ロトルアで地球の鼓動を感じた!温泉とマオリ文化の街で体験した「火山の恐怖」と「癒しの時間」

なぜロトルアは「地獄の街」と呼ばれるのか?

ニュージーランド北島のロトルアに到着した瞬間、鼻をつく硫黄の匂いに思わず顔をしかめました。街のあちこちから湯気が立ち上り、まるで地面の下に巨大な釜が隠されているかのような光景が広がります。実はこの街、世界有数の地熱活動地帯に位置し、マオリの人々が「ロトルア(第二の湖)」と名付けた美しい湖と、地球の内部から噴き出す自然の力が共存する不思議な場所なのです。

オークランドから車で約3時間、バスでも同程度の時間でアクセスできるロトルアは、観光客にとって日帰りも可能ですが、最低でも1泊2日は欲しいところ。なぜなら、この街の真の魅力は夜にこそ現れるからです。

テプイアで感じた地球の生命力とマオリ文化の深さ

ロトルア観光の核心とも言えるテプイア(Te Puia)は、単なる地熱観光地ではありません。入場料は大人約45NZドル(約4,000円)とやや高めですが、ここでしか体験できない価値があります。園内には約500の温泉と間欠泉があり、中でもポフツ間欠泉は最大30メートルの高さまで熱湯を噴き上げる迫力満点の光景を見せてくれます。

しかし、私が最も感動したのは地熱の力ではなく、マオリガイドの方が語ってくれた伝統的な大地との向き合い方でした。「地熱は私たちの祖先からの贈り物。料理にも暖房にも使い、決して無駄にはしない」という言葉に、現代人が忘れがちな自然との共生の意味を教えられました。営業時間は8時から18時(夏季)、冬季は17時までとなっています。

キウイバードとの意外な出会い

テプイア内のキウイハウスでは、ニュージーランドの国鳥であるキウイバードの生態を間近で観察できます。実は多くの人が知らないのですが、キウイは夜行性のため、館内は昼夜が逆転した特殊な照明システムを採用。私たちが昼間に訪れても、キウイにとっては夜の時間なので活発に動き回る姿を見ることができるのです。

ワイオタプで遭遇した「悪魔の化学実験室」

ロトルア市街から車で約30分の場所にあるワイオタプ・サーマル・ワンダーランドは、まさに地球が見せる天然の化学実験室です。入場料は大人約32NZドル(約2,800円)。

最も有名なのはグランド・プリズマティック・スプリングを彷彿とさせる「シャンパンプール」ですが、私が震え上がったのは「デビルズバス(悪魔の風呂)」でした。エメラルドグリーンの湯面は美しく見えますが、実際は摂氏約70度の強酸性の熱湯。一歩間違えば命に関わる危険な場所なのに、その美しさに魅了されてしまう恐ろしさがあります。

園内の遊歩道は全長約2.5キロメートル。ゆっくり回ると約1時間30分かかりますが、途中で立ち止まって写真を撮る時間を考えると2時間は見ておきたいところです。

レディノックス間欠泉の正確すぎるタイミング

午前10時15分。毎日決まってこの時刻にレディノックス間欠泉の噴出ショーが始まります。係員が石鹸を投入することで化学反応を促し、約20メートルの高さまで熱湯が噴き上がる人工的なパフォーマンスです。「自然じゃないなら意味がない」と最初は思いましたが、実は19世紀からこの方法で観光客を楽しませてきた歴史ある演出だと知り、考えが変わりました。

ポリネシアン・スパで体験した「罪悪感のある贅沢」

一日中地熱地帯を歩き回った後は、ポリネシアン・スパで疲れを癒すのがロトルア観光の定番コース。しかし、ここで体験したのは単なるリラクゼーションではなく、深い罪悪感を伴う贅沢でした。

入浴料は大人約25NZドル(約2,200円)から、プライベート・スパは1時間約85NZドル(約7,500円)。ロトルア湖を眺めながら浸かる温泉は確かに最高の贅沢ですが、目の前に広がる湖では地元の人々が普通に生活していることを思うと、複雑な気持ちになりました。

ラケット病院温泉の知られざる歴史

ポリネシアン・スパの敷地内には、かつてラケット病院という温泉治療施設がありました。1880年代から1960年代まで、世界各地から関節炎やリウマチ患者が治療のために訪れていた歴史があります。現在でも温泉の治療効果は科学的に認められており、単なるレジャー施設以上の価値を持っています。

マオリ文化体験で感じた「観光地化」への複雑な思い

夜はマオリ文化体験ツアーに参加しました。ミタイ・マオリ・ビレッジでは、料金約110NZドル(約9,800円)でハンギ料理(地熱を利用した蒸し料理)とカルチャー・パフォーマンスを楽しめます。

しかし、観光客向けにアレンジされた踊りを見ながら、これが本当の伝統文化なのか疑問に思いました。案内してくれたマオリの青年に率直に聞いてみると、「観光は私たちの文化を伝える手段の一つ。完全に昔のままではないけれど、核心は変わっていない」という答えが返ってきました。彼の真剣な表情に、文化継承の難しさと重要性を感じました。

ハンギ料理に隠された地熱活用の知恵

地中に埋めた鍋で約3時間かけて調理するハンギ料理は、マオリの人々が数百年前から続けてきた調理法です。肉と野菜を一緒に蒸すことで、食材本来の味が凝縮され、現代のスローフード運動にも通じる理念があります。ただし、観光地のハンギは実際には現代的な設備で作られることも多く、本物を味わいたいなら地元の家庭に招かれる機会を探すのがベストです。

ロトルア湖畔で迎えた朝の静寂と気づき

翌朝、宿泊したモーテルから徒歩5分のロトルア湖畔を散歩しました。早朝6時、観光客がまだ動き出す前の湖は、前日とは全く違う表情を見せてくれます。湖面に映る朝日と、遠くから聞こえる鳥の鳴き声。硫黄の匂いさえも、この時間なら自然の一部として受け入れることができました。

湖の周囲には約20キロメートルの遊歩道が整備されており、ジョギングやサイクリングを楽しむ地元の人々の姿があります。観光地として知られるロトルアですが、実際には約7万人が暮らす生活の場でもあることを実感しました。

黒鳥との意外な出会い

湖畔で出会ったのは、オーストラリア原産のブラックスワン(黒鳥)。実はこの鳥、1860年代にニュージーランドに持ち込まれた外来種ですが、今では在来種以上に湖の風景に溶け込んでいます。地元の人に聞くと、「最初は問題視されたけれど、今はロトルアの象徴の一つ」とのこと。人間の移住と同じく、時間が経てば「よそ者」も地域の一部になるという興味深い例です。

帰路で振り返るロトルアの本当の魅力とは?

ロトルア観光を終えて気づいたのは、この街の真の魅力は派手な観光スポットではなく、地球の力と人間の知恵が共存する日常にあるということでした。確かに間欠泉や温泉は見応えがありますが、それ以上に印象的だったのは、マオリの人々が自然と共に生きてきた姿勢と、現代の観光業との間で文化をどう継承していくかという真摯な取り組みでした。

総費用は2日間で約400NZドル(約35,000円)。決して安くはありませんが、地球の鼓動を肌で感じ、異文化への理解を深められる経験は、金額以上の価値があったと断言できます。

次回ニュージーランドを訪れる時は、ロトルアにもう少し長く滞在して、観光地の顔だけでなく、地元の人々の日常により深く触れてみたいと思います。きっと、今回見つけることができなかった新たな魅力に出会えるはずです。