北イタリアの古都トリノ。2006年冬季オリンピック開催地として有名ですが、実際に足を運んでみると、想像していた「単なる工業都市」のイメージは完全に覆されました。アルプスを背景にした美しい街並み、王宮の威厳、そして何より地元の人々の温かさ。この街には、表面的な観光では決して味わえない深い魅力が隠されています。
なぜトリノは「隠れた名都」なの?
ローマ、フィレンツェ、ヴェネツィアの陰に隠れがちなトリノですが、実はイタリア統一の舞台となった歴史ある都市です。サヴォイア王家の居住地として栄えたこの街は、王宮群がユネスコ世界遺産に登録されているほど文化的価値の高い場所なんです。
私が初めてトリノを訪れた時、まず驚いたのは街の整然とした美しさでした。バロック様式の建物が立ち並ぶヴィア・ローマは、まるで映画のセットのよう。ミラノから電車でわずか2時間という立地の良さも、この街の魅力の一つです。
特に印象的だったのは、観光地化されすぎていない自然な雰囲気。地元の人々が普通に生活する中に、歴史的建造物が溶け込んでいる様子は、他の観光都市では味わえない独特の魅力があります。
王宮で迷子になった私が見つけた秘密の部屋
トリノ王宮(Palazzo Reale)は、この街の絶対的なハイライトです。入場料は15ユーロですが、その価値は十分にあります。営業時間は火曜日から日曜日の8時30分から19時30分まで(月曜日は休館)。
実は私、この王宮で道に迷ってしまったんです。案内表示を見落として、一般コースから外れた場所に入り込んでしまいました。そこで偶然発見したのが、修復作業中の小さな部屋。作業員の方に声をかけられ、通常は公開されていない天井画の修復過程を特別に見学させてもらえました。
この体験から学んだのは、トリノの人々の文化への愛情の深さです。修復担当者は、17世紀の技法を忠実に再現するため、当時の顔料を研究し続けているのだそう。こうした職人気質こそ、トリノという街の本質なのかもしれません。
王宮の見どころは鏡の間と玉座の間。特に玉座の間の金箔装飾は圧巻です。ガイドツアーに参加すれば、各部屋の歴史的背景を詳しく知ることができます(英語ガイドは1日3回、所要時間約1時間)。
モーレ・アントネッリアーナで体験した「高所恐怖症克服」
トリノのシンボルモーレ・アントネッリアーナは、高さ167メートルの塔で、現在は国立映画博物館として使用されています。入場料は映画博物館とパノラマエレベーターのセットで15ユーロ。
正直に言うと、私は高所恐怖症です。でも、せっかくトリノに来たからには登らなければと意を決して挑戦しました。パノラマエレベーターで上がる途中、ガラス越しに見える街の景色が徐々に小さくなっていく様子は、恐怖半分、感動半分。
頂上からの眺めは本当に素晴らしく、アルプス山脈とポー平原のパノラマが一望できます。特に夕方の時間帯(17時頃)に訪れると、夕日に照らされた街並みが黄金色に輝いて絶景です。
映画博物館も想像以上に面白く、イタリア映画の歴史を体感できる展示が充実しています。フェリーニの作品に関する展示は特に見応えがありました。
地元の人だけが知る「隠れグルメスポット」を発見?
トリノといえばチョコレート!この街は「ジャンドゥーヤチョコレート」発祥の地で、ヘーゼルナッツとチョコレートの絶妙な組み合わせを楽しめます。有名な老舗「カフェ・アル・ビチェリン」では、伝統的な温かいチョコレートドリンク「ビチェリン」を味わえます(1杯約4ユーロ)。
でも私のおすすめは、観光地から少し離れた場所にある小さなジェラート店「ジェラテリア・デイ・ミッレ・グスティ」。地元の常連客でいつも賑わっているこの店では、ジャンドゥーヤ味のジェラートが絶品です。1スクープ2.5ユーロという良心的な価格も魅力的。
もう一つの隠れた名物がアペリティーボ文化。夕方18時頃から21時頃まで、バーで軽食付きのアペリティフを楽しむ習慣があります。「カフェ・プラッティ」では、地元産のヴェルモットと小皿料理のセットが8ユーロで楽しめ、地元の人々との交流も期待できます。
意外と知られていないトリノの「エジプト博物館」
実は、トリノのエジプト博物館は世界でカイロに次ぐ規模を誇る知られざる名所です。入場料は15ユーロ、営業時間は月曜日14時から19時、火曜日から日曜日は9時から18時30分まで。
ここで私が最も感動したのは、保存状態の良いミイラとパピルス文書のコレクション。特に「トリノ・パピルス」と呼ばれる古代エジプトの地図は、現存する最古の地質図として学術的価値が非常に高いものです。音声ガイド(日本語対応、追加料金5ユーロ)を利用すれば、より深く理解できます。
トリノで気をつけたいこと、知っておくべきこと
トリノ観光で注意すべきポイントをいくつか。まず、月曜日は多くの美術館・博物館が休館なので、旅行計画を立てる際は要注意です。また、8月中旬は地元の人々が夏休みを取るため、一部のレストランや小さなお店が閉まっている可能性があります。
交通面では、トリノ+ピエモンテカード(2日間19ユーロ、3日間29ユーロ)がお得。市内の公共交通機関と主要観光施設への入場料が含まれています。地下鉄は1路線のみですが、バスとトラムのネットワークが充実しているので移動には困りません。
最後に、トリノの人々は他の北イタリアの都市と比べて英語を話せる人が多い印象でした。道に迷った時も親切に教えてくれる人ばかりで、一人旅でも安心して楽しめる街だと実感しました。
表面的な観光地巡りだけでは味わえない、トリノの奥深い魅力。王宮の威厳、モーレ・アントネッリアーナからの絶景、地元の人々との温かい交流。これらすべてが組み合わさって、忘れられない旅の思い出となりました。次回イタリアを訪れる際は、ぜひトリノを旅程に加えてみてください。きっと新しいイタリアの一面を発見できるはずです。