ロンドン郊外にあるセント・ジョージズ・ヒル ゴルフクラブ。ここは単なるゴルフ場ではありません。1913年創設のこのコースは、英国ゴルフ界の格式と伝統を色濃く残す「生きた博物館」とも呼べる場所なのです。私が初めて訪れた時、その厳格なルールと美しさに圧倒されながらも、日本のゴルフ場との違いに戸惑いの連続でした。
まさかのドレスコードチェック?入場前の緊張の瞬間
サリー州ウェイブリッジにあるこのコースへのアクセスは、ロンドン中心部から車で約45分。電車ならウェイブリッジ駅からタクシーで10分程度です。しかし、到着した瞬間から「ここは違う」と感じました。
エントランスで最初に待っているのは、厳格なドレスコードチェックです。男性はジャケット着用必須、女性もスマートカジュアル以上が求められます。私が見た限り、ジーンズやスニーカーで来た人は容赦なく入場を断られていました。プレー料金は平日でも約150ポンド(約27,000円)からと決して安くありませんが、この厳格さこそがコースの価値なのです。
ハリー・コルトが描いた戦略的な罠?コース設計の妙技
このコースを設計したのは、英国ゴルフ界の巨匠ハリー・コルトです。彼の設計哲学は「美しさと戦略性の完璧な調和」。18ホール全てが異なる表情を見せ、特に7番ホールのパー3は「悪魔のホール」と呼ばれるほど難易度が高いのです。
興味深いのは、コルトが意図的に「視覚的な錯覚」を多用していること。一見フラットに見えるフェアウェイが実は微妙な傾斜を持っていたり、距離感を狂わせるバンカーの配置など、100年以上前の設計とは思えない巧妙さです。営業時間は夏季で朝7時から日没まで、冬季は8時からと季節により異なります。
クラブハウスで感じた本物の英国紳士文化って?
プレー後のクラブハウスでの時間こそ、このコースの真価が問われる瞬間です。重厚なオークの内装に囲まれた空間では、今でも「携帯電話使用禁止」のルールが徹底されています。これは決して時代遅れではなく、ゴルフ本来の社交性を重視する英国の文化なのです。
ここで驚いたのは、メンバーの中に元プロゴルファーや実業家だけでなく、地元の職人や教師なども含まれていること。英国では「ゴルフの腕前と人格」こそが入会の基準であり、単なる富裕層の集まりではないのです。バーでの一杯のビールが約6ポンド(約1,100円)と、ロンドン市内とほぼ同水準の価格設定も親しみやすさの表れでしょう。
意外と知らない?隠された歴史と名物ホール
このコースには一般のガイドブックには載らない興味深い歴史があります。実は第二次世界大戦中、一部のホールが軍用の滑走路として使用されていたのです。現在の14番ホールのフェアウェイが異様に真っ直ぐなのは、その名残なのだとか。
また、16番ホールには「ウィッシング・ウェル(願いの井戸)」と呼ばれる古い井戸があります。地元の言い伝えでは、ここでナイスショットを打てれば願いが叶うとされ、多くのゴルファーが密かにお祈りしながらティーショットを打っています。こうした小さな伝説も、コースに深みを与える要素の一つです。
実際にラウンドして分かった攻略のコツとは?
セント・ジョージズ・ヒルで良いスコアを出すには、日本のゴルフとは異なるアプローチが必要です。最も重要なのは「風の読み」。ヒースランド特有の強い横風が、ボールの軌道を大きく左右します。
現地のキャディからのアドバイスは目から鱗でした。「このコースでは飛距離より精度。200ヤード確実に打てるなら、250ヤード狙いは禁物」という言葉通り、欲をかいたショットは必ずトラブルを招きます。特に雨上がりのコンディションでは、グリーンが想像以上に速くなるため、パッティングは慎重すぎるくらいがちょうど良いのです。
面白いのは、このコースの「隠れバンカー」の存在。フェアウェイの起伏により死角になっているバンカーが複数あり、初回プレーヤーの90%がこの罠にはまります。地元メンバーは「コースを知ることが最大の武器」と口を揃えて言いますが、まさにその通りです。
知っておきたいエチケットと現地の慣習
日本人ゴルファーが最も戸惑うのが、プレー中のエチケットの違いです。こちらでは「Ready Golf」が基本。順番を厳格に守るより、準備ができた人から打つスタイルが好まれます。また、グリーン上でのラインを読む時間は最大30秒が暗黙のルール。日本のようにじっくり時間をかけると、後続組から顰蹙を買うことになります。
19番ホール(バー)での会話も独特です。スコアの自慢話よりも、「今日一番美しかったショット」や「面白いミスショット」について語り合うのが一般的。この文化の違いを理解すると、より深くゴルフを楽しめるでしょう。
アクセスと予約時の注意点
予約は最低でも2週間前、できれば1ヶ月前には済ませておきましょう。特に5月から9月の観光シーズンは、平日でも予約が埋まりがちです。電話予約の際は、必ずハンディキャップ証明書の提示を求められるため、事前に準備が必要です。
最寄りの宿泊施設なら、ウェイブリッジ駅周辺のB&B(1泊80ポンド程度)がおすすめ。朝食付きで、オーナーがゴルフ好きの場合が多く、コースの攻略法を教えてくれることもあります。車でのアクセスなら、M25からA3を経由するルートが最も確実で、駐車場は無料です。
セント・ジョージズ・ヒル ゴルフクラブは、単なるスポーツ施設を超えた「英国文化体験の場」です。厳格なルールや高い料金に最初は戸惑うかもしれませんが、その分得られる体験は格別。ゴルフを通じて本物の英国紳士文化に触れられる、貴重な場所なのです。次回ロンドンを訪れる際は、ぜひ一度チャレンジしてみてください。きっと忘れられない一日になるはずです。