バラナシで3時間泣き続けた私が教える、聖地の本当の歩き方

「死を見つめる街」って聞いてたけど、想像と全然違った

ガンジス川沿いのガートと朝日

バラナシに着いたその夜、私は宿で3時間泣き続けました。理由は後で話すとして、まずは正直に言います。ガイドブックで読んだ「死を見つめる聖地」というイメージと、実際に体験したバラナシは、まるで別の惑星でした。

確かにガンジス川沿いのダシャーシュワメード・ガートでは毎晩火を使った祈りの儀式「アールティー」が行われ、マニカルニカー・ガートでは24時間火葬が絶えません。でも、この街には死だけじゃない、もっと複雑で美しい「生」が溢れているんです。旧市街の細い路地を歩けばチャイ売りの少年が笑いかけてくるし、サリーを着た女性たちが色とりどりの花を川に捧げている姿は、まさに生命賛歌そのもの。

朝5時のガンジス川で起こる、あの奇跡

早朝のガンジス川での沐浴の様子

バラナシ観光のハイライトは、間違いなく早朝のガンジス川です。朝5時にボートに乗って川から街を眺める体験は、一生忘れられません。

ボート代は1時間300〜500ルピー(約500〜800円)が相場。ダシャーシュワメード・ガートから出発するボートが一般的ですが、私のおすすめはアッシー・ガートからのスタート。観光客が少なく、地元の人々の本当の祈りの姿を見ることができます。

朝日が昇る瞬間、川面がオレンジ色に染まり、ガートの階段で沐浴する人々のシルエットが浮かび上がります。でも本当に心を打たれるのは、その静寂の中で聞こえてくる祈りの声。ヒンディー語が分からなくても、その深い信仰心は確実に伝わってきます。ここで私は初めて、宗教って言語を超えるものなんだと実感しました。

地元の人しか知らない、川の「聖なる色」の秘密

ガンジス川の水が茶色く濁っているのを見て、多くの観光客は「汚い」と感じるかもしれません。でも地元のボート漕ぎのラジェッシュさんが教えてくれたのは、この色こそが「神様からの贈り物」だということ。上流のヒマラヤの土が混じることで、川は神聖な力を持つと信じられているんです。実際、早朝の光の中では、この茶色い水が金色に輝いて見えるから不思議です。

火葬場で学んだ、死との向き合い方

マニカルニカーガートの火葬場

マニカルニカー・ガートは、ヒンドゥー教徒にとって最も神聖な火葬場です。ここで荼毘に付されれば輪廻転生から解脱できると信じられており、インド全土から遺体が運ばれてきます。

正直、最初は怖かったです。でも実際に足を運んでみると、そこには悲しみよりも安らぎが漂っていました。家族は泣き叫ぶのではなく、静かに祈りを捧げています。火葬に使う薪は樹木の種類によって値段が異なり、白檀が最も高価で1キロ約2000ルピー(約3200円)。一般的には普通の薪を使い、一回の火葬で約300〜400キロ必要だそうです。

なぜ私は3時間も泣いたのか?

実は、火葬場で出会った70歳のおじいさんの言葉が忘れられないんです。「死ぬために生まれてきたのではない。生きるために生まれてきたのだ」と。シンプルだけど、その時の私には重すぎる言葉でした。日本で仕事に追われる毎日を送っていた私は、いつの間にか「生きている」実感を失っていたんです。宿に戻って、その事実と向き合った時、涙が止まりませんでした。

路地裏グルメは、勇気と胃薬が必要?

バラナシの路地裏の食堂

バラナシの食文化は、インド料理の中でも特に独特です。聖地であるため牛肉や豚肉は一切なく、多くの食堂がベジタリアン対応。でも、だからこそ野菜や豆を使った料理のバリエーションが豊富なんです。

カチョリ・サブジは絶対に食べてほしい名物料理。小麦粉を揚げた皮の中にスパイシーな豆のペーストが入っており、朝食として1個15〜20ルピー(約25〜30円)で売られています。ゴドウリア交差点近くの屋台が特に有名で、朝7時頃からお昼頃まで営業しています。

もう一つのおすすめはラッシー。特にブルーラッシー・ショップ(正式名称:Shree Mishrilal Hotel)は観光客にも有名で、濃厚な水牛のヨーグルトで作ったラッシーは1杯80ルピー(約130円)。青い看板が目印で、朝8時から夜9時まで営業しています。

屋台で食べる時の「3つの鉄則」

バラナシの屋台料理は美味しいけれど、お腹を壊すリスクもあります。地元のガイドが教えてくれた鉄則は:揚げたてを食べる、生野菜は避ける、水は必ずミネラルウォーターを。それでも心配な人は整腸剤を持参することをおすすめします。私も初日にチャイの氷でやられました。

夜の祈りの儀式で感じた、圧倒的な一体感

夜のアールティー儀式

毎晩午後7時からダシャーシュワメード・ガートで行われるガンガー・アールティーは、バラナシ観光のクライマックス。7人の僧侶が巨大な火のついた燭台を持って、ガンジス川に向かって祈りを捧げる儀式です。

儀式が始まる1時間前には場所取りをしておくのがベター。ガートの階段は無料ですが、有料の特別席(100〜500ルピー)もあります。でも個人的には、地元の人々に混じって階段に座る方が、この街の本当のエネルギーを感じられると思います。

鐘の音、火の匂い、詠唱の声、そして何百人もの人々が一斉に手を合わせる光景。言葉では表現できない神聖な雰囲気に包まれます。国籍も年齢も関係なく、その場にいる全員が一つの大きな祈りの輪になる瞬間は、本当に魔法のようでした。

観光客が気づかない「小さな奇跡」

アールティーの最中、よく見ていると面白い発見があります。儀式用の火は一度も消えることなく、約45分間燃え続けるんです。これは特別な綿と油を使った古来からの技術。また、僧侶たちの動きは完全にシンクロしており、何年もの修行で身につけた技なのだそう。こうした細部にまで神への敬意が込められていることを知ると、見え方が変わってきます。

帰国後も続く、バラナシの「余韻」

バラナシを離れてもう2年が経ちますが、今でも毎朝コーヒーを飲みながらあの朝日を思い出します。この街で学んだのは、観光地を「見る」ことと「体験する」ことの違い。写真を撮って「行った証拠」を残すのも大切だけど、その場の空気を五感で感じ取ることの方がもっと価値があると気づきました。

バラナシは確かに混沌としているし、時には理解できないこともたくさんあります。でも、その混沌の中にこそ、生きることの本質が隠れているのかもしれません。もしあなたがこの街を訪れる機会があったら、計画通りに行かなくても、思わぬトラブルが起きても、それも含めて「バラナシ体験」だと受け入れてみてください。

きっと、想像していた以上に深い何かを持ち帰ることができるはずです。