世界最古のゴルフクラブが教えてくれた「格式」の重み
イングランド北西部のリザム・セント・アンズにあるロイヤル・リザム&セントアンズ ゴルフクラブ。1886年創設のこのクラブは、ただ古いだけではありません。全英オープンを10回以上開催し、タイガー・ウッズが2012年に優勝した舞台としても有名です。
しかし実際に訪れてみると、想像以上に「格式張った」雰囲気に驚かされます。予約なしでの飛び込みプレーは基本的に不可能で、ビジター料金は平日でも約150ポンド(約3万円)から。週末になると200ポンド(約4万円)を超えることも珍しくありません。
マンチェスター空港から車で約1時間30分、リバプールからは約45分の立地。電車利用の場合は、リバプール・セントラル駅からサウスポート駅まで約1時間、そこからタクシーで15分程度です。
「風が読めない」リンクスコースの洗礼とは?
アイリッシュ海に面したこのコースの最大の特徴は、容赦ない海風です。朝は穏やかだった風が、午後には突然強烈な横風に変わることも。地元のキャディさんは「1番ホールと18番ホールで全く違うゴルフをする覚悟が必要」と教えてくれました。
コース設計はジョージ・ロウによる原設計を、後にハリー・コルトが改修したもの。全長7,156ヤード、パー72の本格的なリンクスレイアウトです。特に7番ホール(パー4、458ヤード)は、海に向かって打つセカンドショットが名物。風向きによってはクラブ選択が3番手も変わる難易度の高いホールとして知られています。
砂丘に囲まれたフェアウェイは、夏でも意外なほど硬く、ボールが予想以上に転がります。初回プレーヤーの多くが「距離感が全く合わない」と苦戦するのは、この独特な芝質が原因です。
プロでも苦労する「ポットバンカー」の恐怖
このコースには147個ものバンカーが戦略的に配置されています。中でも恐れられているのが「ポットバンカー」と呼ばれる小さくて深い砂地獄。直径3メートル程度しかないのに、深さは2メートル近くもあります。
最も有名なのが17番ホール(パー5、563ヤード)のフェアウェイ中央にある「Road Hole Bunker」の愛称で親しまれるバンカー。2012年の全英オープンでは、優勝争いをしていた複数の選手がここで大叩きし、順位を大きく落としました。
地元メンバーによると「ポットバンカーに入ったら、まずピンを狙わず真横に出すのが鉄則」とのこと。実際、無理してピンを狙った結果、バンカーの壁に当たって戻ってくる光景を何度も目撃しました。プライドを捨てて横に出すのが、結果的にスコアアップの近道です。
知る人ぞ知る「19番ホール」の秘密って?
プレー後に必ず立ち寄りたいのが、クラブハウス内の「Champions Bar」。ここには歴代の全英オープン優勝者の写真やトロフィーのレプリカが展示されています。
しかし真の見どころは、バーカウンター奥の小さな部屋にある「メンバーズ・オンリー」の看板の向こう側。実はビジターでも、メンバーの紹介があれば入室可能で、そこには1886年のクラブ創設時から使われているオリジナルのスコアカードや、トム・ワトソンが1983年に優勝した際に使用したパターのレプリカなどが展示されています。
バーでは地元ランカシャー産の「Moorhouse’s Pride of Pendle」というエールが人気。プレー後の疲れを癒すには最適の一杯です。料金は1パイント約5ポンド(約1,000円)と、ロンドンと比べてもリーズナブル。
最後に待っている「意外な感動」とは?
18番ホール(パー4、386ヤード)を終えてクラブハウスに向かう途中、多くの人が足を止める場所があります。それが「Champion’s Wall」と呼ばれる石の記念碑です。
ここには1926年から現在まで、このコースで開催された全英オープンの全優勝者の名前が刻まれています。しかし注目すべきは、その横にひっそりと置かれた小さな銅製のプレート。そこには「In Memory of the Unknown Caddie」(無名のキャディへの追悼)という文字が刻まれています。
これは1960年代に、このコースで50年以上キャディを務めた地元の男性への敬意を表したもの。名前も記録も残っていませんが、「彼なしには多くの名プレーは生まれなかった」として、メンバーたちが自発的に設置したのです。
夕方のプレー後、アイリッシュ海に沈む夕日を眺めながらこのプレートを見つめていると、ゴルフというスポーツの奥深さを改めて感じさせられます。スコアカードの数字だけでは語れない、人と人とのつながりがこのコースには息づいているのです。
営業時間は夏季(4月〜10月)が午前7時から午後6時まで、冬季は午前8時から午後5時まで。予約は3ヶ月前から可能ですが、週末は2ヶ月前には埋まってしまうことがほとんど。平日であれば1週間前でも空きがある場合もあります。
格式高いコースではありますが、スタッフの対応は驚くほど親切で、初心者にも丁寧にルールやマナーを教えてくれます。ただし、ドレスコードは厳格で、ジーンズやスニーカーでの入場は不可。必ずゴルフシューズとポロシャツ、チノパンなどの準備が必要です。
一度プレーすれば、なぜこのコースが「ゴルフの聖地」と呼ばれるのか、きっと理解できるはずです。