは、色合いだけではありません。朝の旧市街では、店の準備をする商人たちや学校に向かう子どもたちと自然な交流ができます。「ナマステ」と挨拶すると、多くの人が笑顔で応えてくれました。観光地化された昼間とは全く違う、生活感あふれるジャイプルの表情に出会えます。
アンベール城への道のりで学んだ移動の現実
ジャイプル観光のハイライトといえばアンベール城です。市内中心部から約11キロ、車で約30分の距離にあります。私は最初、気軽にオートリキシャで向かおうと考えていました。これが最初の失敗でした。
オートリキシャの運転手さんは「250ルピーで往復する」と約束してくれたのですが、いざアンベール城に到着すると「帰りは別料金だ」と言い始めたんです。言葉の壁もあり、結果的に予定の倍近い料金を支払うことになりました。
正しい移動手段の選び方
経験から学んだ教訓は、事前にホテルでタクシーを手配するか、Uberやオラ(インドのタクシーアプリ)を使うことです。料金が明確で、ドライバーとの交渉も不要。アンベール城までは片道約200-300ルピーが相場です。営業時間は午前8時から午後6時まで、入場料は外国人500ルピーでした。
シティパレスの意外な見どころと失敗談
市内中心部にあるシティパレスは、現在もマハラジャの子孫が住んでいる現役の宮殿です。入場料は外国人700ルピー、営業時間は午前9時30分から午後5時までです。
ここで私が犯した2つ目の失敗は、ガイドを雇わなかったことです。美しい建築や装飾品を見て回ることはできましたが、それぞれの歴史的背景や意味がわからず、ただ「きれいだな」で終わってしまいました。
シティパレスの隠れた魅力:武器博物館
多くの観光客が見落としがちなのが、宮殿内にある武器博物館です。ここには17世紀から19世紀にかけての実際の武器や甲冑が展示されています。中でも注目すべきは、刃の部分に詩が彫られた剣や、銃と剣が組み合わされた珍しい武器です。ガイドさんに聞いたところ、これらの武器は実際の戦闘で使われていたとのこと。歴史好きにはたまらない空間でした。
ハワー・マハルでの写真撮影、実は難しい?
ハワー・マハル(風の宮殿)は、ジャイプルの象徴的な建物です。5階建ての壁面に953もの小窓が開いており、宮殿の女性たちが街の様子を覗き見するために造られました。入場料は50ルピーと手頃で、午前9時から午後4時30分まで開いています。
ここで私が犯した3つ目の失敗は、内部見学を軽視したことです。多くの人が外観の写真を撮って満足してしまいますが、実は内部からの眺めこそが本当の魅力なんです。小窓から見える旧市街の街並みは、まるで額縁に入った絵画のような美しさでした。
最高の撮影スポットは向かいの屋上カフェ
ハワー・マハルの全景を美しく撮影したいなら、向かい側にあるWind View Caféがおすすめです。屋上テラスからはハワー・マハルの全体を見渡すことができ、特に夕方の柔らかい光の中での撮影は絶景です。チャイ一杯50ルピー程度で、この景色を独占できるなんて贅沢すぎます。
ジャントル・マントル天文台の隠されたストーリー
ジャイプル観光でぜひ訪れてほしいのがジャントル・マントル天文台です。18世紀に建設されたこの天文台は、現在もユネスコ世界遺産に登録されています。入場料は外国人200ルピー、午前9時から午後4時30分まで開いています。
ここには19の天文観測器具があり、中でも世界最大の日時計サムラート・ヤントラは圧巻です。高さ27メートルのこの日時計は、なんと2秒単位で正確な時刻を示します。現地ガイドの話によると、300年前の技術でこれほど精密な時計を作ったマハラジャ・ジャイ・シン2世の数学的才能には、当時のヨーロッパの学者たちも驚嘆したそうです。
星座観測器に隠された恋の物語
観光客があまり知らないエピソードがあります。天文台の一角にある星座観測器は、実はマハラジャが愛する妃のために特別に設計されたものなんです。彼女の誕生日に対応する星座の動きを正確に追跡できるよう計算されており、ロマンチックな科学への愛が込められています。
食事で気をつけたいこと、美味しい発見
ジャイプルの食事情で注意が必要なのは、観光地周辺のレストランです。特にアンベール城やハワー・マハル近くの店は、観光客向けに味付けが調整されていることが多く、本来のラジャスターン料理とは異なる場合があります。
私が偶然見つけた地元の人で賑わう食堂Rawat Mishtan Bhandarでは、本格的なダル・バーティ・チュルマ(ラジャスターン州の郷土料理)を味わえました。バーティという小麦粉の団子を焼いて、濃厚なダル(豆カレー)につけて食べる素朴な料理ですが、その奥深い味わいに感動しました。一食150ルピー程度と手頃な価格も魅力的です。
屋台の見分け方とお腹の守り方
ジャイプルの屋台文化も体験したいところですが、お腹を壊さないコツがあります。回転の早い店、つまり地元の人が多く集まる店を選ぶことです。食材の回転が速いということは、それだけ新鮮だということ。私は旧市街のJohari Bazaarで、作りたてのサモサやジャレビを楽しみましたが、全く問題ありませんでした。
買い物で学んだ値段交渉の現実
ジャイプルはジュエリーと織物の街としても有名です。特にGem Palaceは王室御用達の宝石店として知られていますが、一般的な予算では手が出ません。むしろ庶民的なバプー・バザールやジョーハリー・バザールの方が、リーズナブルに買い物を楽しめます。
値段交渉では「3分の1から交渉開始」が基本ルールです。最初に提示された価格の30%程度から始めて、最終的に50-60%程度に落ち着くのが相場でした。ただし、あまりにしつこく値切ると相手も嫌な気持ちになるので、笑顔でのやり取りを心がけました。
季節と時間帯で変わるジャイプルの表情
私が訪れたのは2月でしたが、これは本当にベストシーズンでした。日中は25度程度で観光に最適、朝晩は少し涼しく快適に過ごせます。逆に4月から6月の夏季は気温が45度を超えることもあり、とても観光どころではないそうです。
夕暮れ時のジャイプルは特に美しく、ナーハルガル要塞からの眺めは息を呑むほどでした。市内中心部から車で約30分、夕方5時頃に到着して夕日を眺める計画がおすすめです。ライトアップされた夜景も素晴らしく、昼間とは全く異なる幻想的なピンクシティの姿を楽しめます。
帰り道で感じたジャイプルの本当の魅力
失敗談から始まったこの旅行記ですが、実際にはジャイプルでの時間は私にとって特別なものでした。確かに観光地特有のトラブルや不便さはありましたが、それを上回る歴史の重みと人々の温かさに触れることができました。
特に印象に残っているのは、道に迷った時に助けてくれた地元の学生さんとの会話です。「ジャイプルをどう思うか」と聞かれて「美しい街だ」と答えると、「でも僕たちにとっては普通の故郷なんだ」と笑顔で返されました。観光客の目線と地元の人の日常生活が共存するこの街の懐の深さを感じた瞬間でした。
次にジャイプルを訪れる機会があれば、今度はもう少し時間をかけて、一つ一つの場所をじっくりと味わいたいと思います。そして何より、今回の失敗談を活かして、より充実した旅にしたいですね。