エベレスト国立公園で高山病になった私が伝えたい「標高3440mの絶景地獄」

エベレスト国立公園って本当に観光できるの?

エベレスト国立公園の雄大な山々と青空

ネパールのエベレスト国立公園は、世界最高峰エベレストを含む壮大な山岳地帯です。「観光地」と聞くと気軽に訪れられそうですが、実際は標高3440mのナムチェバザールが観光拠点となる本格的な高地体験です。私も軽い気持ちで向かったのですが、到着した瞬間から息切れが止まらず、甘く見ていた自分を猛省しました。

入園料は外国人1人あたり3000ネパールルピー(約3000円)で、トレッキング許可証(TIMS)も別途必要です。カトマンズからルクラ空港まで小型機で約30分、そこから徒歩で2〜3日かけてナムチェバザールに到着するのが一般的なルートです。

息ができない!標高3440mの洗礼

ナムチェバザールの町並みと周囲の山々

ナムチェバザールに到着した時、まるで水中にいるような息苦しさに襲われました。階段を10段上っただけで立ち止まらざるを得ない状況です。地元のシェルパ族の方々は平然と歩いているのに、観光客の多くが同じように苦しんでいる光景は印象的でした。

高山病対策として、到着後は必ず1日以上の滞在で体を慣らす必要があります。症状は個人差がありますが、頭痛、吐き気、眠れないなどが典型的です。私の場合は2日目の夜に激しい頭痛で一睡もできませんでした。

エベレストビューホテルは標高3880mにある世界最高地点のホテルとしてギネスブックにも認定されていますが、ここまで上がると更に酸素が薄くなります。宿泊する場合は十分な高度順応が必要です。

想像を超える絶景に出会えた瞬間

エベレスト山頂付近の雪化粧した峰々

苦しい思いをした分、絶景を目にした時の感動は言葉では表せません。早朝、ナムチェバザール展望台からエベレスト(サガルマータ)を初めて見た瞬間、思わず涙が出ました。8848mの頂上部分だけがちょこんと顔を出している姿は、まさに世界の屋根です。

シェルパ博物館では、エベレスト登山の歴史やシェルパ族の文化を学べます。入館料は100ルピー程度で、テンジン・ノルゲイをはじめとする偉大な登山家たちの功績が展示されています。観光客向けの施設ですが、内容は非常に充実しており、この地域への理解が深まります。

意外なことに、ナムチェバザールにはインターネットカフェATMもあります。標高3440mでWiFiが使えることに驚く観光客は少なくありません。ただし、電力供給が不安定なため、常時利用できるわけではありません。

シェルパ族の温かさと高地グルメ体験

シェルパ族の伝統的な家屋と生活の様子

高山病で苦しんでいる私を見かねたシェルパ族のロッジオーナーが、バター茶を勧めてくれました。ヤクのバターを使った塩味の茶で、最初は抵抗がありましたが、高地での栄養補給に最適な伝統的な飲み物です。体が温まり、不思議と気分も落ち着きました。

ダルバート(豆のスープとライス)は、この地域の基本食事です。標高が高いため米の炊き方も平地とは異なり、圧力鍋を使って調理されます。野菜の種類は限られますが、ジャガイモやキャベツを使った料理は意外に美味しく、体力回復に役立ちました。

シェルパ族の方々の身体能力は圧倒的です。私たちが息を切らしながら歩く道を、重い荷物を背負って軽やかに登っていく姿に感動しました。彼らにとってエベレストは神聖な山「チョモランマ」であり、観光地としてだけでなく信仰の対象でもあるのです。

準備不足では命にかかわる現実

トレッキング中の険しい山道と注意が必要な箇所

エベレスト国立公園観光で最も重要なのは事前準備です。私は日本で軽いハイキング程度の経験しかなく、完全に準備不足でした。最低でも標高2000m程度の山での宿泊経験があることをお勧めします。

装備面では、保温性の高い寝袋防風・防水ジャケットトレッキングシューズは必須です。ナムチェバザールでもレンタル可能ですが、体に合わない装備でのトレッキングは危険です。特に靴は事前に慣らしておくことが重要です。

高山病の症状が重篤化した場合、ヘリコプターでの緊急搬送が必要になることもあります。費用は数十万円かかるため、高地対応の海外旅行保険への加入は絶対に欠かせません。実際に滞在中、体調を崩してヘリで運ばれる観光客を目撃しました。

知られざるエベレスト国立公園の一面

この国立公園には意外な事実があります。実はユキヒョウレッサーパンダなどの希少動物も生息しているのです。ただし、観光客が簡単に遭遇できるものではありません。私が実際に見たのは、高地に適応したヤクゾッキョ(ヤクと牛の交配種)くらいでした。

また、この地域では月曜日と満月の日にアルコールの販売が禁止されています。これは仏教の教えに基づく地元の慣習で、観光客にも適用されます。事前に知らずにビールを楽しみにしていた私は、思わぬ禁酒日を過ごすことになりました。

帰路で感じた達成感と後悔

下山時、ルクラ空港で振り返ると、自分が本当にあの標高3440mの世界にいたのかと信じられない気持ちになりました。辛い体験でしたが、同時に人生で最も印象深い旅になったのも事実です。

ただし、もっと準備を整えて再訪したいと強く思います。今度は高度順応のための時間を十分にとり、ベースキャンプトレッキングにも挑戦してみたいです。エベレスト国立公園は「観光地」というより「人生の挑戦の場」と考えて臨むべき場所でした。

軽い気持ちで訪れて痛い目を見た私だからこそ言えるのは、この場所の美しさと厳しさは想像を遥かに超えるということです。十分な準備と覚悟を持って訪れれば、きっと人生観が変わる体験ができるはずです。