スコットランドのセント・アンドリュースにあるオールド・タウン・ゴルフは、一見すると普通のパブリックゴルフコースに見えます。しかし実際に足を運んでみると、なぜ地元のゴルファーたちがこの場所について口を閉ざしがちなのか、その理由がよくわかるのです。今回は、このユニークなゴルフ体験の真実をお伝えします。
「え、ここがゴルフ場?」初回プレーヤーが必ず戸惑う理由
オールド・タウン・ゴルフは、セント・アンドリュース大学のすぐ近くに位置する9ホールのゴルフコースです。料金は平日で約15ポンド、週末でも20ポンド程度と、あの有名なオールド・コースと比べると驚くほどリーズナブル。しかし、初めて訪れる人は必ずと言っていいほど「本当にここがゴルフ場なの?」と戸惑います。
その理由は、コースが街の中心部を縫うように設計されているから。普通のゴルフ場のような広大な敷地はなく、古い石造りの建物や狭い道路に囲まれながらプレーすることになります。1番ホールから既に、隣の家の庭先すれすれにボールが飛んでいく光景を目の当たりにするでしょう。
営業時間と予約の落とし穴
営業時間は朝8時から夕方6時まで(冬季は5時まで)ですが、ここに大きな落とし穴があります。実は、地元の常連客たちが暗黙の了解で「お気に入りの時間帯」を独占している傾向があるのです。特に平日の朝9時から11時は、退職した地元住民たちの聖域とも言える時間帯。観光客が予約なしで飛び込んでも、なんとなく歓迎されない空気を感じることがあります。
プレー中に遭遇する「普通じゃない」出来事とは?
実際にプレーを始めると、このコースの真の個性が見えてきます。3番ホールでは、ティーショットの直後に古い石壁を越える必要があり、4番ホールでは実際に使われている公道を横切らなければなりません。地元の住民が犬の散歩をしている横でパターを打つなんて光景は、ここでは日常茶飯事です。
最も印象的なのは7番ホール。ここでは15世紀に建てられた教会の廃墟がハザードとして機能しています。歴史的建造物にボールが当たったらどうするのか?答えは簡単。「そのまま打つ」が地元ルールです。UNESCO世界遺産の街でゴルフをするというのは、こういうことなのだと実感させられます。
地元民だけが知る「隠しルール」
ここで地元のキャディーから聞いた話をひとつ。実は6番ホールのグリーン脇には、昔の修道院で使われていた古い井戸が残っているのです。観光客向けのガイドブックには載っていませんが、地元では「願いの井戸」と呼ばれ、パーを取った人だけがコインを投げ入れる慣習があるそうです。
「下手すぎて恥ずかしい」なんて心配は無用!その理由
オールド・タウン・ゴルフの最大の魅力のひとつは、「上達」よりも「体験」に重きを置いていることです。このコースの最短ホールは わずか65ヤード、最長でも180ヤードほど。ドライバーを振り回す必要はほとんどありません。
むしろ重要なのは、狭いスペースでの正確なショットと、何よりも周囲の環境を楽しむ心です。実際、私がプレーした日も、隣で回っていた地元の老紳士が「ナイスショット!」と声をかけてくれたのは、150ヤードのショットではなく、石壁すれすれに止まった30ヤードのアプローチでした。
プレー後の「ご褒美タイム」が本番?
9ホールを回り終えると、併設された小さなクラブハウスで地元のエールビールを味わうのが定番です。ここの「ゴルファーズ・パイ」(牛肉とポテトのパイ、約8ポンド)は絶品で、地元の羊飼いたちも足繁く通うほどの人気メニュー。プレー後の疲れた体に染み渡る美味しさです。
アクセスと意外な「時短テクニック」
セント・アンドリュース駅から徒歩約12分、バスを使えば5分程度でアクセス可能です。しかし地元民が教えてくれた裏ワザがあります。実は大学のキャンパス内を通って歩くと、わずか7分でクラブハウスに到着できるのです。学生たちに混じって石畳の中庭を歩いていると、まるで中世の学者になったような気分を味わえます。
ただし注意点がひとつ。大学の試験期間中(5月と12月)は、キャンパス内が慌ただしくなるため、素直に表通りを歩いた方が無難です。地元のタクシー運転手さんも「試験の時期は学生も神経質になっているからね」と苦笑いしていました。
レンタルクラブの「意外な正体」
クラブのレンタルは1セット10ポンドですが、ここで面白い発見がありました。貸し出されるクラブの多くは、実は地元住民が「もう使わなくなったから」と寄付したもの。中には1970年代製の貴重なヴィンテージクラブも混じっており、ゴルフ用具の歴史を肌で感じることができます。
本当の魅力は「ゴルフ以外」にあった?
プレーを重ねて気づいたのは、オールド・タウン・ゴルフの真価は「ゴルフ」そのものよりも、地域コミュニティとの触れ合いにあるということです。コースを歩いていると、犬の散歩をする近所の人々、ベンチで新聞を読むお年寄り、大学に向かう学生たちと自然に言葉を交わすことになります。
特に印象深かったのは、8番ホールで出会った地元の画家の女性との会話でした。彼女は毎日この場所でスケッチをしているそうで、「季節によって光の当たり方が変わるから、同じ風景でも毎日違う表情を見せてくれるのよ」と教えてくれました。観光客の私には見えていなかった、この場所の深い魅力を垣間見た瞬間でした。
地元民が隠したがる「本当の理由」
最初に触れた疑問、なぜ地元民がこの場所について積極的に語りたがらないのか。答えは単純でした。彼らはこの静かで親密な空間を大切に守りたいのです。決して排他的な理由ではなく、むしろ愛情の表れ。大勢の観光客が押し寄せて、この特別な雰囲気が失われることを心配しているのです。
でも安心してください。礼儀正しく、この場所の歴史と文化に敬意を払う訪問者なら、必ず温かく迎えられます。実際、私が帰る際には、最初は素っ気なかった受付のおじいさんが「また来なさいよ」と笑顔で手を振ってくれました。
オールド・タウン・ゴルフは、完璧なゴルフスコアを求める場所ではありません。しかし、ゴルフというスポーツの原点である「人と人、人と土地のつながり」を体感できる、世界でも稀有な場所なのです。セント・アンドリュースを訪れる際は、ぜひこの隠れた宝石のような体験を味わってみてください。