ロイヤル・トゥルーンで18番ホールが悪夢になった理由|全英オープンの舞台で味わう屈辱と感動

なぜロイヤル・トゥルーンは「世界で最も恐ろしいゴルフコース」と呼ばれるのか?

ロイヤル・トゥルーンの美しい海岸線コース

スコットランド西岸の小さな町トゥルーンに、プロゴルファーでさえ恐れをなすコースがあります。ロイヤル・トゥルーン・ゴルフクラブは、1860年創設という歴史を持ちながら、現在でも全英オープンの開催地として世界のトッププレイヤーたちを苦しめ続けています。

このコースの恐ろしさは、単純に難しいだけではありません。アイリッシュ海からの強烈な風が常に吹き付け、一瞬でスコアを崩壊させる魔力を持っているのです。実際にラウンドしてみると分かりますが、朝方は穏やかだった風が、昼過ぎには時速40キロを超える突風に変わることも珍しくありません。

特に有名なのが8番ホール「ポスタゲ・スタンプ」です。この123ヤードのパー3は、グリーンがまさに切手のように小さく、少しでもショットがずれれば深いバンカーか荒れ地へ一直線。全英オープンでは、このホールだけで優勝争いが決まることもあるほど戦略性に富んでいます。

料金とプレー条件は想像以上に厳格

ロイヤル・トゥルーンでプレーするには、平日で約350ポンド(約6万円)、週末は450ポンド(約7万5千円)という高額な料金を覚悟する必要があります。しかも、紹介状または事前の詳細な予約申請が必要で、飛び込みでのプレーはほぼ不可能です。

18番ホール「クレイグ・キャット」で味わった絶望とは?

18番ホールの険しい地形とフェアウェイ

最終18番ホール「クレイグ・キャット(猫の岩)」は、このコースの真骨頂とも言える難ホールです。452ヤードのパー4ですが、距離以上に恐ろしいのはフェアウェイ左側に横たわる巨大な砂丘と、右サイドの深いラフです。

ティーショットでは、海からの横風に煽られながら、わずか25ヤード幅のフェアウェイを狙わなければなりません。プロでさえ、この狭いランディングエリアを外すことがあり、アマチュアゴルファーにとっては正真正銘の悪夢と化します。

私が実際にプレーした際、朝のうちは比較的穏やかだった風が、18番に到達する頃には強烈な向かい風に変わっていました。通常なら7番アイアンで届く距離が、5番アイアンでも届かない。グリーン手前の深いバンカーに3度も入れてしまい、結果的に9打という屈辱的なスコアに。しかし、それでも「ロイヤル・トゥルーンで9打」という事実に、なぜか誇らしさを感じてしまうのです。

全英オープンの舞台で感じる歴史の重み

クラブハウスと歴史ある建物

ロイヤル・トゥルーンは、これまで10回の全英オープンを開催し、数々の伝説を生み出してきました。特に1973年のトム・ワトソンの初優勝、2016年のヘンリック・ステンソンによる歴史的な低スコア優勝(264打、-20)は、ゴルフ史に刻まれる名勝負として語り継がれています。

クラブハウス内には、これらの優勝者の写真やトロフィーが展示されており、ゴルフの聖地としての格式を肌で感じることができます。特に印象的なのは、1860年の創設時から使われている古いクラブや、歴代チャンピオンが実際に使用したボールの展示です。

アクセスは、グラスゴー国際空港から車で約30分、電車を利用する場合はグラスゴー中央駅からトゥルーン駅まで約45分と比較的便利です。ただし、事前予約は必須で、特に全英オープン開催年は1年以上前から予約が埋まってしまいます。

知られざるロイヤル・トゥルーンの秘密

実は、ロイヤル・トゥルーンには一般的なゴルフガイドには載っていない興味深い事実があります。コース設計に携わったのは、あの有名なオールド・トム・モリスですが、彼が設計した当初のレイアウトと現在のコースは大きく異なっているのです。

プレー当日の心構えと必携アイテム

強風に立ち向かうゴルファー

ロイヤル・トゥルーンでのプレーを成功させるには、通常のゴルフとは異なる準備が必要です。まず、防風・防水ウェアは絶対に欠かせません。スコットランドの天気は変わりやすく、朝は快晴でも昼過ぎには激しい雨に見舞われることがあります。

クラブセッティングも重要になります。強風対策として、通常よりも1〜2番手大きなクラブを多めに持参することをお勧めします。また、低い弾道で打てるユーティリティクラブは、このコースでは必携アイテムです。

プレー料金には、キャディフィーが含まれていませんが、ロイヤル・トゥルーンのキャディは単なるバッグ持ちではありません。彼らはコースの特性を知り尽くした「風の読み手」であり、1ラウンド約80ポンドのキャディフィーを払っても、必ず元は取れるでしょう。

営業時間は朝7時から日没まで(夏季は午後8時頃まで)ですが、海からの風は午後に強くなるがあるため、可能であれば朝一番のスタートを強くお勧めします。

帰路で味わう不思議な達成感と余韻

夕暮れ時のコースと海岸線の美しい景色

散々な結果に終わったにも関わらず、クラブハウスでの一杯は格別でした。19番ホールと呼ばれるバーからは、今しがた戦った18番グリーンが一望でき、他のプレイヤーたちとの「敗北談」に花が咲きます。

興味深いことに、ロイヤル・トゥルーンでは「良いスコア」よりも「いかに苦労したか」が話題の中心になります。地元のメンバーも含めて、誰もが風に翻弄された体験談を持っており、それが一種の勲章のように語られるのです。

トゥルーンの町で味わう本場の味

プレー後は、ぜひトゥルーンの町を散策してみてください。クラブから徒歩5分の場所にある「マクファーレンズ」というパブでは、地元で水揚げされた新鮮なフィッシュ&チップスを味わえます。特に、このパブの自家製タルタルソースは絶品で、ゴルフの疲れを癒してくれる最高の一品です。

また、トゥルーン駅近くの小さな土産物店では、ロイヤル・トゥルーンの公式ボールマーカーを購入できます。これは実際に全英オープンで使用されたものと同じデザインで、プレーした記念品としては最適でしょう。

帰りのグラスゴー行きの電車で、窓越しに見えるアイリッシュ海の景色を眺めながら、私は既に「次はもっと良いスコアで回ってやる」と心に誓っていました。それがロイヤル・トゥルーンの魔力なのかもしれません。完膚なきまでに叩きのめされたにも関わらず、必ずまた挑戦したくなる。それこそが、この聖地が150年以上にわたって愛され続ける理由なのです。