南インドのケーララ州にある小さな港町コーチ(コーチン)。多くの人は「世界遺産だから」という理由で訪れますが、実際に足を運んでみると、ガイドブックには載っていない驚きの発見が待っています。私が現地で出会った漁師のおじいさんから聞いた話や、観光地化された表面だけでは分からない、コーチの本当の魅力をお伝えします。
チャイニーズフィッシングネットの真実って知ってる?
コーチと言えば、まず思い浮かぶのが巨大なチャイニーズフィッシングネットですよね。フォートコーチンの海岸沿いに並ぶこれらの漁具は、確かに絶好の撮影スポットです。でも実は、地元の漁師さんたちには複雑な思いがあるんです。
私が早朝5時頃にネットの近くを歩いていたとき、実際に漁をしているおじいさんと出会いました。彼が教えてくれたのは、観光客が来る日中の時間帯は「ほとんど魚が獲れない」という事実。本当の漁は夜明け前から始まり、観光客が起きる頃にはもう終わっているんです。日中に見るネットの上げ下げは、ほぼ観光客向けのパフォーマンスなんですね。
でも、だからといってがっかりする必要はありません。早起きして午前6時頃にフォートコーチンビーチを歩けば、本物の漁を見ることができます。入場料などは不要で、漁師さんたちも朝なら時間があるので、片言の英語で話しかけてくれることも多いんです。
聖フランシス教会で感じた500年の重み
フォートコーチンエリアにある聖フランシス教会は、インド最古のヨーロッパ式教会として知られています。1503年に建てられたこの教会には、あの有名な探検家ヴァスコ・ダ・ガマが一時期埋葬されていました。
教会自体は小さく、見学時間は30分もあれば十分です。開館時間は朝9時から夕方6時まで、入場料は無料です。でも、ここで私が感動したのは建物そのものではなく、教会の片隅にある古い墓石の数々でした。
現地のガイドさんから聞いた話では、この地域には16世紀から18世紀にかけて、ポルトガル、オランダ、そしてイギリスの商人や軍人が次々とやってきました。彼らの多くは故郷に帰ることなく、この地で生涯を終えたのです。墓石に刻まれた文字を見ていると、遠い異国で人生を賭けた人々の物語が浮かび上がってきます。
マッタンチェリー宮殿が教えてくれる意外な歴史
フォートコーチンから車で約15分、マッタンチェリー宮殿は別名「ダッチパレス」とも呼ばれています。でも実は、この宮殿を最初に建てたのはポルトガル人なんです。1555年にコーチン王国の王様への贈り物として建設され、後にオランダ人が改修したため「ダッチパレス」という名前が付いています。
宮殿の開館時間は土曜から木曜の午前10時から午後5時まで(金曜日は休館)、入場料は大人5ルピー(約10円)とかなりお手頃です。宮殿内部の壁画は必見で、特にラーマーヤナの物語を描いた絵画の保存状態は驚くほど良好です。
ここで地元の学芸員の方から聞いた面白い話があります。宮殿の床は特殊な技法で作られており、卵白、石灰、粘土、そして椰子の繊維を混ぜて作られているそうです。500年近く経った今でも、ひび割れ一つない美しい状態を保っているのは、この伝統技法のおかげなんだとか。現代の技術でも再現が難しいというから驚きです。
スパイス市場で嗅覚が覚醒する瞬間
マッタンチェリー地区には、コーチ観光でぜひ体験してほしいスパイス市場があります。ここは観光地というより、今でも実際に商取引が行われている現役の市場です。朝9時から夕方6時頃まで開いており、特に午前中の活気は圧巻です。
市場に足を踏み入れた瞬間、カルダモン、胡椒、シナモン、ターメリックなど、様々なスパイスの香りが一気に襲ってきます。この嗅覚的な衝撃は、まさに「スパイス貿易の拠点」だった古都コーチならではの体験です。
ここで私が出会ったのは、3代続くスパイス商のラジェシュさんでした。彼が教えてくれたのは、本物のスパイスと観光客向けの商品を見分ける方法です。例えば、本物のカルダモンは指で軽く押しただけで豊かな香りが立ち上がりますが、古いものや品質の悪いものはほとんど香りがしません。また、ケーララ州産の黒胡椒は粒が大きく、噛むとピリッとした辛さの後に甘みが感じられるのが特徴だそうです。
バックウォーターツアーで見つけた隠れ家レストラン
コーチから車で約1時間、バックウォーターツアーはケーララ観光のハイライトの一つです。多くのツアー会社が半日コースを3000〜5000ルピー(約6000〜10000円)で提供していますが、私がおすすめするのは丸1日かけてゆっくり回るプランです。
ツアーの途中、船頭のマニさんが案内してくれた小さな島には、地元の人しか知らない家庭料理のレストランがありました。メニューはフィッシュカレーとアッパム(米粉で作ったパン)だけでしたが、ココナッツミルクとスパイスのバランスが絶妙で、今まで食べたインド料理の中でも最高レベルの美味しさでした。料金も一人200ルピー(約400円)程度と非常にリーズナブルです。
夕日を見るなら観光客が知らないこの場所
多くの観光客はフォートコーチンビーチで夕日を見ますが、地元の人が本当に美しい夕日スポットとして教えてくれたのは、ヴァイピンアイランドの北端です。コーチ本島からフェリーで約20分、往復料金は50ルピー(約100円)程度です。
ここからの夕日は、チャイニーズフィッシングネットのシルエットと共に見ることができ、観光客もほとんどいないため、静かに夕日を楽しむことができます。フェリーの最終便は夜8時頃なので、時間に余裕を持って行くことをおすすめします。
コーチ観光で気をつけたい3つのポイント
最後に、実際に現地を回って気づいた注意点をお伝えします。まず、雨季(6月〜9月)の観光は避けるのがベターです。私が7月に訪れたときは、連日激しいスコールに見舞われ、屋外の観光がほとんどできませんでした。
次に、蚊対策は必須です。特にバックウォーターエリアでは、長袖・長ズボンに加えて虫除けスプレーを持参することをおすすめします。現地のデング熱の発生も報告されているため、軽視は禁物です。
そして最も重要なのは、値段交渉を恐れないことです。タクシーやオートリキシャの料金は、観光客向けの初回提示額から3割程度は下がることが多いです。現地の人に相場を聞いてから交渉すると、スムーズに進みます。
コーチは小さな町ですが、その分一つ一つの体験が濃密です。歴史、文化、自然、そして人との出会いが絶妙に織り交ざった、忘れられない旅になることは間違いありません。表面的な観光地巡りではなく、現地の人々との交流を通じて、この古都の本当の魅力を感じてみてください。