イタリア最後の秘境で熊に出会う?三州にまたがる知られざる国立公園の驚異

なぜここだけ観光客がいないのか?

アブルッツォ・ラツィオ・モリーゼ国立公園の壮大な山岳風景

イタリアといえばコロッセオやピサの斜塔を思い浮かべる方が多いでしょう。でも実は、ローマから車でたった2時間の場所に、まるで別世界のような原生自然が広がっているんです。それがアブルッツォ・ラツィオ・モリーゼ国立公園

この公園、名前が示すとおり3つの州にまたがっているんですが、日本人観光客にはほとんど知られていません。理由は簡単。ツアー会社がここを避けがちだから。なぜかって?それは野生動物との遭遇率が高すぎて、安全管理が大変だからなんです。

でも逆に言えば、それだけ手つかずの自然が残っているということ。1922年に設立されたイタリア最古の国立公園の一つで、面積は約440平方キロメートル。これ、東京23区とほぼ同じ広さです。

本当にイタリアなの?アルプスを超える絶景の正体

公園内のブナの原生林と透明度の高い湖

公園の中心部にあるチルチェオ湖の透明度は、北海道の摩周湖に匹敵します。標高1,800メートルの高地にあるこの湖は、氷河期の名残。周囲を取り囲むブナの原生林は、まるでジブリ映画の世界そのものです。

実際に歩いてみると分かるのですが、ここの森は音が違います。都市部の騒音が一切聞こえない完全な静寂の中で、葉擦れの音や鳥の鳴き声だけが響く。この感覚、日本ではなかなか味わえません。

特に驚くのが植生の豊かさ。なんと2,000種類以上の植物が確認されており、その中にはイタリア固有種が約120種も含まれています。春から初夏にかけては、高山植物の花々が咲き乱れ、まさに天然の花畑状態。ただし、これらの植物は保護対象なので、絶対に採取しないでくださいね。

ヨーロッパ最後の熊に会える場所

野生動物保護区域の案内標識

この公園の最大の特徴は、アペニン山脈ヒグマの生息地だということ。現在、野生個体数はわずか50頭程度と推定されており、ヨーロッパでも最も絶滅の危機に瀕している大型哺乳類の一つです。

でも実際のところ、熊に遭遇する確率はそれほど高くありません。彼らは非常に臆病で、人間の気配を感じると遠くに逃げてしまうから。むしろよく見かけるのはノロジカやカモシカ。特に早朝や夕方の時間帯には、かなりの高確率で野生動物に出会えます。

ただし、熊の生息地ということで、公園内には厳格なルールがあります。指定されたトレイルを外れることは禁止されており、キャンプも指定エリアのみ。食べ物の管理も徹底する必要があります。入園料は大人10ユーロ、子供5ユーロ(2024年現在)で、夏季は朝6時から夕方8時まで、冬季は8時から5時までの営業となっています。

地元民も知らない隠れた絶品グルメ

公園周辺の伝統的な山小屋レストラン

公園周辺の小さな村々では、都市部では絶対に食べられない伝統料理に出会えます。特に「アニェッロ・アッラ・コッティーラ」という羊肉の煮込み料理は、この地域でしか味わえない逸品。

地元の羊飼いが何世代にもわたって受け継いできたレシピで、野生のハーブと高地の湧き水だけで調理します。一般的なイタリア料理とは全く違う、素朴で力強い味わいが特徴的。公園入口近くの「オステリア・デル・パルコ」では、この料理を1人前18ユーロで提供しています(要予約)。

また、この地域特産のチーズ「カチョカヴァッロ・ポドリコ」も見逃せません。放牧された牛のミルクから作られるこのチーズは、一般市場には出回らない幻の逸品。公園内の売店では、100グラム8ユーロで購入できます。

知らないと危険?現地で学んだ注意点

実際に訪れてみて気づいたのですが、この公園は想像以上にワイルドです。携帯電話の電波が届かないエリアが多く、GPS頼りの単独行動は危険。必ず事前にビジターセンターで地図を入手し、行程を報告してから出発してください。

天候の変化も激しく、朝は晴れていても午後には突然の雷雨に見舞われることがよくあります。標高が高いため、夏でも夜間は気温が10度以下になることも。防水性のある上着と防寒着は必須アイテムです。

特に危険なのが、公園内の川の増水。雨が降ると一気に水位が上がり、渡河が困難になります。実際、2019年には観光客が取り残される事故も発生しました。天気予報は必ずチェックし、雨の予報が出ている日は無理な行動は控えましょう。

また、野生動物との距離感も重要。可愛いからといってノロジカに近づきすぎると、彼らにとってはストレスになります。最低でも50メートルは離れて観察してください。

ローマからのアクセスは意外と簡単?

多くの人が「秘境だからアクセスが大変」と思いがちですが、実はそうでもありません。ローマのテルミニ駅から電車でアヴェッツァーノ駅まで約1時間半、そこからバスで公園入口まで約45分。合計2時間15分程度で到着できます。

電車の料金は片道12ユーロ、バスは5ユーロ。レンタカーを借りれば、さらに時短できて約2時間で到着します。高速道路料金は往復で約15ユーロです。

ただし、バスの本数は1日4便と限られているため、時刻表の確認は必須。特に日曜日は運行本数が減るので注意が必要です。

いつ行くべき?季節ごとの楽しみ方

個人的には6月から9月の夏季が最もおすすめ。この時期は全てのトレイルが開放され、野生動物の活動も活発になります。特に7月は高山植物の花が最も美しい季節です。

秋の10月も捨てがたい魅力があります。ブナ林が黄金色に染まる紅葉は圧巻の美しさ。ただし、朝晩の寒暖差が激しくなるため、服装選びは慎重に。

冬季(11月〜3月)は多くのエリアが閉鎖されますが、スノーシューハイキングが楽しめます。雪に覆われた静寂の森は、まさに別世界。ただし、経験者同伴でないと危険なので、現地ガイドツアー(1日80ユーロ)の利用をおすすめします。

この国立公園は、イタリアの新たな一面を発見させてくれる特別な場所です。観光地化されていない分、自然との純粋な対話が楽しめる。そんな貴重な体験を求める方には、絶対に訪れてほしい隠れた宝石のような場所なのです。