「Keep Portland Weird(ポートランドの奇妙さを保とう)」という合言葉で知られるオレゴン州ポートランド。多くの観光ガイドでは触れられない、この街の真の魅力を知らずに帰る日本人観光客が実に多いのが現実です。表面的な観光地巡りだけでは、ポートランドの本当の顔は見えてきません。
なぜポートランドは「普通の観光」では物足りないのか?
ポートランドを訪れた多くの旅行者が「期待していたほどではなかった」と感じる理由があります。それは、この街の魅力が一般的な観光地とは全く異なる場所に隠されているからです。
例えば、パウエルズ・ブックスは確かに有名ですが、午前10時から午後11時まで営業するこの巨大書店で、地元の人々が実際に集まるのは2階の「レアブック・ルーム」。ここでは1920年代の旅行記や絶版になった料理本を手に取りながら、常連客同士が熱い議論を交わしています。観光客の多くは1階のメインフロアで満足してしまい、この知的な交流の場を見逃してしまうのです。
また、ポートランドのダウンタウンは確かにコンパクトですが、本当の魅力は各ネイバーフッド(地区)に散らばっています。路面電車やバスの1日券は5ドルで、これを使えば効率的に回れますが、多くの観光客は中心部だけで時間を使い切ってしまいます。
地元民が教えてくれた「本当に行くべき場所」とは?
現地在住のライターとして、地元の人々に愛され続けている場所をご紹介します。これらは大手観光サイトではほとんど言及されません。
フォレストパークは全米最大級の都市森林公園として知られていますが、その中でも「ピッチイ・ブロック・トレイル」は別格です。片道約45分のハイキングで到着する展望台からは、マウント・フッドとポートランド市街が一望できます。しかし、ここに辿り着く観光客は1日に数人程度。地元のランナーや犬の散歩をする人々との出会いが、旅の思い出を特別なものにしてくれます。
食事なら、ル・ピジョンのような高級レストランも良いのですが、地元民が本当に愛しているのは「Pok Pok」が閉店した今、ハット・ヤイというタイ料理店です。SE Division Street沿いにあるこの小さな店は、夜7時以降は必ず行列ができます。特に「カオソーイ」(12ドル)は、地元のフードライターたちが「西海岸最高」と評価する一品です。
「クラフトビール天国」の罠と本当の楽しみ方
ポートランドには70以上のブルワリーがありますが、観光客向けのツアーで訪れる場所と、地元民が通う場所は全く違います。
観光客に人気のデシューツ・ブルワリーは確かに美味しいのですが、真のビール通が足を運ぶのは「Culmination Brewing」や「Baerlic Brewing」といった小規模なブルワリーです。特にCulminationでは、醸造責任者のトムさんが時間があれば直接ビールについて語ってくれます。彼の説明を聞きながら飲むIPAの味は、単なる観光とは次元が違う体験になります。
また、多くのガイドブックが見落としているのが「グラウラー文化」です。グラウラーとは64オンス(約1.9リットル)の再利用可能なビール容器で、ほとんどのブルワリーで15-20ドルで販売しています。これを持参すれば、どこのブルワリーでも新鮮なビールを詰めてもらえ、ホテルや公園で楽しむことができます。
フードトラック巡りで失敗しない「プロの選び方」
ポートランドのフードトラックは600台以上ありますが、観光客が集中するダウンタウンの「Alder Street Food Cart Pod」は、実は地元民にはそれほど人気がありません。
本当に美味しいフードトラックは、Cartopia(SE 12th & Hawthorne)やHawthorne Asylum(SE 12th & Hawthorne)にあります。特にCartopiaの「Pyro Pizza」は、深夜2時まで営業しており、地元のバーテンダーや夜勤明けの人々で賑わっています。ピザ一枚8-12ドルで、生地は注文を受けてから伸ばすという本格派です。
意外な穴場として、平日の昼間に「PSU Farmers Market」(ポートランド州立大学で毎週土曜開催)の周辺に現れるフードトラックもおすすめです。学生価格を意識した良心的な値段設定で、質の高い料理が楽しめます。
