なぜカシュは「トルコのサントリーニ島」と呼ばれるの?
地中海に面した小さな港町カシュ(Kaş)は、トルコ南西部アンタルヤ県にある人口わずか8,000人ほどの町です。しかし、この小さな町が近年「隠れた地中海の宝石」として世界中の旅行者から注目を集めています。
白い家々が斜面に立ち並ぶ様子は確かにギリシャの島々を彷彿とさせますが、カシュには独自の魅力があります。古代リキア文明の遺跡、透明度抜群の海、そして何より観光地化されすぎていない素朴さ。これらすべてが、一度訪れたら忘れられない体験を約束してくれます。
カシュ到着前に知っておくべき現実とは?
アクセスは思っているより大変?
カシュへのアクセスは正直に言って簡単ではありません。最寄りの空港はアンタルヤ空港で、そこからバスで約3時間30分の道のりです。山道を縫って走るため、車酔いしやすい方は酔い止めを準備しておくことをお勧めします。
アンタルヤからはハヴァシュ(HAVAŞ)という空港バスサービスが1日数便運行しており、料金は約60トルコリラ(2024年現在)。また、ドルムシュ(乗り合いタクシー)を乗り継ぐ方法もありますが、荷物が多い場合はバスの方が楽でしょう。
宿泊費が意外に高い理由
カシュの宿泊費は、トルコの他の観光地と比べてやや高めです。これは観光地としての人気が高まっている一方で、小さな町のため宿泊施設の数が限られているからです。夏のハイシーズン(7月〜8月)には、ブティックホテルで1泊100〜200ユーロ、ゲストハウスでも50〜80ユーロが相場となります。
絶対に見逃せない!カシュの「本当の」見どころ
リキア王墓群|町中に佇む2400年前の謎
カシュの町を歩いていると、突然巨大な石の墓が現れます。これがリキア王墓群です。紀元前4世紀に造られたこの墓群は、古代リキア王国の支配者たちが眠る場所。最も印象的なのは町の中心部にある「アンティパトロス王の石棺」で、その巨大さに圧倒されます。
興味深いのは、リキア人が「死者は鳥によって天に運ばれる」と信じていたため、墓を高い場所に作ったということ。町中を歩きながら、2400年前の人々の死生観に思いを馳せる体験は、カシュならではです。
シミ島への日帰りトリップ|国境を越えた小冒険
カシュから船でわずか20分の距離にあるのが、ギリシャ領のシミ島(Simi Adası)です。パスポートさえあれば、日帰りでギリシャを訪問できる貴重な体験ができます。
朝9時頃に出発し、夕方18時頃に戻ってくる日帰りツアーが人気で、料金は約35ユーロ。島では約4時間の自由時間があり、ギリシャらしい白と青の建物、美しいビーチ、そして本格的なギリシャ料理を楽しめます。ただし、海が荒れる日は運航中止になることもあるので、天気予報は事前にチェックしましょう。
カシュで味わうべき絶品グルメって何?
地中海の恵み|メゼとシーフードの楽園
カシュのレストランで必ず注文したいのがメゼ(Meze)です。小皿料理の詰め合わせで、地中海で獲れた新鮮な魚介類、オリーブオイルをたっぷり使った野菜料理、チーズなどが少しずつ味わえます。1人前約25〜35トルコリラで、2〜3人でシェアするのがおすすめです。
港沿いのレストラン「Bi Lokma」は地元の人も通う名店で、その日の朝に獲れた魚を使ったグリルは絶品。夕日を眺めながら食事ができる席もあり、営業時間は18時〜24時です。
意外な名物|カシュ産のハチミツ
観光客にはあまり知られていませんが、カシュは実はタイム(百里香)の蜂蜜の産地として有名です。周辺の山々に自生するタイムの花から採れるこの蜂蜜は、独特の香りと深い味わいが特徴。町の市場で小瓶約15〜20トルコリラで購入でき、お土産としても喜ばれます。
知らないと困る?カシュ観光の落とし穴
夏の暑さは想像以上
7月から8月のカシュは、日中の気温が40度を超えることもあります。しかも、建物の多くが石造りのため、夜になっても熱がこもりやすく、エアコンのない宿では寝苦しい夜を過ごすことになりかねません。この時期に訪れる場合は、エアコン完備の宿を選ぶか、扇風機を持参することをお勧めします。
ATMが少ない現実
カシュは小さな町のため、ATMの数が限られています。町の中心部に数台あるだけで、故障していることも珍しくありません。現金は余裕を持って用意し、クレジットカードが使えるかどうか事前に宿泊先やレストランに確認しておきましょう。
日曜日は静寂の町?
カシュは敬虔なイスラム教徒も多く住む町のため、日曜日には多くの商店やレストランが休業します。特に地元の人が経営する小さな食堂や雑貨店は、金曜日の礼拝後から日曜日まで閉まることも。観光客向けのレストランは営業していることが多いですが、選択肢は平日より大幅に減ります。
カシュでしかできない特別な体験とは?
パラグライディング|鳥の目線で見る地中海
カシュ近郊のパタラビーチ周辺は、パラグライディングの聖地として知られています。高度1,000メートルから見下ろす地中海の青さは、写真では伝えきれない美しさです。
インストラクターと一緒に飛ぶタンデムフライトは約20分間で、料金は150〜200トルコリラ。風の状況により飛行できない日もあるため、滞在期間中の早い段階で予約を入れておくのが賢明です。高所恐怖症でなければ、間違いなく旅のハイライトになるでしょう。
カヤキング|隠された入り江の探検
カシュの海岸線には、陸路ではアクセスできない美しい入り江が点在しています。これらを探検できるのがシーカヤックです。半日ツアー(約4時間)で60〜80トルコリラ、透明度の高い海で泳いだり、洞窟を探検したりできます。
ガイドさんが教えてくれる海の生き物の話や、古代リキア人が使っていた港の遺跡の話も興味深く、単なるアクティビティ以上の価値があります。
カシュから足を伸ばすべき秘境スポット
サクルケント峡谷|真夏でも涼しい氷河の谷
カシュから車で約1時間のサクルケント峡谷は、長さ18キロメートルの石灰岩でできた渓谷です。入場料は大人5トルコリラと格安ながら、真夏でも水温が10度程度という天然のクーラーを体験できます。
峡谷内は足首まで水に浸かって歩くため、サンダルや水着の準備は必須。途中には川床に座って足を冷やせるカフェもあり、トルコ式ピクニックを楽しむ地元家族の姿も見られます。
パタラビーチ|18キロ続く黄金の砂浜
パタラビーチは全長18キロメートルという途方もない長さを誇る砂浜で、その美しさからトルコ政府が「特別環境保護区域」に指定しています。入場料は大人8トルコリラで、レンタルパラソルは1日20トルコリラです。
ここは絶滅危惧種のアカウミガメの産卵地でもあり、6月から9月にかけては夜間の立ち入りが制限されます。夕方には砂丘に沈む夕日が見られ、その光景は「トルコで最も美しい夕日」と称されることもあります。
カシュは確かに小さな町ですが、その中に詰まっている歴史、文化、自然の豊かさは計り知れません。観光地化の波に飲まれる前に、この素朴な魅力を味わってみてはいかがでしょうか。きっと、またすぐに戻ってきたくなる場所になるはずです。