セント・アンドリュース「予約取れません」の真実 – ゴルフ聖地で実際に起きた衝撃体験記

憧れのオールドコースで待ち受けた現実とは?

セント・アンドリュースのオールドコース

スコットランドの小さな海辺の街、セント・アンドリュース。ここには世界中のゴルファーが一生に一度はプレーしたいと願うオールドコースがあります。しかし実際に行ってみると、想像とは全く違う現実が待っていました。

まず驚くのが予約システムです。一般的なゴルフ場のように「来週お願いします」なんて気軽には取れません。オールドコースでプレーするには、なんと1年前からの予約が基本。それでも満員の場合は、前日の午後2時から受け付けるバロット(抽選)システムに賭けるしかないのです。

料金も覚悟が必要です。夏季のオールドコースは1ラウンド約300ポンド(約5万円)。キャディフィーが別途必要で、合計すると軽く7万円を超えます。それでも世界中からゴルファーが押し寄せる理由は、この場所でしか味わえない特別な体験があるからなのです。

バロット抽選に人生を賭ける人々の姿

セント・アンドリュースでの抽選待ちの様子

前日午後2時、リンクス・ハウス(クラブハウス)前には長蛇の列ができます。この光景こそが、セント・アンドリュースの真の姿です。アメリカから来た70歳のおじいさん、日本から新婚旅行で来た若いカップル、地元スコットランドの常連まで、みんな同じ夢を抱いて並んでいます。

抽選は翌日の朝6時から始まります。運良く当選すれば、その日のうちにプレー可能。しかし落選すれば、また明日チャレンジするか、諦めて帰国するか…。私が見た中で最も印象的だったのは、3日連続で落選したドイツ人男性が、4日目についに当選して涙を流していた場面でした。

興味深いのは、地元の人でも特別扱いされないこと。セント・アンドリュース在住者向けの優遇制度はありますが、それでも観光客と同じようにバロットに参加する人が多いのです。これこそがゴルフ発祥の地としての誇りなのでしょう。

18番ホールで起こる「魔法の瞬間」

セント・アンドリュース18番ホール

ついにプレーが始まると、最初は正直「普通の海辺のコース?」という印象を受けるかもしれません。フェアウェイは起伏に富み、ところどころ芝が薄く、モダンなゴルフ場に慣れた目には少し物足りなく感じることも。

しかし真の感動は18番ホール「トム・モリス」で待っています。このパー4は、フェアウェイ右側に走るスウィルカン・ブリッジ(石の橋)とその手前の小川「スウィルカン・バーン」が特徴的。多くのゴルファーがこの橋の上で記念撮影をしますが、実は橋を渡る必要は全くありません。ただの観光スポットなのです。

18番グリーンに近づくにつれ、ギャラリーが増えてきます。一般観光客や次の組のプレーヤー、そして地元の人々が拍手で迎えてくれる光景は、他のゴルフ場では絶対に体験できません。スコアがどんなに悪くても、この瞬間だけはプロゴルファーになった気分を味わえるのです。

キャディとの会話で知る「本当のセント・アンドリュース」

セント・アンドリュースのキャディと一緒にプレーする様子

セント・アンドリュースでは、キャディの存在が特別です。彼らの多くは30年以上この仕事を続けているベテランで、コースを知り尽くしているだけでなく、ゴルフの歴史の生き証人でもあります。

私のキャディを務めてくれたジョンさん(仮名)は、なんと全英オープンで実際にプロのキャディを務めた経験の持ち主でした。彼が教えてくれたのは、表向きの観光情報では決して知ることのできない「裏話」の数々。

「7番ホールの左のバンカー、あそこでタイガー・ウッズが2000年の全英オープンで苦戦したんだ。でも実は、そのバンカーは1990年代に掘り直されてるんだよ。昔はもっと浅かった」

こんな具体的なエピソードを交えながら、各ホールの攻略法を教えてくれます。キャディフィーは約80-100ポンドと決して安くありませんが、彼らと過ごす時間こそがセント・アンドリュースの真の価値なのです。

プレー後に味わう「余韻」が最高の贅沢

セント・アンドリュースのクラブハウスでの食事

プレーを終えた後の時間が、実はセント・アンドリュース体験の最も贅沢な部分かもしれません。多くの人がスコアカードにサインをもらおうと、R&Aクラブハウス前で記念撮影をしていますが、本当のおすすめは少し離れた場所にあります。

The Jigger Innという小さなパブが、オールドコース17番ホール「ロード・ホール」のすぐ脇にあります。ここでプレー直後のパイントビール(約5ポンド)を飲みながら、次の組がプレーしている様子を眺める時間は格別です。運が良ければ、有名なプロゴルファーや著名人がプレーしている姿を目撃できることも。

地元の常連客との会話も興味深いものです。彼らの多くは毎日のようにここに通い、世界中からやってくるゴルファーたちを温かく見守っています。「今日のラウンドはどうだった?」と気軽に声をかけてくれる彼らとの交流は、スコットランドの人柄の良さを実感できる瞬間です。

意外と知られていない「もう一つの聖地」

実は、セント・アンドリュースにはオールドコース以外にも6つのコースがあります。特にニューコース(1895年開場なのに「ニュー」!)は、オールドコースより難易度が高いと言われ、地元ゴルファーには「真のテスト」として親しまれています。

料金もオールドコースの半分程度(約150ポンド)で、予約も比較的取りやすいのが魅力。しかし観光客の多くがオールドコースにしか興味を示さないため、こちらは穴場的存在になっています。ゴルフの腕に自信があるなら、むしろニューコースの方が満足度は高いかもしれません。

街全体がゴルフ博物館という現実

プレー後に街を歩いてみると、セント・アンドリュースという街自体がゴルフの歴史そのものだということが分かります。メインストリートには世界最古のゴルフショップ「トム・モリス・ショップ」があり、1866年から営業を続けています。

ここで売られているセント・アンドリュース限定グッズは、日本では手に入らない貴重なもの。特にオールドコースの芝で作られたディボットツール(約25ポンド)は、ゴルフ好きへの最高のお土産として人気です。

街の至る所でゴルフの歴史を感じられますが、同時にここがセント・アンドリュース大学のある学園都市であることも忘れてはいけません。ウィリアム王子とキャサリン妃が出会った大学としても有名で、昼間は学生たちが行き交う若々しい雰囲気に包まれています。

帰国後も続く「セント・アンドリュース症候群」

不思議なことに、セント・アンドリュースでプレーした人の多くが「また必ず戻ってくる」と言います。これは単なるゴルフコースへの愛着を超えた、何か特別な感情のようです。

日本に帰ってから地元のゴルフ場でプレーしても、どこか物足りなさを感じてしまう。設備は最新で、芝は完璧に整備されているのに、心が満たされない。これがいわゆる「セント・アンドリュース症候群」と呼ばれる現象です。

最後に一つアドバイスを。もしあなたがセント・アンドリュースへの旅を計画しているなら、ゴルフクラブだけでなく、心の準備も忘れずに。なぜなら、ここで過ごす時間は間違いなく、あなたのゴルフ人生を変えてしまうからです。

エディンバラから車で約1時間半、グラスゴーからは約2時間半。決して便利な場所ではありませんが、その不便さすらも含めて、セント・アンドリュースの魅力なのかもしれません。