「ロイヤル」の称号を持つコースって、本当に特別なの?
イングランド北西部のサウスポートに位置するロイヤル・バークデールゴルフクラブ。1873年創設のこのコースは、英国王室から「ロイヤル」の称号を授与された由緒正しきゴルフクラブです。全英オープンを10回開催し、タイガー・ウッズが2006年に優勝した舞台としても知られています。
私が初めてここを訪れたとき、正直「普通のリンクスコースでしょ?」と軽く考えていました。しかし、その認識は18ホール回る頃には完全に覆されることになったのです。マンチェスターから車で約1時間、リヴァプールからは約45分という立地の良さも魅力の一つですが、アクセスの簡単さとは裏腹に、コースの難易度は想像をはるかに超えていました。
風との闘いが始まる前に知っておくべきこと
ラウンド料金は平日で約200ポンド(約36,000円)、週末は250ポンド程度。決して安くはありませんが、この歴史あるコースでプレーできることを考えれば妥当な価格設定です。予約は公式サイトから可能ですが、特に夏場(6-8月)は2-3ヶ月前の予約が必須となります。
ドレスコードは極めて厳格です。ジーンズやスニーカーは完全にNG。男性はジャケット着用が求められる場面もあります。私が目撃したのは、服装不備で入場を断られた観光客の姿。せっかくの旅行が台無しにならないよう、事前の確認は絶対に怠らないでください。
営業時間は基本的に日の出から日没まで。夏場は朝6時から夜9時頃まで楽しめますが、冬場は午後3時頃には薄暗くなるため、時期を考慮した計画が重要です。
1番ホールから感じる「格の違い」
スターティングティーに立った瞬間、空気が変わります。1番ホール(パー4、418ヤード)は比較的ストレートですが、ここで油断すると後が続きません。フェアウェイは思っているより狭く、ラフに入ったボールを探すだけで相当な時間を要します。
特に印象的だったのが7番ホール(パー3、156ヤード)。「バンカーの墓場」と呼ばれるこのホールは、グリーン周りを深いポットバンカーが囲んでいます。プロでさえ苦戦するこのホールで、私は3打もバンカーショットを打つ羽目になりました。砂の質も日本とは全く異なり、重くて粘りがあるため、普段の感覚では全く歯が立ちません。
17番ホール(パー5、572ヤード)では、アイルランド海からの強風に翻弄されました。向かい風では200ヤード飛ばすのがやっと。追い風になると今度はボールが止まらない。風の読みがスコアを大きく左右するのがリンクスゴルフの醍醐味であり、同時に最大の難しさでもあります。
クラブハウスで知る「真の英国ゴルフ文化」
ラウンド後のクラブハウス体験こそ、ロイヤル・バークデールの真価が問われる場面です。1階のスパイクバーでは軽食とビールを楽しめますが、真の体験は2階のダイニングルームにあります。
ここで驚いたのが「19番ホールの掟」。ラウンド後、同じ組でプレーした人たちと必ず乾杯をする習慣があるのです。国籍や言葉の壁を超えて、ゴルフという共通言語で会話が弾みます。地元のメンバーから聞いた話では、この習慣は150年以上続いているとのこと。
名物のフィッシュアンドチップス(15ポンド)は、近海で取れた新鮮な魚を使用。衣はサクサクで中はふわふわ、付け合わせのマッシーピーズ(グリーンピースのペースト)が絶妙にマッチします。
意外と知られていない「バークデールの秘密」
多くのゴルファーが知らない事実があります。実はロイヤル・バークデールは、世界で初めて18ホール全てに異なる種類の野鳥が生息するコースとして認定されているのです。コース内には専門のバードウォッチング・ガイドまで常駐しており、プレー中に珍しい鳥を見つけると詳しく説明してくれます。
また、15番ホール付近には第二次世界大戦中の防空壕跡が残されており、今でも一部を見学することができます。戦時中、このコースは軍事訓練場として使用されていたという歴史的背景があり、現在のクラブハウスの地下には当時の資料が展示されています。
コース設計にも興味深い秘密があります。18番ホールのグリーン周辺には、意図的に作られた「隠れマウンド」が存在します。これは1960年代の改修時に、地元の羊飼いが「羊が迷子にならないように」と提案したもので、実際に羊がこのマウンドを目印にしていたという微笑ましいエピソードが残っています。
帰り道で気づく「英国ゴルフの本質」
クラブハウスを後にする際、多くのプレイヤーが振り返ります。それは単なる名残惜しさではなく、何か大切なことを学んだという実感があるからです。ロイヤル・バークデールでのラウンドは、単にボールを穴に入れるスポーツではなく、自然との対話、歴史との共鳴、そして人との交流すべてを包含した総合的な体験なのです。
スコアカードを見返すと、数字以上の価値がそこにあることに気づきます。強風に煽られて池に入ったボール、深いラフから奇跡的に脱出した一打、そして何より、150年の歴史を刻んできた同じコースを、同じ条件でプレーできたという特別感。
帰りの車中で感じたのは、「また必ず戻ってきたい」という強い想いでした。ロイヤル・バークデールは、ゴルフというスポーツが持つ奥深さと、英国が誇るスポーツマンシップを同時に教えてくれる、まさに「聖地」と呼ぶにふさわしいゴルフコースです。
次回イングランドを訪れる際は、ぜひ2日間の滞在を計画してみてください。1日目は緊張とともに、2日目は余裕を持ってラウンドすることで、このコースの真の魅力をより深く味わうことができるはずです。