買い物で絶対に見逃してはいけない「隠れた名店」
お土産選びで多くの観光客が失敗するのは、空港や観光地周辺のギフトショップだけで済ませてしまうことです。ポートランドらしさを本当に感じられる品物は、地元のクリエイターが直接販売している場所にあります。
Saturday Market(3月から12月の毎土日開催)では、地元のアーティストが直接作品を販売していますが、さらにディープなのが「First Thursday」というイベントです。毎月第1木曜日の夜、Pearl Districtのギャラリーが一斉にオープンし、アーティスト本人と直接会話できる貴重な機会となります。
また、Alberta Arts Districtにある「Ampersand Gallery & Fine Books」では、ポートランド在住の作家や詩人の自費出版本を購入できます。これらは他では絶対に手に入らない、真の意味でのオリジナル・ポートランド土産です。
交通手段の「賢い使い分け」で時間とお金を節約
ポートランドの公共交通機関は優秀ですが、使い方にコツがあります。多くの観光客が知らないのが「FareLess Square」というダウンタウン中心部の無料ゾーンの存在です(2024年現在は廃止されましたが、代わりに「Hop Fastpass」の1日券が効率的です)。
意外に便利なのが「Biketown」という自転車シェアリングサービス。30分4.95ドルで、ポートランドの平坦な地形を活かした移動が可能です。特にEastbank Esplanade沿いのサイクリングは、ウィラメット川越しに美しい市街地の景色を楽しめる隠れた名コースです。
天気に左右されない「雨の日限定」の楽しみ方
ポートランドの雨季(10月から4月)を避ける観光客が多いのですが、実は雨の日にしか体験できない魅力があります。
Ground Kontrol Classic Arcadeでは、1980年代から90年代のアーケードゲームが現役で稼働しており、地元の大学生や懐かしさを求める大人たちで賑わっています。入場料5ドルでゲームは25セント硬貨で楽しめ、雨音を聞きながらのレトロゲーミングは独特の魅力があります。
また、雨の日のワシントンパーク国際バラ園は観光客が激減しますが、雨に濡れたバラの香りは晴れた日とは全く違う深みがあります。園内のカフェで温かいコーヒーを飲みながら雨景色を眺める時間は、慌ただしい観光スケジュールの中での貴重な休息になります。
地元民が警告する「避けるべき時間帯と場所」
安全で快適な観光のために、地元の人々が実際に気をつけているポイントをお伝えします。
ダウンタウンのBurnside Bridge周辺は、夜10時以降は避けることをおすすめします。また、MAX Light Rail(路面電車)の最終便付近は酔客が多くなるため、夜9時以降の利用時は注意が必要です。
意外な落とし穴が週末の朝のブランチ待ち時間です。Screen DoorやTasty n Alderといった人気店では、土日の午前10時から午後2時まで1-2時間待ちが当たり前。平日の午前8時や午後3時以降なら、同じ料理をほぼ待ち時間なしで楽しめます。
帰国前に知っておきたい「ポートランド流の別れ方」
最後の夜には、地元の人々が愛する静かなスポットで旅を振り返ることをおすすめします。
Pittock Mansionの庭園から見る夜景は、昼間の観光地としての賑わいとは打って変わって、静寂に包まれた美しい眺めを提供してくれます。入場は無料(建物内部は11ドル)で、夜10時まで開放されています。
市街地なら、Tom McCall Waterfront Parkの河川敷で、対岸のイーストサイドの灯りを眺めながら過ごす時間も格別です。ここで地元の人々がジョギングや犬の散歩をする様子を見ていると、ポートランドの日常生活の一部を垣間見ることができます。
真のポートランド体験は、有名な観光地を巡ることではなく、この街の独特なライフスタイルと価値観に触れることにあります。次回訪れる時には、きっと「帰ってきた」という感覚を味わえるはずです。